プーチンは、クリミア併合の際に核兵器を準備させていたのだとか。ロシアは「核兵器」をもてあそび始めた?

ロシアのプーチン大統領は15日に国営テレビで放送された番組で、1年前にウクライナ南部クリミアを一方的に編入した際、核兵器の使用を準備していたことを明らかにした。ウクライナを支援する北大西洋条約機構NATO)との全面対決という事態に備えたという。一連のウクライナ危機でロシアの強硬姿勢が明らかとなったことで、欧米が反発し、ロシアとの対立がより先鋭化するのは必至だ。

 プーチンはマッチョなイメージでロシアのナショナリズムを煽って人気集めをしたいのか。クリミア併合の際に核兵器の使用を準備させていたことを自慢気に語っている。ロシアの核兵器使用基準は何か。この記事によると...

ロシアは昨年12月に4年ぶりに改定された軍事ドクトリンで「ロシアと同盟国に対する核兵器大量破壊兵器の使用、通常兵器によるロシアへの侵略で国家が存続の危機に立たされた場合の対抗手段として核兵器を使用する権利を持つ」と定めていた。

クリミア併合が、この基準に当たるとは思えないけど...。欧米もロシアに経済制裁は課しても、戦争をする気など全くないわけだし、クリミアを併合されても、ウクライナの親ロシア勢力に大量破壊兵器を使用する発想など、どこからも出てこないだろう。この基準も主観的で、プーチンが使いたいと思えば、使えるということを示したかったのだろうか。だんだんロシアが北朝鮮化していくような...。
 第二次大戦後、核兵器は長らく実際には使えない兵器だった。朝鮮戦争では、国連軍を率いていたマッカーサー将軍が使用を求めたが、トルーマン大統領は拒否、マッカーサーは解任された。それ以来、核兵器は核戦争を防ぐための抑止力としての兵器の役割を担ってきた。冷戦期は特にそうだった。しかし、21世紀に至って、そうした戦後の常識が揺らいできた感じがする。英エコノミスト誌は「世界は依然として、相互確証破壊(MAD)が現実にならないだろうという考えに慰めを見いだしているが、どこかで誰かが核兵器を使用する危険性は急速に高まっている」と警告している。
 エコノミストの記事の中には、こんな一節も...

ロシアの防衛費は2007年以降、50%以上増加しており、そのまるまる3分の1が核兵器に充てられている。この比率は、例えばフランスのような国の2倍はある。

 ここにもロシアの影...。そして防衛費を増やしているだけでなく...

ウラジーミル・プーチン大統領の演説には、遠回しな核による脅迫が織り込まれている。クレムリンの代弁者の1人であるドミトリー・キセリョフ氏は、ロシアの核戦力をもってすれば米国を「放射能の灰」に変えられる、と楽しげに言い放った。「単なる言葉の綾だ」と言われるかもしれない。だが、野党指導者のボリス・ネムツォフ氏が2月27日にクレムリンのすぐそばで殺害された事件は、プーチン大統領のロシアが地政学的な暗黒街に向かいつつあることを示す最新の兆候にすぎない。怒りにたぎる国家主義的で暴力的なロシアは、現状を支えている欧米の規範を書き変えることを望んでいる。(略)核兵器に関するプーチン大統領の発言がはったりだとしても(そうであると考える根拠はないが)、その後を継ぐ国家主義的な指導者が、さらに危険な存在になるかもしれない。

 うーん。今回のプーチン発言の前の記事だが、これを読むと、今回のプーチン発言が突然出てきたものではなく、既に流れはあったのだなあ。核兵器に対する考え方は一貫している? 恐ろしい...。言葉には魂が宿るというし、言葉をもてあそんでいると、それが現実になりかねない。ロシア、どこかで歯止めを失いかけているのだろうか。旧ソ連チェルノブイリ原発、現在の国で見ればウクライナ。ロシアにしてみれば、チェルノブイリは他所事で、核兵器に対する恐怖の遺伝子はないんだろうか。怖いなあ。世界に恐怖を振りまくことがプーチンの目的なんだろうか。

The Economist [UK] March 7- 13 2015 (単号)

The Economist [UK] March 7- 13 2015 (単号)

堤大介、ジェラルド・ゲルレ他『スケッチトラベル』:世界71人のクリエーターを旅したスケッチブック

スケッチトラベル

スケッチトラベル

 WOWOWの「ノンフィクションW」で堤大介とスケッチトラベルの物語*1を見て、この本に関心を持った。堤大介ピクサーのアート・ディレクターを務め、昨年つくった「ダム・キーパー」はアカデミー短編アニメ賞にノミネートされ、注目を集めている人(昨日は「情熱大陸」で取り上げられていた*2 )。その堤氏がフランス人のジェエラルド・ゲルレ氏らとともに、スケッチブックを世界中のクリエーターに手渡しし、絵を描いてもらうことを思いつく。スケッチブックは最後にオークションにかけられ、収益金は途上国における子供の識字率向上、図書館づくりに寄付されている。その企画力もすごいが、内容もなかなか。
We Are The World DVD+CD (30周年記念ステッカー付) 欧米、日本など各国のクリエーターが描いた絵はそれぞれの個性が発揮されている。マイケル・ジャクソンたちの「USA for Africa」が「We Are The World」のどんなに短いフレーズを歌っても、それぞれのアーティストの個性が出ていたように、1枚のイラストにクリエーターたちの個性が現れる。テレビのドキュメンタリーを見た時も思ったが、最初のページをレベッカ・ドートゥルメールに依頼したことが全体の水準を決めたような気がする。それもこれも堤大輔とジェラルド・ゲルレという2人の発案者の企画力だなあ。
風立ちぬ [DVD] 木を植えた男/フレデリック・バック作品集 [DVD] このスケッチブックの旅の最後に控えているのは「木を植えた男」のフレデリック・バックと宮粼駿という東西の巨匠。ドキュメンタリーを見ると、堤大介夫人は宮粼駿の姪で、宮粼駿は堤の結婚式にも出席している。親戚ということを利用して宮粼駿をまず最初に持ってくることもできたのかもしれないが、そうした安易な手段をとらなかったのはすごいし、成功。宮崎がトップバッターでは、この画集に集まるクリエーターたちや描く絵も随分変わってしまったかもしれない。それに好むと好まざるとにかかわらず、どこか権威主義、セレブ的なボランティアの匂いがすることになっただろう。フランスから始まり、71人のクリエーターの終着点が宮粼駿であったところに意味があるなあ。
 ともあれ、どのページを開いても楽しい画集。松本大洋松本大洋だし、森本晃司がスケッチブックの次のページに裏移りさせてしまった赤を夫人の福島敦子が絶妙にカバーしたイラストも楽しい。このスケッチブック、後の人ほどプレッシャーが強かっただろうなあ。で、意外と好きなのは、そんなプレッシャーを軽くいなしたようなエンリコ・カサローサのヨガのハウツー風マンガだったりする。
 目次のイラストを描いているのは、「ダム・キーパー」で堤とコンビを組んでいるロバート・コンドウ。堤とコンドウのコンビは、社交的な堤と、ちょっとシャイなコンドウというイメージ。で、ぽっちゃりとしたコンドウ氏を見ていると、この人、「カールじいさんの空飛ぶ家」に出てくるラッセル少年のモデルじゃないかと思えてしまう。ラッセルほど活動的ではなさそうだけど、イメージが...。 最後に、この「スケッチトラベル」。堤・コンドウの「ダム・キーパー」コンビがプロモーション・アニメをつくっていて、これがまたいい。