BEST DISC 2017

 

20. Loyle Carner 「Yesterday's Gone」

 

サウスロンドンベースのラッパー、Loyle Carnerのデビュー作。90sヒップホップ由来のジャジーなトラックに、低温度のストーリーテリングラップが乗っかった、ただただクールな一枚。

渋めの声で淡々とラップする感じはUKならではの雰囲気だけど、サウンド面ではオールドスクールなUS産ヒップホップからの影響を感じるのが興味深いところ。何気ない日常を綴ったリリックの生々しさや痛々しさなんかも今作が面白い要素の一つ。ここ数年はトラップの隆盛もあってサウンドもラップも正直区別がつかないというか、ラッパーとしての個性は二の次みたいな風潮があるけど、彼の存在は今後のシーンにかなり刺激的なんじゃないかと思いますね。

 

19. LCD Soundsystem 「american dream」

 

NYベースのJames Murphyが中心のバンド、LCD Soundsystemの7年振り通算4作目となる新作。本当に待ちに待ったアルバムを聴く時って軽く緊張しちゃうタイプなんだけど、彼らの新作を再生したらそんな感情なんかすぐ忘れて、勝手に体が動き出して気分は最高潮に!ファンがどういう音を求めてたかを完全に理解したダンスロックの極みのようなサウンド!一発でLCDだと分かるような、彼らにしか生み出せないオリジナルの音がそこかしこに散りばめられてて、それがもれなく反則的にカッコいいんだよな。長年活動を休止してたとは到底思えない現役感というか、ここにきて新たにここまでのクオリティの作品を出せるJamesのクリエイティビティには心底恐れ入りますね。フジロックはマジで最高だったな。

 

18. ヤなことそっとミュート 「BUBBLE」

 

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“ヤなことだらけの日常をそっとミュートしても何も解決しないんだけど、とりあえずロックサウンドに切ないメロディーを乗せて歌ってみる事にする。”をコンセプトに、音楽レーベル「クリムゾン印刷」より、オルタナティブロックサウンドに透明感のあるヴォーカルで話題沸騰中「ヤなことそっとミュート」の1st。ヤナミューの曲はただの00'sエモ・90'sメロコアとかのインスパイアや懐古に終わるものではないと思います。それらの際どい要素も入れながらみんな聴けそうな歌メロのいいストレートなポップスだったりシンプルにJ-ROCKのカテゴリでちゃんと通用する作曲のバランスや、それらを支えるメンバー4人の真っ直ぐでバランスのいい組み合わせの歌声なんかはアイドルという畑だからこそ作り得たアルバム、音楽だと感じます。

 

 

17. 花澤香菜  「Opportunity」

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正直に言いますと自分はアーティストとしての花澤香菜の"顔ファン"です。アニメのキャラソンから入ったのですが、彼女の出演するアニメを見るというわけでもないです。
しかし今作の花澤香菜の素晴らしいところは北川勝利の存在ではないでしょうか。北川勝利が様々なミュージシャンを集め、そこに素晴らしい楽器を合わせることで素晴らしい音楽が生まれ、花澤香菜の極めて音程の安定したボーカルが乗るのが快感でした。ビートルズ風のリズム、クラッシュ風のタテノリ4ビートに変換されたモータウン・シャッフル、表題曲に出て来るスティング風のギター・リフ、アル・グリーンの「レッツ・ステイ・トゥギャザー」(メンフィス・ソウル)のオマージュ、スライ風ファンクなどなどニヤけっぱなしなネタが今作は豊富なのもよかったですね。

 

17.John Mayer  「The Search for Everything」

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極めてスタイリッシュに纏め上げられたプロダクション。その中でジョン・メイヤーらしいギターワークが光りまくるという、約3年半ぶりのアルバム。軽やかでキャッチーな響きとは裏腹に製作は難航したらしく、1月にガイダンス的な先行4曲を収録したEPを、次いで2月にもう4曲の『The Search for Everything: Wave Two』を順次発表し、今回のフルアルバムに至ったという経緯がある。アメリカーナ/ルーツ・ロック色の強いサウンドに傾倒していた前作から一転して、ジョン・メイヤーの新たなコンテンポラリー・ソングとして結実している。このポップな響きの裏側には、どれだけの執念が渦巻いていたのだろう。一貫して失恋をテーマにした感傷的な作品ではあるけれども、ただ感傷の海に溺れることなく、アーティストとしてのジョン・メイヤーと生活者としてのジョン・メイヤーが足並みを揃えて新しい景色の中に踏み出してゆく姿が感動的だ。

