『イノベーションのジレンマ』   クレイトン・クリステンセン 著

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

 
【所感】
3年ぶりに再読。
イノベーション といったところで、煮詰まったので、クリステンセン先生の教えてもらおうと再読。
・今、気づいたけど、原題は、The Innovator's Dilemmaだって。
・業界のトップ企業が優秀であるからこそ、破壊的イノベーションに対応できない、というメカニズムを解明し、破壊的イノベーションにみられる緒法則から、その調和こそが、破壊的イノベーションへの対応可能性を向上させるという本。
・経営とかマーケティングとか、いろいろな本が出てるけど、本書を読まないと、全てが活きないというか、全ての経営書の大元になる一冊。


 
【気になったところの抜粋】

<序章>
・業界をリードしていた企業が、ある種の市場や技術の変化に直面したとき、図らずもその地位を守ることに失敗する話
・すぐれた経営が失敗につながる理由
   1.持続的技術と破壊的技術(低価格、シンプル、小型、使い勝手がよい)
   2・市場の需要の軌跡と技術革新の軌跡
   3.破壊的技術と合理的な投資
・優良企業の破壊的イノベーションの法則との調和
   1.企業は顧客と投資家に資源を依存している
   2.小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない
   3.存在しない市場は分析できない
   4.組織の能力は無能力の決定的要因になる
   5.技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない

<第1部 優良企業が失敗する理由>
<第 1章 なぜ優良企業が失敗するのか − ハードディスク業界に見るその理由>
・持続的イノベーションを繰り返す優良企業とは、誰になるのか?
・優良企業の持続的イノベーション と その失敗 ← 既存顧客の呪縛
           → 破壊的イノベーション ← 初期顧客

<第 2章 バリュー・ネットワークとイノベーションへの刺激>
・優良企業が技術革新に直面して失敗する理由
   ①組織とマネジメントにみる失敗の理由
   ②能力と抜本的な技術にみる失敗の理由
   ③バリュー・ネットワークと失敗の原因に関する新しい見方 ← ここがミソ
 
・バリュー・ネットワークの理論がイノベーションに対して持つ意味
 
①性能指標の順位付け と コスト構造
企業が競争する環境、つまり、バリュー・ネットワークは、イノベーションを妨げる技術的、組織的障害を克服するために必要な資源や能力を集約する能力にはっきりと影響を与える。バリュー・ネットワークの境界を定めるのは、製品の性能に対する独自の評価である。つまり、周知の業界の最終利用システムで採用されている性能指標とはまったく別の、いくつかの性能指標の順位付けによって決まる。バリュー・ネットワークを定めるもうひとつの要因は、ネットワーク内の顧客ニーズへの対応にともなうコスト構造である。
 
②既存企業は既存のバリュー・ネットワークを優先する
イノベーションへの努力が商業的に成功するかどうかを決定する重要な要因は、バリュー・ネットワーク内の関係者のニーズにどこまで対応するかである。既存企業は、アーキテクチャーの革新であれ構成部品の革新であれ、みずからのバリューネットワーク内のニーズに応えるあらゆる種類のイノベーションを、技術的な性質や難度にかかわりなく率先して進める傾向にある。これらは単純なイノベーションであり、その価値や用途はあきらかだ。一方、新しいバリュー・ネットワークの顧客ニーズにしか応えない技術革新では、技術的に単純なものであろうと、既存企業のほうが遅れをとる傾向にある。破壊的イノベーションが複雑なのは、既存企業の基準に照らしてみた場合、その価値や用途が不透明だからである。
 

実績ある企業が、顧客ニーズに応えない技術を無視しようと決めたことは、二つの異なる軌跡が交わったときに致命的な結果を招く。一方は、ある技術のパラダイムの中で技術者が提供できる性能の軌跡である。技術によって実現できる性能向上の軌跡は、下位のバリュー・ネットワーク内の顧客が最終利用システムに対して求める性能向上の軌跡とは、あきらかに傾きが異なる。これらの二つの軌跡の傾きが近ければ、その技術は、概ね当初のバリュー・ネットワークのなかにとどまると考えられる。しかし、傾きが異なる場合、当初は新しいバリュー・ネットワーク、あるいは商業的にかけ離れたバリュー・ネットワークのなかだけで性能競争力を持っていた新技術が、ほかのネットワークに侵食してくる可能性が有り、新しいネットワークのイノベーターにとって、既存のネットワークを攻撃する手段になる。このような攻撃が起きるのは、技術の進歩によって、二つのバリュー・ネットワーク間の性能指標の順位付けに違いがなくなるためである。
 

確立された技術の軌跡における進歩の水準、速度、方向などを破壊し、塗り替えるようなイノベーション(たいていは、技術的にはほとんど新しさのない新しい製品アーキテクチャー)については、実績ある企業より新規参入企業のほうに攻撃者としての優位性がある。このような技術の商品化で、実績ある企業が優位にたつ唯一の方法は、その技術が勝ちを生み出せるバリュー・ネットワークに参入することである。リチャード・テドローが米国の小売業の歴史(そこでは、スーパーマーケットとディスカウント・ストアが破壊的技術に相当する)に関して書いているように、「実績ある企業が直面する最も強固な障壁は、企業自身がそこで入りたくないと考えていること」である。
 

