最近印象に残った本

貧困と飢饉

貧困と飢饉

貧困、食料安全保障の問題を扱った古典。
食料や農業に関しては、現実的ではない議論が横行していることにいらだつ。「クール・ヘッド」の部分がなく、「ウォーム・ハート」の部分のみが先走り、論理が欠落している。センは、もちろん貧困に対する「ウォーム・ハート」が研究の原動力となっているのだろうけれど、「クール・ヘッド」による緻密な議論がある。もっとも、日本でのこの種に議論は、単に既得権益を擁護するための主張ということかもしれないが。
食料自給率の向上を政策目標とすべきとの議論は、「クール・ヘッド」の欠如の典型的な議論だと思う。総量、しかも、カロリーの総量としての食料自給率を確保することにどのような意味があるのだろうか。納得できる議論を見たことがない。
そんな不毛なことを議論するのであれば、今の日本においても、貧困のために餓死する人がいることを直視して、それをどうやって防ぐことができるのか考えるべきだ。

新編日本古典文学全集 (20) 源氏物語 (1)

新編日本古典文学全集 (20) 源氏物語 (1)

室町時代の前後で日本の文化には断層があるように思っているが、源氏物語を読んでいると、平安時代は異文化だということが実感できる。男女関係の倫理観は、中世以降とあきらかに異なっていると思う。
しかし、紫式部の人間洞察は、現代の私も共感できる普遍性があるところがすばらしい。

世界デフレは三度来る 上 (講談社BIZ)

世界デフレは三度来る 上 (講談社BIZ)

世界デフレは三度来る 下 (講談社BIZ)

世界デフレは三度来る 下 (講談社BIZ)

いわゆる「リフレ派」が書いた本を読むと、論旨にはそこそこ納得できるものの、まるで自分の考えに反対する人はマヌケだといわんばかりの傲慢さに辟易することが多い。しかし、竹森俊平は感じがいい上にわかりやすい。
自分にとっては、第一次世界大戦第二次世界大戦について、新しい視点を持つことができたことが収穫だった。
経済、近現代史に関心があれば、読むべき価値がある本だと思う。

福沢諭吉の哲学―他六篇 (岩波文庫)

福沢諭吉の哲学―他六篇 (岩波文庫)

丸山真男はしっくりきてわかりやすく、すらすらと内容が頭に入ってくる。私と思考のロジックが似ているのだと思う。しかし、そのわかりやすさは、細部を切り捨て図式的すぎるということと引き換えである。その点を気をつけて読む必要があると思う。
丸山真男福沢諭吉論は、福沢諭吉の実像に迫っているというより、丸山真男自身を福沢諭吉に投影しているように思う。儒学を十分理解した啓蒙家だった福沢諭吉に、前近代の日本の思想史を深く研究した近代主義者だった丸山真男が、自分との共通点を見出すのはよくわかる。