福島第一原子力発電所事故に関する個人的総括

東日本大震災から2年が経過して、福島第一原子力発電所事故に関するさまざまな調査結果、書籍などが発刊された。3月11日以来、集中的にそれらの本を読んでみた。その印象を簡単にまとめたいと思う。
いちばん説得力があると思ったのは、国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)の報告書である。この報告書のダイジェスト版は読む価値がある、というか、必読だと思う。
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/blog/reports/digest/
「結論の要旨」【事故の根源的原因】には同意する。私なりにまとめてみたい。

  • 規制当局も東京電力も巨大津波に対する福島第一原子力発電所脆弱性を知っていたにもかかわらずそれぞれの立場で有効な対策の実施を怠っていた
  • 既存の規制に基づく安全対策を実施すればシビアアクシデントが発生しないという前提のもと、規制当局も東京電力もシビアアクシデントを想定した対策を怠っていた

特に、後者については、地震津波と同時にシビアアクシデントが発生する状況が想定されていなかったため、事故対応は混乱し十分な組織的な対応ができなかった。将来の原子力政策、原子力発電がどのようになるかはわからないけれど、この二つの「事故の根源的原因」が取り除かれることが前提条件にならなければならない。
シビアアクシデントの発生を未然に防ぎ、また、発生した場合の影響を最小限にするための対策や安全規制が不十分だった大きな理由として、経済産業省東京電力原子力産業関係者の各組織の短期的な利害が優先されたことにある。これに対し、国会事故調の提言をはじめ、規制当局の中立性を担保する制度設計によって各組織の短期的な利害を牽制することが提言されている。私も原子力安全・保安院原子力発電を推進する経済産業省に位置づけられていたことは問題だと考えているが、規制当局を環境省に位置づければ十分に機能するとは思えない。
安全規制を実行するためには規制当局が高い技術的専門性を持っていることが求められる。しかし、事業者や経済産業省などの推進側当局から完全に独立した組織が十分な高い技術的専門性を確保することは困難である。また、事故が発生した時には、第三者的に規制するだけではなく、事業者と積極的に協力して事故対応にあたらなければならない。だから、第三者的な規制当局による牽制だけではなく、事業者や推進側当局が自ら主体的に安全性を重視しなければ、原子力発電に関する安全性は確保されないと思う。
その時に最も重要なのは徹底した情報公開だと思う。仮に東京電力に在籍しているとしても、安全性の確保という観点から恥じるところのない行動、意思決定をしているということを意識すること、また、その見解と根拠が公開されていること、これこそが事故の根源的原因の解消のために必要なことだと思う。それができない限り、原子力発電を推進すべきではないと考えている。
事故が発生したあとの対応について、官邸の過剰な介入が批判されている。私の読んだ範囲の報告書、書籍から判断すれば、やはり過剰な介入があり、事故の対策を混乱させたことは間違いないと思う。その理由の一部は、菅直人総理大臣を始めとする民主党の政治家が組織のマネージメントに十分な経験、能力を持っていなかったことは指摘できる。ただ、よくわからないのは、保安院の役割と機能である。
福島第一原子力発電所の事故に関する報告書、書籍を読むと、官邸内、東京電力本店、発電所での状況はそれなりに記録があり証言が残されているけれど、保安院がどのように機能していたのかがよくわからない。東京電力の事故対策の支援や発電所外での対策の実施の中核になるのは、制度的には原子力災害対策本部事務局を担う保安院であるはずだが、ここの業務が混乱した形で官邸が担当していたようだ。
菅首相の立場からは保安院が機能しなかったからしかたなく官邸がその機能を代行したということになるし、一方で官邸が過剰に介入し保安院のキーパーソンを官邸に常駐させたことが保安院が機能しなかった要因だという指摘もある。どちらが正しいのか、また、両方とも正しいのかはいままで読んだものからは判断できない。
次のシビアアクシデント発生時に事故対策が成功するためには、原子力災害対策本部事務局が機能するように制度や体制の設計と必要な能力のある人員の配置が必要になる。その意味で、前述のように規制当局が事故対策の中核になるとするならば、その機関を完全に第三者的にすることがよいのかやや疑問もある。
私自身は、あまり日本文化や日本的組織の特性といったことに原因を求めたくないと思っている。そういったステレオタイプが日本の組織において普遍的か疑問もあるし、そこに原因を求めると対策ができないということにもなるからである。しかし、太平洋戦争における日本軍の失敗について分析した「失敗の本質」(「日本軍の失敗と日本の失敗」id:yagian:20120630:1341014053)を読むと、今回の事故とあまりにも共通することが多くて呆然とする。
個別の組織の利害に絡め取られて国家全体の目的、目標の共通認識が形成されない。また、冷静なリスクの抽出評価ができない、それに対する準備ができない。平時の官僚的組織のまま戦闘をすることで柔軟な危機対応ができない。下士官は有能で勇敢だが、トップマネジメントが無能である。
本当に日本政府や東京電力などの事業者は、今回の事故を踏まえた教訓に対応できるのだろうか。正直に言って暗澹たる気持ちになっている。

国会事故調 報告書

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政府事故調 中間・最終報告書

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福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書

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「原発事故報告書」の真実とウソ (文春新書)

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東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと (幻冬舎新書)

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