 

16. Jay-Z 「4:44」

 

ヒップホップ界のドン、Jay-Zの通算13作目となる新作。Beyoncéの去年の傑作「Lemonade」の中で浮気をしていたことが発覚した彼が、それを受けてかなり正直に明け透けに語ったような内容になってます。

個人的にこの作品を評価したい理由は、プロデューサーをNo I.D.ただ一人に絞っているというところ。70sのソウルを中心に渋いネタ使いのオールドスクールなヒップホップを敢えてこの時代にぶつけてきた感じが実に痛快でした。数多くのゲストやプロデューサーを招かなくても、これだけ完成度の高いコンセプチュアルな作品が作れるんだと、レジェンドが自ら示してくれてるようでなんだか嬉しかったな。

 

15. FKJ 「French Kiwi Juice」

 

フランス出身のマルチミュージシャン、FKJのデビュー作。エレクトロ、R&B、ジャズ、ファンクが友人以上親友未満ぐらいの絶妙な距離感で存在してて、とろけるようにグルーヴィーなサウンドはもうこれ以上ないってくらい洗練されてました。

ギターもベースもドラムもピアノもサックスもターンテーブルも、全ての楽器を一流の腕前でサラッとこなしてしまう圧倒的な才能。加えて、聴く人みんなの身体を揺らしてしまう抜群のミュージックセンスまで持ち合わせてるって、天は彼に何物を与えれば気が済むんだろう?なんて思ったり。来日公演行きたかったな。

 

14. Yaeji 「EP / EP2」

 

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NYと韓国ソウルを拠点に活動しているアーティスト、YaejiのEP。個性的なウィスパーボイスのリフレインがなんともクセになる感じで、気付いたらもう彼女の虜でした。20分弱のボリュームなんだけど、人を中毒症状にするには十分な魔力を持ったハウス~R&Bエレクトロニカ。コケティッシュな声もコリアン×イングリッシュな耳障りも、全てがアディクティヴで素晴らしい。90sディープハウスから10年代チルウェイブまでを通過した、今までにありそうでなかった響き。今年のK-POPシーンは豊作の去年に比べるとトーンダウン気味でした、SSWやラッパーたちは安定していた印象です。韓国の音楽シーンはこういった若い逸材がごろごろおるなと改めて感じましたね。

 

13. わーすた (The World Standard)「パラドックス ワールド」

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毎年お騒がせしております。忖度下さいませ。今年もxxbootststrapxx渾身のオタク枠。わーすたの曲は、ちょっと変わってる、コミカルな曲が多い、いぬねこ、にゃんにゃん、なイメージが強いんですが、実は正統派な楽曲が多いです。そして、ユニゾン(合唱)が中心のアイドル楽曲は、曲がよくても歌は没個性的というのがほとんどです。わーすたに限らず、アイドル楽曲のヘヴィリスナーな僕でも曲がよいと思うことはあっても、歌がいいと思うことはほとんどありません。最近で歌も含めて「これはすごい」って思ったのは、欅坂46の『二人セゾン』くらいです。わーすたの強みは曲もありますが最大の強みはツインボーカルだと思ってます。今作は「歌」にフォーカスしたツインボーカルの曲が抜群によかった気がします。長年彼女たちのオタクをやっている身としては、聞いているだけで涙があふれそうになる瞬間がこの2ndアルバムには沢山詰まっていて、彼女たちの成長と期待値を感じることのできる大好きな一枚でした。

 

12. Cigarettes After Sex 「Cigarettes After Sex」

 

ブルックリンベースの4人組グループ、Cigarettes After Sexのデビュー作。これまでリリースしてきたEP群の圧倒的なクオリティそのままに、今作もグループ名を体現するアダルトな仕上がりに。程良い高揚感と倦怠感が交互に押し寄せるドリーミーなサウンドは、ひたすらに美しくロマンティックで深い世界観。聴き終わった耳に残るのは、まだ生温かい体の熱や匂いといった類の何か。黒で統一されたビジュアルイメージも、無駄なものを一切排除したシンプルな作りで素晴らしい。夜の深い時間にこれほどまでにマッチするアルバムはそうそう出会えないと思う。

