ティム・オブライエン「本当の戦争の話をしよう」

本当の戦争の話をしよう (文春文庫)

本当の戦争の話をしよう (文春文庫)

 村上春樹の訳。この本のことは前から知っていたが、タイトルから「反戦小説かあ」という感じがして、ちょっと敬遠していた。先日、同じ村上春樹訳の「月曜日は最悪だとみんなは言うけれど」を読んで、ティム・オブライエンのエッセイに感銘を受け、こちらも読んでみた。で、読後感は良かった。リアルで、痛切で、真摯で、哀切で、心を打たれる作品。ベトナム戦争を舞台にした短編小説集だが、登場人物は同じで、全体としても統一されたストーリーになっている。冒頭の「兵士の荷物」で、兵士が持ち歩く一つひとつの重さを記すところ、徴兵票を送られ、カナダに亡命しようかと国境まで行くものの、「体面」のために戦争に行くこと。もろもろの話、描写、心理すべてがリアル。戦争について語るとき、本当の話が戦争の真実を伝えるのか、あるいは作り話のほうが本当の戦争を語ることになるのか。ここで書かれていることが、本当のことなのか、創作なのか。いずれにせよ、自分自身ベトナム戦争に従軍したオブライエンが戦争で感じたことを、この小説が表現していることは確かだと思う。
 読んでいて、ジョージ・オーウェルの「カタロニア讃歌」を思い出してしまった。オーウェルの本はルポだが、文章の端々に自分が見てきたスペイン戦争の真実を誠実に語ろうとするオーウェルの痛々しいまでの公正さに対する思いがある。オブライエンの本も、自分が経験したベトナムという存在を、風の音、空気の感触まで伝えようとする強烈な意思があり、それは成功している。反戦と言えば、反戦だけど、戦争の中での感覚まで、ごまかそうとしない。オーウェルが「面白いことに、安全な距離から砲兵隊の砲撃を眺めていると、たとえ的に自分の夕食や戦友の何人かがふくまれていようと、うまく命中するよう砲手に期待してしまう」*1と告白するように、オブライエンも曳光弾の美しさを語る。本当の戦争と人間について語ろうとする小説なんだなあ。
カタロニア讃歌 (ちくま学芸文庫)

ベルンハルト・シュリンク「朗読者」

朗読者 (新潮クレスト・ブックス)

朗読者 (新潮クレスト・ブックス)

 ケイト・ウィスレット主演で映画化された「愛を読むひと」の原作。この本、一度、読んだことがあるんだが、内容を忘れてしまっていて(ボケか)、再読。基本的な筋立ては覚えているのだが、中盤以降は初めて読むような感覚。こんなエンディングだったのかあ。かなり読者に解釈の余地を残す小説なので、どのように映画にしているのか、興味があるところ。単なる恋愛映画にしてしまっているのだろうか。ウィンスレットの役は難しそうだけど。それを見事にこなしたから、賞をとっているわけか。
【参考】
・「愛を読むひと」の公式サイト
 http://www.aiyomu.com/