週末ってコトで更新の時間が取れたので

こちらも最早週末恒例というか、あるいは週末にしか更新しないというべきか(苦笑)の書評のコーナーのお時間がやって参りました。
ってコトで、本日取り上げる本はコチラ、井上尚登氏の作品で、「T.R.Y.」 でっす。
T.R.Y. (角川文庫)

騙し騙され、最後に嗤え

えーと。普通に書評を書くのであれば、まずは作品の粗筋についてなんですが……そーいえばこの作品って、一昨年のお正月の時期に織田裕二さん主演で映画化されてたんですよねー。んじゃ、粗筋は省略しちまってもOKかしら?(^^;
まぁ凄い大雑把に言うのであれば、映画では織田裕二が演じた主役・日本人詐欺師の伊沢修は、刑務所より助け出された恩から中国人の仲間らと共に、中国での革命を成功させるべく日本人将校へと一大詐欺を仕掛けることなったのだが……という、1900年代初頭・アジアの革命・中国人社会の様々な思惑等といった、読む人によって結構好みが分かれるんじゃないだろうか(苦笑)と思われる要素が多く散りばめられているのが、この作品なワケなんですが。


実は、実際にこの作品に手を付けるまでは、「軍部が絡んでくるようなストーリー」 で 「1900年代初頭の日本が舞台」 ということで、時代設定等は決して自分にとって嫌いな設定ではないものの、その反面、主人公の詐欺の相手がこの時代の軍関係者という粗筋からして、果たしてどこまでこの時代の軍内部の複雑怪奇な思惑等が絡んでくるのか、あまりの複雑さに途中で頭が混乱したりはしないだろうかと、期待と共に結構な不安もあったんですが……。
いやー、実際に読んでみたらそんな不安は杞憂でしたよ、ええ(笑)。まぁ、相手を計画的に騙すにはその相手に関する調査が不可欠ということで、それなりに当時の軍の内部事情が語られたりもするんですが、だからといって、読者も事前に予備知識が必要かというと、決してそんなことは無く。
勿論、そういった方面の知識があればあったでより楽しく読めるんでしょうけど、ストーリーを理解するのに必要な情報はきちんと作中で説明が為されるので、無理に勉強しておく必要は無いって感じで。
むしろ、もし時代背景までしっかり理解して作品を読もうというのであれば、日本軍の内部事情よりも、中国や日本を含めた当時のアジア諸国の動きや思惑そのものを勉強しておいた方が楽しめるのでは、って感じでしたね。や、勿論こちらも改めて勉強せずとも必要な情報は作中で提示されるし、仮に勉強しておくにしても、中学か高校の歴史の教科書程度の知識があればほぼ十分って感じですけどね(^^;


……と、ふと気を抜いていたら、またまた微妙に批評臭く & 感想だか戯言だか分からないような文章になってしまいましたが(汗)。
こうした設定の妙もさることながら、それらを上手に、そして無理なく読者に理解させる読み易い文章や、それぞれに個性のあるキャラクターたちの描写など、文章そのものもまた魅力に満ちたものになっていたように思います。メインとなるキャラクターの数自体は決して少なく無いんですが、それぞれがアクが強いとも言える程の個性を持っているからか、ある程度まで読み進めてしまえば混乱・混同もほとんど起こらないはずですし。
キャラクターの描写のみでなく、ストーリー展開の滑らかさや、最後に待ち受けるオチなどもまた秀逸で、文庫の裏表紙の解説文にもありますが、とにかくかなり上質なコン・ゲーム作品となっているこの一冊。
映画の原作というと、つい良くも悪くも過剰に反応してしまいがち (少なくとも自分はそう/苦笑) ですが、そういった気構え抜きに楽しめる作品となっているので、この感想文に書かれているような用語にピンとくるものがあった方は、是非一度読んでみては如何でしょうか。


……あと、最後にちとヲタク臭いことを言うならば、このストーリーってサタスペのシナリオとかにも流用出来そうだよなー、なんてことも読了後に思ってみたり(^^;
いや、でもマジで詐欺とサタスペは相性が良いと思うのよねー。日本や中国といった舞台や設定についても、かなりサタスペ向きっぽいし。暇があったら、流用できないかとかマジで考えてみようかしら……。


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