このような場合、この「攻撃者の優位」が破壊的イノベーションに関連していることはたしかだが、攻撃者優位の本質は、既存企業より新規参入企業のほうが、新しい用途の市場、つまり新しいバリュー・ネットワークを攻撃し、開発するための戦略を見極め、立案しやすいことにある。従って、本質的な問題は、実績ある企業が新規参入企業に比べて、いかに柔軟に技術でなく戦略とコスト構造を革新できるかであろう。

<第 4章 登れるが、降りられない>
・バリュー・ネットワークと一般的なコスト構造
・資源配分と上位への移行
・バリュー・ネットワークと市場の可能性

<第2部 破壊的イノベーションへの対応>
・組織の性質に関する5つの基本原則
   1.資源の依存。優良企業の資源配分のパターンは、実質的に、顧客が支配している。
   2.小規模な市場は、大企業の成長需要を解決しない。
   3.破壊的技術の最終的な用途は事前にはわからない。失敗は成功への一歩である。
   4.組織の能力は、組織内の人材の能力とは関係なく、そのプロセスと価値基準にある。
     現在の事業モデルの核となる能力を生み出すプロセスと価値基準が、
     実は破壊的技術に直面したときに、無能力の決定的要因になる。
   5.技術の供給は市場の需要と一致しないことがある。
     確立された市場では魅力のない破壊的技術の特徴が、新しい市場では大きな価値を生むことがある。
・成功した経営者は、
1.適切な顧客 : 破壊的技術を開発し、商品化するプロジェクトを、それを必要とする顧客を持つ組織に組み込んだ。経営者が破壊的イノベーションを「適切な」顧客に結びつけると、顧客の需要により、イノベーションに必要な資源が集まる可能性が高くなる。

2.小さな組織 : 破壊的技術を開発するプロジェクトを、小さな機会や小さな勝利にも前向きになれる小さな組織に任せた。

3.試行錯誤 : 破壊的技術の市場を探る過程で、失敗を早い段階にわずかな犠牲でとどめるよう計画を立てた。市場は、試行錯誤の繰り返しのなかで形成されていくものであると知っていた。

4.新しい価値基準やコスト構造 : 破壊的技術に取り組むために、主流組織の資源の一部は利用するが、主流組織のプロセスや価値基準は利用しないように注意した。組織のなかに、破壊的技術に適した価値基準やコスト構造を持つ違ったやり方を作り出した。

5.新しい市場 : 破壊的技術を商品化する際は、破壊的製品を主流市場の持続的技術として売り出すのではなく、破壊的商品の特徴が評価される新しい市場を見つけるか、開拓した。

<第 5章 破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる>
イノベーションと資源配分
・破壊的技術と資源依存の理論

<第 6章 組織の規模を市場の規模に合わせる>
・持続的技術におけるリーダーシップは重要とはかぎらない
 破壊的技術におけるリーダーシップは莫大な価値を生む
・企業の規模と破壊的技術のリーダーシップ
  事例研究 新しい市場の成長率を押し上げる  アップル アップルⅡ・ニュートンの事例
  事例研究 市場がうまみのある規模に拡大するまで待つ
  事例研究 小規模な組織に小さなチャンスを与える

<第 7章 新しい成長市場を見出す>
・持続的技術と破壊的技術の市場予測
・ホンダの北米オートバイ業界への進出
・実績ある企業による予測と下方移動は不可能
・アイディアの失敗と事業の失敗
・アイディアの失敗とマネージャーの失敗
・学習のための計画と実行のための計画 「不可知論的マーケティング

<第 8章 組織のできること、できないことを評価する方法>
・組織の能力の枠組み  資源・プロセス・価値基準
   資源−プロセス−価値基準の枠組みと持続的・破壊的技術における成功との関係
   能力の移行
・変化に対応する能力を生み出す
   買収による能力の獲得
   新しい能力を内部で生み出す
   スピンアウト組織によって能力を生み出す
   図8.1 イノベーションの条件と組織の能力の適合性

第 9章 供給される性能、市場の需要、製品のライフサイクル
・性能の供給過剰と競争基盤の変化
・製品はいつ市況商品になるか
・性能の供給過剰と製品競争の進化 機能 → 信頼性 → 利便性 → 価格
・破壊的技術のその他の一貫した性質
   1.破壊的技術の弱みは強みでもある
   2.破壊的技術は確立された技術より単純・低価格・高信頼性・便利
・製品競争の進化のマネジメント
   図9.4 競争基盤の変化のマネジメント
・正しい戦略、誤った戦略

<第10章 破壊的イノベーションのマネジメント − 事例研究 − >
・電気自動車を例としたプロジェクトマネージャーの思考の優先順位をシュミレーション
   技術が破壊的かどうかはどうやって知るのか?
   電気自動車の市場はどこに?  潜在市場 − 推測
   電気自動車を販売している自動車メーカーの現状
   われわれの製品・技術・販売戦略をどうすべきか
     破壊的イノベーションの製品開発
     破壊的イノベーションの技術戦略
     破壊的イノベーションの販売戦略
   破壊的イノベーションに最も適した組織とは
     独立組織のスピンオフ
・成功する保証はないが、破壊的イノベーションの原則に逆らうのではなく、調和する環境の中で、チームが開発に取り組むことができるだろう。