 

11. Dirty ProjectorsDirty Projectors

 

NYブルックリンベースのバンド、Dirty ProjectorsがDavidのソロプロジェクトとなって初めての新作。去年のベスト作の一つであるSolangeの作品に大きく関わっていたこともあってか、最近のオルタナR&Bの緩急のある流れを的確に捉えて、それを彼の独特のセンスを生かした唯一無二のサウンドに昇華させてるのがとにかく見事。

音の構造とかリズムの組み立て方方の凄まじさはもう異常とも言えるレベル。聴く度に新たな発見があるので未だに全然聴き飽きない驚異の一枚。これまでのサウンドが好きな人は困惑するかもしれないけど、自分はこの変化は断固として支持します。

 

10. Vince Staples 「Big Fish Theory」

 

カリフォルニアはロングビーチ出身のラッパー、Vince Staplesの2作目となる新作。前作同様スリリングなヒップホップトラックが並んでると思いきや、いきなりデトロイトテクノ調で楽曲で始まりブッ飛ばされる!その後もSophieやFlumeといった鋭利な感覚の持ち主たちによるアグレッシブなトラック群が展開されるなど、もう何もかもが新感覚のサウンドでお手上げ状態。そんなカオスな空気感をクールに乗りこなすVinceのラップのカッコ良さったら!とりあえず何か凄いものを聴いてるなという感覚だけが残って一瞬で聴き終わってしまいました。

何度咀嚼しようとしても何かザラザラしたものが残るというか、結局一年通して噛み続けても味が無くなることはありませんでしたね。

 

9. The xx 「I See You」

 

 

ロンドンベースの3人組バンド、The xxの通算3作目となる新作。これまでになく自由で開放的で吹っ切れたような印象の今回のアルバム。彼らのダウナーなカラーは残しつつ、許される範囲ギリギリの絶妙なラインでポップフィールドに足を踏み入れている感じ。3人が色んな場所を旅し、色んな音楽を聴いて吸収して楽しみながら制作したのがとてもよく分かるサウンドに。

もちろん一昨年のJamie xxのソロ作があったから生まれたアルバムなんだけど、The xxをThe xxたらしめているのは紛れもなくこの2人の声の存在なんだなと改めて感じる素晴らしい作品でした。今振り返ると2017年のスタートは彼らのこのアルバムで、結局今年一年のカラーを決定づけたのもこのアルバムな気がします。

 

8. For Tracy Hyde 「he(r)art」

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テン年代のドリームポップバンド通称"フォトハイ"の「都会」をテーマに掲げた2ndアルバム。時に甘く、時にひんやりとした、思わず浸りたくなる絶妙な味わいのドリーム・ポップが全17曲を通して鳴っていて、コケティッシュに舞う女性ヴォーカルもいい塩梅の哀愁を放つ。"Echo Park"の声の張り方なんて、淡く煌めくギターの音と相性抜群!浮遊感たっぷりでダビーに聴かせる"アフターダーク"もたまらない。今の東京に新しい色を付けてくれる一枚。その意味では今作はシティポップの範疇と言えるかもしれませんが、昨今の国内インディの流行とは趣を異としていることが、一聴すればすぐに感じられると思います。個人的には中心の女性ヴォーカルが、前作の時にも感じたように少々無表情すぎる気がするのですが、ここまで質量ともに振り切れて夢見心地だとなんだか力技で押し切られたような、もはや降参せざるを得ないという気持ちになる。まるで執念にも似た美しさへの特化。もうぼちぼち売れてもいいでしょ。

 

