Hatena::ブログ(Diary)

私的音楽地図作成法

2013-01-01

2012年ベストディスク10+/おわりの音楽のはじまり

2012年も数多くの素晴らしい音楽との出会いがありましたが、それでもつい繰り返し聴いてしまう作品というのは自然と絞り込まれてくるもので、やはりそれは個々人の音楽履歴が織り成す私的な音楽地図が、べき乗分布的に色濃く反映されてしまうからなのかもしれません。というわけで今回は、ただただ素直に、何度も繰り返し聴いていた作品、そしてこれからも聴き続けていくであろう作品を選んでみました。

とはいえその一方で、今回のセレクトは、昨年の震災直後に渋谷慶一郎さんが記した「おわりの音楽」(http://bit.ly/JRBOHI)というテクストによって強く方向付けられてもいます。つまり、終わりゆく日常において生み出されるであろう新たな音楽形式の可能性に心惹かれるものがあったということが言えると思います。一見、通常では交差することのない固有名たちに「おわりの音楽のはじまり」を感じ取ってもらえたとしたらうれしく思います。それではどうぞ!


[10]shotahirama『NICE DOLL TO TALK』

NICE DOLL TO TALK

NICE DOLL TO TALK

1トラック14分ほどの短い作品。リピートを前提としたと思われる構成。聴き慣れた音楽形式とは一線を画する不穏な音の連なり。ミニマル/バリエーションでもなくランダムでもなく。研ぎ澄まされた聴覚による奔放かつ精密な響きの配置。野蛮さと優美さが官能的にせめぎ合いながら電子音の海へと溶解していく。無時間的な幸福に満ちた1枚。


[9]Bill Evans『Live at Art D'Lugoff's Top of the Gate』

Live at Art D'Lugoff's Top of the Gate 輸入盤]

Live at Art D'Lugoff's Top of the Gate 輸入盤]

1968年10月23日に行われたライブの未発表音源。ここで重要なのはあの名盤『Alone』を録音し終えた2日後の演奏であるということだろう。選曲上の重なりは「Here's That Rainy Day」の1曲のみであるが演奏上の雰囲気はかなり近しいものがあり思わず微笑んでしまう。エヴァンスによる時を越えたUst配信? そんな21世紀的な驚きが詰め込まれている。


[8]TM NETWORK『I am』

I am

I am

90年代にJ-POPの音楽形式を後戻りできないほどに書き換えてしまった小室哲哉。その小室哲哉TM NETWORKとして自分自身が生み出した音楽形式を破壊することを試みたとしたら? おそらく小室哲哉は『楕円とガイコツ』のその先を見据えている。2010年以降の小室哲哉が断片的に提示し続けてきた新たな手札たちを極めて高い密度で収束させた会心作。


[7]Ryuichi Sakamoto『THREE』

THREE

THREE

音楽にとって「完成」とは何を意味するのか? ある時点においてはこれ以上ないと判断された編曲や演奏が果てしなく更新され続けていくという感覚。その意味で本盤は現時点における坂本龍一の暫定的な最高傑作であると言えるだろう。そしてその延長線上には現在における到達点をも乗り越えてしまうであろう未来の音さえも幻聴のように鳴り響いている。


[6]Tetsuya Komuro『Far Eastern Wind』

Far Eastern Wind -Complete

Far Eastern Wind -Complete

2008年に配信限定でリリースされた長大なアンビエント作品の待望のCD化。移ろいゆく日本の四季をモチーフとしながらも決して安易な叙情性に回収されることのない透徹した響き。小室哲哉の指先から即興的に紡ぎ出されるシンセサイザーの音色たちは「AUTUMN」終盤においてイーノの初期作品に限りなく接近していく。永遠に閉じることのない瞑想的な円環。


[5]Keiichiro Shibuya+V.A.『ATAK017 Sacrifice Soundtrack for Seiji“Fish on Land”』

サクリファイス・サウンドトラック

サクリファイス・サウンドトラック

3.11を跨いで作曲されたという「Sacrifice」。その儚くも熱情的なピアノの響きは「おわりの音楽のはじまり」を予感させる過剰さを孕んでいる。そして参加アーティストの目も眩むほどの豪華さと収録曲の圧倒的な量感はもはや革命的ですらある。中でも渋谷慶一郎によるピアノとevalaによる電子音が織り成す静謐かつ甘美なトラックたちは必聴。


[4]高木正勝おおかみこどもの雨と雪 オリジナル・サウンドトラック

劇場公開映画「おおかみこどもの雨と雪」オリジナル・サウンドトラック

劇場公開映画「おおかみこどもの雨と雪」オリジナル・サウンドトラック

野性の原初的な咆哮を慈愛に満ちた子守唄へと翻訳したかのような「産声」。我が子が成長する喜びを奔放に枝葉を伸ばす木々の瑞々しさに重ね合わせたかのような「そらつつみ」。別離の瞬間に訪れるであろう複雑な感情の交錯を鮮やかに切り取ったかのような「虹のたてがみ」。自然の法則に逆らうことのない伸びやかな旋律たちを限りなく繊細な手つきで束ねた1枚。


[3]Keiichiro Shibuya『ATAK018 Soundtrack for Memories of Origin Hiroshi Sugimoto』

ATAK018 Soundtrack for Memories of Origin Hiroshi Sugimoto

ATAK018 Soundtrack for Memories of Origin Hiroshi Sugimoto

協和と不協和の間をたゆたう抽象的な響きの連なり。聴き手の記憶を高精度で捉える叙情的な旋律の集積。本盤ではその響き/旋律の双方に、決して届くはずのない無限遠を目指して虚空に腕を伸ばしているかのような儚さが包容されている。その探究の果てに抽出された響き/旋律の結晶は、終わりゆく世界の絶望的な夜空に不意に現れた星座のような輝きを放っている。


[2]Seiji Takahashi『N41°』

N41°

N41°

本盤の魅力は多面的かつ多層的であるが中でもフィールドレコーディングの解像度と作曲的構築性の厳密さは群を抜いている。楽音、電子音、環境音の境界を融解させながら生成される偶然とも必然ともつかない超現実的な音像。その錯綜の直中から明滅的に浮かび上がる無数の心象風景。既成の区分では名指すことのできない21世紀音楽の新たな可能性がここにある。


[1]渋谷慶一郎 feat. 太田莉菜サクリファイス

サクリファイス

サクリファイス

反復を含まない楽曲構造による記憶へのアディクトと極限まで研ぎ澄まされた音色による身体へのアディクト。ここには「おわりの音楽」をめぐる思考の軌跡が高密度で集約されている。そして本作における「F→Dm→Em→Am」という進行が「F→G→Em→Am(ex:戦メリ)」と「Am→F→G→C(ex:Get Wild)」のどちらにも属さない強度を内包している点も注目に値するだろう。


[0]渋谷慶一郎東浩紀 feat. 初音ミクイニシエーション

イニシエーション(初回生産限定盤)(Blu-ray Disc付)

イニシエーション(初回生産限定盤)(Blu-ray Disc付)

楽曲、歌詞、そして映像に潜在する無数の暗号たち。そのすべてを把握することが困難なほど膨大なフラグメントが散り嵌められているにも関わらず、そのすべてが強制的に脳内に焼き付けられてしまうかのような二律背反的な感覚。終わりゆく日常へのアゲインストとして終わらない残響の中を生きること。ここにこそ渋谷慶一郎の導き出した答えの一つが端的に示されているように思われる。

スパム対策のためのダミーです。もし見えても何も入力しないでください
ゲスト


画像認証

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/y_ymj/20130101/1357060466