リチャード・ウェブ『原発事故はどうおこるか−−チェルノブイリよりも危険な軽水炉』
福島第一原発事故に関心を持って、図書館で見つけた52ページのブックレット。原子力情報資料室の出版で、ISBNコードも付いていないから、一般書籍というよりも脱原発のパンフレットに近いのかもしれない。これを読むと、英国のヒンクリーポイント原発で嵐のために停電し、炉心の冷却装置が止まった例が出ている。そのときは事故に至らなかったが、自然災害が冷却系を停止させるリスクというのは他にもあったのだな。だから、自家発電など停電に対する備えがあったのだろうが...。
高木仁三郎訳で、目次はこんな感じ。
はじめに
I.破局的事故はどのようにして起こるか
破局的事故のタイプ
(1)核暴走事故
(a)沸騰水型炉
(b)加圧水型炉
(c)改良型ガス冷却炉
(d)高速増殖炉
(2)冷却材喪失事故
(3)その他の種類の原子炉破壊
参考1 事故後の放出放射能
2 原発事故はどれだけの影響を与えるか
II.事故確率論のあやまり
結びにかえて
さまざまな原発事故を紹介しているが、冷却材の喪失による炉心溶融が引き起こす原子炉容器の蒸気爆発を最も起こりうるケースとして想定している。福島原発の場合、原子炉容器の蒸気爆発までは至っていないから、まだ良いほうなのかもしれない。それでも、放射能は漏れているわけだが...。
この本には「事故後の放出放射能」という一項目があるが、「原子炉の爆発やその他の放射能放出事故が生じた場合に、いったい放射能のどれだけが環境中に放出されるかを事故のタイプごとに予測することは不可能である」と、にべもない。原子炉爆発を想定すると、その範囲は広大になる。チェルノブイリ原発事故の放射能汚染地図が付いているが、風向きによって600キロまで達している場所もある。チェルノブイリは原子炉爆発だったため被害は甚大だったわけで、福島の場合は違うが、一歩間違うと、大変なことになりかねないことだったのがわかる。
スリーマイル島、チェルノブイリといった実際の原発事故のあと、1990年頃、書かれた本で、その後、原発の安全技術も進んだのかもしれないが、こんなところを読むと、今回の事故を考えさせられる。
ある事故に続いて起こる故障やミスは無限にある。それなのに、安全解析においては、それらを取るに足りないものとしてしか想定していない。破局的な原発事故というのは、普通、まず引金になる故障や事故が起こり、それに続いて、原子炉系や安全系がいくつも故障や事故を起こす時に発生する可能性がある。いわゆる共倒れ故障、または連続的故障というものである。それには、突発的な原子炉容器の破壊や蒸気発生器の破裂はふくまない。これらの破裂事故は、それだけで破局的な事故になりうる。原子炉もその格納容器や建屋も、設計基準事故よりもっと深刻な、いわゆる「超設計基準事故」による放射能災危を防ぐようには設計されていない。原発というのは非常に複雑な構造をしており、バルブやパイプ、電気ケーブル、部品など、膨大な数の装置から成っている。このため、実際には、破局的な事故の可能性は無限にある。
原発の場合、事故の影響があまりにも大きく破局的なだけに、そこまでのことは起きないよね、と事故の想定を「寸止め」してしまうところがありそう。大津波は想定外だったのかもしれないが、建屋の水素爆発は想定されていたのだろうか。原子炉格納容器や配管は、あの水素爆発に耐える設計になっているのだろうか。福島原発の復旧作業、現実には無数のリスクの中で、前人未到の作業を手探りで進めているのかもしれないなあ。
★原子力資料情報室サイト(東京の放射線測定値が掲載されたページもある)
http://www.cnic.jp/
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