7. KOJOE 「here」

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日本語ラップ・シーン最高峰のラッパー、KOJOEの4年半ぶりとなる新作。近年続いたOlive Oilやアーロン・チューライとの共作などにおける端正な作風は両者のトラック提供を含めて引き継ぎつつ、よりストレートなヒップホップ路線を鮮やかに打ち出している。“King Song”はドラマティックなトラック展開と前のめりなラップが幕開けにバッチリとハマってた。Dusty HuskyとCampanellaの援護射撃にツバ飛ばし応える“Smiles Davis”、ISSUGIとサシで向き合った“PenDrop”を経て、OMSB、PETZ、YUKSTA-ILL、SOCKS、Miles Word、BESとマイクを回す“Prodigy”が前半の山場。以降もFEBB×MUD(KANDYTOWN)、Ace Hashimoto×5lackらが続く客演絡みの極めつけは“Boss Run DeM”。厳かなコーラス使いのKOJOEのオケに、AkaneとAwichが堂々たるラガ・フロウで渡り合う。起伏に富んだ構成に持ち前のスキルと幅をバランスよく溶かし込んだ一作。

 

6. Toro y Moi 「Boo Boo」

 

サウスカロライナ州出身のアーティスト、Chaz Bundickによるソロ・プロジェクト、Toro y Moiの通算5作目となる新作。

80sフレイバーと90sバイブスに00s以降のトレンドを絶妙な配合でブレンドさせた悶絶気持ちいいレトロモダンソウル。懐かしさと新しさがパーフェクトなバランスなんだよな。音楽的にはもちろん、ファッションや映像的な意味でもそのセンスを完全に信頼しきってる人が自分の中で3人いて、Dev Hynes、Robin Hannibal、そしてToro y Moi。

何もかもが完璧に自分のツボを押しにくる感じで、この夏一番のサウンドトラックになりました。

 

 

5. Julien Baker 「Turn Out the Lights」

 

テネシー州出身の女性SSW、Julien Bakerの2ndアルバム。痛々しいほど真っ直ぐで無防備、悲しいくらい剥き出しの声や歌詞、ピアノやギター中心の極シンプルなフォーク・ロック。

自分が同性愛者であることや家庭の問題で心の内に溜まっていった孤独感を、歌うことで吐き出していた彼女。圧倒的な美しさと何かを伝えようとする力がダイレクトに突き刺さってくる感じ。どこまでも伸びていきそうな、ただ美しいだけじゃない何かが宿った歌声はまさに圧巻!

 

 

4. Kendrick Lamar 「DAMN.」

 

コンプトン出身のラッパー、Kendrick Lamarの通算4作目となる新作。

前作で極限まで上がったハードルの上に立ち高みの見物を決め込んだような印象の今作。自分を攻撃してくる相手を返り討ちにするキレ味抜群のラップの迫力はやはり圧巻!お馴染みの制作陣に加えて、James BlakeやKAYTRANADA、Steve Lacyなどの若手を起用していて、それぞれのカラーが上手いこと出されたトラック群のクオリティの高さもとてつもないレベル。間違いなく進化、いや深化、いやいや神化してますよね彼は。前3作品とはまた全く違うベクトルで自分の圧倒的な才能を見せれるあたりが、この人が王者として君臨している理由なんだと思いますね。

 

3. Moonchild 「Voyager」

 

LAベースの3人組グループ、Moonchildの通算3作目となる新作。近年再評価の波が来ているいわゆるネオソウルサウンドの代表格とも言える彼ら。

今作でも柔らかいボーカルと程よく都会的でジャジーなR&B~ソウルが溶け合った極上のサウンドを作り上げてます。再生した瞬間から自分の中の一切の負の感情が消え去っていくのが分かるというか。何から何まで洗練されつくした最上級の癒しの響き。

あまりにも気持ち良いので色んなものがどうでもよくなって他に何も出来なくなってしまうという弱点も(笑)マジで永遠に聴いていられる。

 

 

 

 

2. King Krule 「The OOZ」

 

ロンドンベースのアーティスト、King Kruleの2ndアルバム。

Archy Marshall名義のアルバムをはさみ、約4年振りにドロップされた今作を最初に聞いた時に受けた衝撃は今でも鮮明に覚えてる。ジャズの匂いが煙たく立ち込めた、60sナイトクラブな質感のポストロック~インダストリアル・ソウル。

痺れる程にディープでカオスなサウンドテクスチャー。さらっと加わるサックスやピアノの音色の格好良さったらもう・・・。何かとんでもないものを聴いてるという感覚。どんな生き方をすれば23歳でこんなとてつもないアルバムが作れるんだろう?凄すぎる!ヤバすぎる! やっぱりKing Krule天才。強い。

