空師という職人

1月8日のNHKのドキュメンタリー番組で「空師」について放送がありました。空師とはあまり耳慣れない職業ですが,明治の頃より受け継がれている仕事だそうで,住宅地の合間に育った庭師や植木職人では太刀打ちできないような巨木を,周りの環境を損なうことなく伐採する仕事だそうです。なんでも,樹齢100年を超えるような巨木の上に登って仕事を行う彼らをして「空」で仕事をする職人だということで,ビルなどなかった時代にその名前がついたそうです。


番組の主人公の空師さんは,33歳というこの世界ではきわめて若い方でしたが,ワルだった中学時代に内緒で空師の親方についてアルバイトをしていたのが縁でこの世界に魅せられてしまったという人。若いといってもそんなわけで20年のキャリアを持つベテランさんでした。そしてこの方の仕事ぶりとものの考え方に,僕は全くもって敬服してしまいました。


まずは仕事ぶり。弟子を2人引き連れて仕事場へやってくるや,周りの安全を第一に,そして伐採される巨木の第二の人生(木生?)がより有意義となるように,それはそれはいろいろなことに配慮して木を伐っていきます。価値のある幹がより取れるように地面すれすれのところを伐ったり,枝打ちしたところから腐っても幹には影響が出ないように枝の根元から切るようなことはしないとか,それはいろいろなことに思いを巡らして仕事をしていました。これぞまさに職人のなせる技。


そしてものの考え方にはさらに惚れ込みました。木を伐ることを職業としているとは,いかなることか。生き物としての木への感謝。そしてその木を100年以上前に植林した人の思いへの心配り。そしてまた,この方のユニークな「木の伐り時」という考え方にたくす思い。


はじめは,空師というのは木を伐る職人さんだから,生き物である木の命を絶つ「伐り時」という発想が出るのかなと,うがった見方をしていたのですが,話を聞いていくにしたがって,我が思いこそ浅はかであったことに気付きました。たとえば奈良の法隆寺が千年の時を経てなお敢然と立っていることを例に出すまでもなく,植物として齢に限界のある生に対して無限の可能性を秘めた第二の木生としてより木が活かされる道を見極めてやることこそ,自然の中で生かされている人間の役目なのかもなあと思いをあらためました。


というわけで,思いもかけず良い番組に出会って心洗われた「成人の日」でした。