 

1. PUNPEE「Modern Times」

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PUNPEEはすごい。これはヒップホップ界隈に片足だけ突っ込んでる自分でも分かる。一般人にも伝わる。だからこそPUNPEEのクリエイションは、フジテレビへフジロックへ、加山へ宇多田へ、ジャンルの外へ外へと向かうのだろうか。

今作は待望の1stということもあってPUNPEEのパーソナルな部分がだいぶ内在していた。大事なメッセージとかはだいたい「コミックや映画に書いてある」みたいな内容でとにかくコミックと映画の引用がパッチワークのように出て来る。ヒップホップを引用しないからこそ、オリジナリティだったり、我々にもドンピシャで通ずる普遍性が出てしまう、というのが新しくてめちゃくちゃ面白い。全編通して聴くと一つの映画を見終わったような感覚にさせる遊び心もセンスが良過ぎてもうね。

映画監督になりたくて、暇なレンタル屋でバイトしながらひたすら映画を見まくり、アメコミが好きで、ヒップホップが好きな青年が、その全てをごちゃ混ぜにしながら、一つのアルバムという形式にまとめあげた。その手腕が素晴らしいと思うしそしてもう一つ言えるのは、裏方として活躍し、自分のアルバムを出していない稀有なラッパーというキャリアの全てに意味があったと言えるアルバムになっている点も特筆すべき点だろう。プロデューサーを経験していたから、自分をどう配置するのかが見えたのだろうし、客演を数多くやったから、誰をどこに入れるかが自然に見えたのだろう。

2017年一番聴いたということで1位にしてみたけど今年を象徴する様な大傑作なことは間違いなくて40年後もきっとOldiesとしてずっと聴かれているんだろうなって思う。

「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」

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2年ぶりの新作、『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』。
今年は何かと「最後の」が付くタイトルが多い気がするが、これは邦題でもなんでもなく、正真正銘『The Last Jedi』。何をもって「最後」なのか、それは一体誰を指すのか。実際に鑑賞してみると、非常に意味深なタイトルだったと身体に沁みてくる。

前作『フォースの覚醒』は、ディズニーが旗頭となって製作された10年ぶりの新作であり、そのクオリティについて全世界のファンが病的なまでに神経質になりながら注目していた感覚がある。
蓋を開けてみると、大まかなストーリーラインはシリーズ1作目『新たなる希望』を踏襲しながらも、シリーズファンへの目配せと、新しいキャラクターの魅力を、これ以上ないバランスで両立させた作品だったと言えるだろう。
しかも、単純明快にエンターテインメント作品として「面白い!」点がずば抜けており、老若男女がハラハラドキドキしながら楽しめるSF超大作として、私自身も映画館に通って何度も楽しんだお気に入りの一作だ。

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続いて、「旧三部作」「新三部作」に続く「続三部作」(と、ファンの間ではよく表現されている)の2作目、つまり、『帝国の逆襲』『クローンの攻撃』に相当する位置づけとして公開されたのが、本作『最後のジェダイ』である。
『フォースの覚醒』のほぼ直後から始まる物語で、レイは伝説のジェダイ・ルークに師事しながら己の運命と向き合い、対する暗黒面のカイロ・レンもまた光の誘惑と戦い、一方でレジスタンスは過酷な撤退戦を強いられる物語となっている。

率直な感想として、万人が好むであろうエンターテインメントとしての性格は、『フォースの覚醒』よりいくらか劣ると感じた。というより、これはむしろ、そのベクトルだと『フォースの覚醒』が「できすぎ」だったなと、今更ながらに痛感した面もある。

では、『最後のジェダイ』が持ってきたアプローチとは、果たして何だったのか。



※以下、映画本編のネタバレあり。


結論から挙げてしまうと、本作の肝はついに明かされた主人公・レイの出自にある。
前作『フォースの覚醒』では「砂漠の惑星でずっと誰かを待っている」「置き去りにされて去っていく船を見上げた過去がある」という断片的な情報のみが描かれ、その真相そのものは全く提示されなかった。
しかし、並々ならぬフォースの素養があるなど、その出自にはどこか「ただ者ではない」という雰囲気が漂っていた。私を含む多くのファンが、まずは安直に「ルークの娘では?」と予想を頭に浮かべては打ち消し、その後様々な想像を膨らませたことだろう。

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というのも、『スター・ウォーズ』と「血統」という要素は、これまで絶対に切っても切り離せなかった。
この壮大なサーガが「何の物語なのか」というのは度々議論される部分であるが、「アナキンの物語」であろうと、「ルークの物語」であろうと、そこには絶対的に「血統」もしくは「家族」というキーワードがあった。暗黒面に堕ちたダース・ベイダーは、最後の最後に息子を助け、その命を散らせる。そのゴールがあるからこそ、アナキンが闇に傾倒していく様にも一縷の光が残る。
「スカイウォーカー家」の、呪われた、しかし希望が垣間見えるその運命の螺旋が、『スター・ウォーズ』という世界観に縦筋を設けていた。

しかし、続く「続三部作」の主人公・レイは、その血統から外れることとなった。
スカイウォーカーでないばかりか、過去のどの登場人物とも関係ない、砂漠の星に住む名も無き登場人物の子供。しかも、あろうことか親に売られ、置き去りにされてしまった。

これはつまり、『スター・ウォーズ』という壮大な銀河の歴史絵巻に通っていた一本の筋を放棄する設定とも言える。
本作『最後のジェダイ』をもって、『スター・ウォーズ』は、「スカイウォーカーの物語」でも、ましては「血統の物語」でもなくなったのだ。
では一体、「何の物語」なのか。

これはエンドロール直前の少年が端的にそのテーマを体現している。
つまりは、「誰の物語でもない」ことが「物語」である、もっと言うと、皆が主人公であり、皆がフォースと共にあり、皆に各々の運命が待ち受けているという、非常に普遍的なテーマに帰結するのではないか、と思うのだ。
壮大な銀河の叙事詩の中で、『スター・ウォーズ』とはこれまで「スカイウォーカー家の視点から捉えた物語」だったが、これを更にもう一歩俯瞰する視点を提示したのが、本作『最後のジェダイ』なのである。

レイがスカイウォーカー家と何も関係なかったように、そして、最後の少年がまるでライトセーバーを構えるように夜空を見上げるように、我々は全員が主人公であり、個々に「物語」を持っている。
スター・ウォーズ』というフィクション世界が「ひとつの血統の視点」を脱却したことで、相対的に、登場人物全員がその銀河の主人公であるという価値観が誕生したのだ。

そうして、「スカイウォーカー家の物語」に深く関わっていた人物は次々とその歴史を畳んでいく。ハン・ソロが死に、ルークは逝き、双方の属性を併せ持つ旧三部作の結集のような存在ことカイロ・レンは決定的に暗黒面に堕ちていく。
旧三部作の要素が次々と畳まれていく一方で、同時に展開されるのは、「スカイウォーカーの血統」でもなく、「新たな家系の物語」でもなく、「誰でもない誰か」の物語なのだ。そう考えると、昨年公開の『ローグ・ワン』も、まさに「誰でもない誰か」の物語だったと言えるだろう。

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この普遍的なテーマ、つまりは、全世界の誰もがその物語の視点に立つことを積極的に許すアプローチは、ディズニーが世界中から愛されながらはるか昔から用いてきた姿勢とも言える。
本作『最後のジェダイ』をもって、『スター・ウォーズ』は晴れて「みんなのもの」になった。レイの物語でも、フィンの物語でも、ポーの物語でも、それを観ている私の物語でも、これを読んでいる貴方の物語でもある。そこに、限定されるべき「家系」も「血統」も、存在しない。

だからこそ、現実は過酷だ。
「主人公家系」のような絶対的な「軸」が無くなったからこそ、レジスタンスはそのルークを持ってしてもファースト・オーダーを撃退することはできない。戦略的撤退が関の山である。
スター・ウォーズ』が「血統」を脱し個々に帰属する物語になったのならば、その「個々」が集結して巨悪に立ち向かうしかなく、それはつまり文字通りの「レジスタンス」であるとも言える。愚直なまでにストレートな「みんなで」というメッセージは、これも全世界のエンターテインメントの頂点に鎮座するディズニーの十八番だろう。

しかしこの普遍的なテーマは、ジョージ・ルーカスが作ってきた『スター・ウォーズ』に対するディズニーの解答でもある。もっと乱暴な言い方をすると、「こっちは2010年代にスター・ウォーズを作ってるんだよ!不服なら過去作を永遠に見てろ!」である。
まぁ『最後のジェダイ』は、「ルーカスが作ってきた『スター・ウォーズ』」を懸命に崇めたまま葬るような作品であり、作中におけるルークの死はそのひとつの象徴とも言えるだろう。「どうぞご勇退ください」という案内板を、こともあろうかルーカスに向けて掲げたような印象すらある。「あなたの作ってきたサーガはこうやって終わっていきますからね」、と。

しかし、考えてみれば、アナキンだってその昔は「誰でも」なかったのだ。
長年その出自は噂されてきて、ミディ・クロリアンから生まれたのではなどとも言われてきたが、『最後のジェダイ』におけるレイを思うと、彼も実は思わせぶりだっただけで単なる辺境で父を亡くした少年だったのかもしれない、とも思えてくる。
もちろん真相は闇の中だろう。が、「誰でもなかった」少年がクワイ・ガンにその才覚を見出され、フォースを身に着け、銀河の光と闇のバランスを担う存在になる。そうして、「そこ」から、「スカイウォーカー家」の物語は始まったのだ。
言い換えれば、『スター・ウォーズ』の過去6作は、たまたま、スカイウォーカー家の物語に視点が合っていただけの話 ・・・なのかもしれない。「ここ」から、また新たな視点が幕を開ける、のかもしれないのだ。
それこそ、「遠い昔、遥か銀河の彼方で」の本懐だろう。

そう考えてしまうと、『最後のジェダイ』は、新しいアプローチを持ってきつつも過去6作とテーマを円環構造にして帳尻を合わせるというウルトラCに挑戦した野心作、だったとも、言えるのではないだろうか。

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まあ、「フィンとローズの作戦は最終的に完全失敗だったのにそこに当てた尺が長すぎるのでは」とか「レイアの後任のホルド提督は輸送船で脱出する作戦を皆にあらかじめ周知しておけば良かったのでは」とか、色々、「ええ!??」となるところは、正直少なくなかった。
やはり『フォースの覚醒』に比べて、その辺りの交通整理というか話運びのスマートさは、いくらか劣っていたと言わざるを得ない。
しかし、仲間を逃がすためにファースト・オーダーの圧倒的兵力に単身で立ち向かう伝説の老兵=ルーク・スカイウォーカーという、あまりにも強烈すぎる絵面を提供されてしまっては、頭が上がらないのも事実である。あの一連のカットの「圧」は、やはり尋常ではなかった。

結論として。
普遍的テーマへのアプローチは、やはり『スター・ウォーズ』という歴史の中では革新的であり、そこへの挑戦や野心という点で、私はこの『最後のジェダイ』を支持したい。以上。


BEST DISC 2016

 25. 황문섭 - Louie(루이)

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24. Family Dinner Volume Two - Snarky Puppy

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23. HIBERNATION - Immanu El

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22. Sirens - Nicolas Jaar

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21. Fantôme - 宇多田ヒカル

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20. Sorceress - Opeth

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19. Aa - Baauer

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18. Sing Street - OST

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17. Blackstar - David Bowie

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16. 20世紀の逆襲 - 上坂すみれ

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15. YONCALLA - Yumi Zouma

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14. 東京絶景 - 吉澤嘉代子

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13. Velvet Portraits - Terrace Martin

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12. Paradise - White Lung

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11. Coloring Book - Chance the Rapper

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10. SO YOUNG - LONGMAN

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9. SKIPTRACING - Mild High Club

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8. Walkure Trap! - ワルキューレ

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7. Mangy Love - Cass McCombs

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6. Light Upon the Lake - Whitney

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5. A Seat at the Table - Solange

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4. Pushin' - STUTS

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3. You & I - Jeff Buckley

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2. PHANTASIA - ザ・なつやすみバンド

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 1. 22, A MILLION - Bon Iver

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