Y日記

空飛ぶ教授のエコロジー日記

 ■ウェブサイト | Blog以前の日記 | 教育 | 研究 | 新キャンパス保全 | 屋久島 | アジア保全生態学ブログ | アジア保全生態学ウェブサイト

 ■矢原のアンテナ | 人気Blogランキング(たまにはクリックして応援してね)

2012-01-31 研究室

[]最後の授業を空振り

今日は「生態学I」の最後の授業、のはずだった。例によって、深夜まで準備をして、8時30分すぎに講義室に入ったところ、いつもと様子が違う。突然、「31日は金曜日の授業を振り替えで実施します」という連絡が届いていたのを思い出した。そうか、今日がその31日だったか。入魂の最終回を見逃した受講生のみなさん、ごめんなさい。

[]タイ出張・タイ調査計画

この間のアクティビティを簡潔に記録に残しておこう。タイでは、2015年までの共同調査の打ち合わせをして、許可申請書案を書き上げた。5箇所(北部のドイ・インタノン、北東部のプー・クラドン、北西部のカオ・ソイ・ダオ、南部(半島部)のカオ・ルアンに加え、西部のケン・カチャン)で標高別のトランセクト調査を実施する計画である。ドイ・インタノンはタイ最高峰。ベトナムのファン・シーパンにつぐ、インドシナ第二の標高を誇る名山。固有種も少なくない。国立公園の入り口(たしか約800m)から、2565mの頂上までの植生が比較的良く残されている。原生的な植生が残されている一方で、国立公園のなかで、山地に暮らす少数民族の森林利用が続けられており、その意味で「里山」的な環境もある。昨年の11月に、27年ぶりに訪問した。頂上まで立派な車道が作られ、頂上の湿地には散策路が作られていた。またシャクナゲ類が群生する岩がちの斜面にも散策路が作られ、巨大な寺院も建造され、すっかり様子が変わっていた。すでにいくつか、絶滅したと思われる種が生じている。この場所で、標高別のトランセクト調査をして、どこに希少植物・絶滅危惧植物が分布しているかについて定量的な記録をとり、国立公園管理に生かしてもらう計画である。

プー・クラドンは、有名なテーブル・マウンテン。古生層の砂岩がそそりたち、標高約1300mの頂上部は台地上で、湿地や松林が広がっている。台地に降った雨は北に向かって集まり、滝となって北の谷に流れ落ちている。やはり固有種がいくつも自生している山だ。最近ではキャンプ地としてすっかり有名になり、頂上部の過剰利用が進んでいる。登山路沿いの植生も、荒廃が進んでいると聞いている。私が訪問した27年前から、植生が大きく変化しているようだ。固有種・希少種の減少・絶滅が危惧される。ここでも、標高別、および頂上部の台地の各地点でのトランセクト調査をして、国立公園管理に役立つ分布データを集める。

カオ・ソイ・ダオは、27年前には低標高地の谷を歩いただけ。川幅のある渓流沿いに、良好な森林があったが、今はどうなっているだろう。一昨年に訪問したカンボジアのカルダモン山地につながる山地である。カンボジアとの比較のうえでも、ぜひ調査したい場所だ。

カオ・ルアンは、半島部の最高峰(1780m)。27年前には、治安上の問題があって立ち入れなかった。いまでは国立公園として保護され、頂上までの登山路も確立されている。ドイ・インタノンやプー・クラドンに比べて植物の調査は遅れており、まだ新記録がたくさん見つかるはずだ。低標高地では農地利用が進み、森林は断片的にしか残っていないようだ。しかし低標高地ほど多様性が高いはずなので、断片的に残った森林もぜひ調べたい。

ケン・カチャンについてはまったく知らない。Wikipediahttp://en.wikipedia.org/wiki/Kaeng_Krachan_National_Park)によると最高峰は1200mの標高がある。西部の山地としては、かなり高い。西部は27年前にもかなり森林利用が進んでいたように記憶している。その西部で、国立公園として保護された、貴重な場所だ。

タイは私が訪問した27年前から、劇的に変化した。バンコクは巨大都市に成長し、その一方で国土の森林面積は大きく減少した。昨年の大水害は、各地に作られたダムによる治水能力を降水量がこえたために起きたのだが、背景要因には気候変動に加え、森林面積の減少も考えられる。27年間にどんな変化が起きたのかをこの目で見て、調査結果をより良い未来に生かしたい。

これで、カンボジア・インドネシア・タイでの調査が軌道に乗る。今年は、ベトナムとマレーシアにもコンタクトして、2015年までに5カ国での比較ができる調査をする予定。このようなアジア規模の比較調査は、27年前にはとても構想できなかった。東南アジア全域を対象に、生態学・分類学・生物地理学的なアプローチを統合した植物多様性研究を展開できるのは、夢のようだ。

週末に開かれた送粉保全シンポの記録も書きたいが、それはまた後日。

2012-01-21 実家

[]「生み出せ!“危機の時代”のリーダー」の討論に脱力

明日からの海外出張をひかえ、今日は実家で両親と食事をとった。食事の間に、NHKスペシャル「生み出せ!“危機の時代”のリーダー」の討論が耳に入ってきた。あまりの空疎さに、脱力した。

まず、どんな番組かを説明しておこう。

http://www.nhk.or.jp/special/onair/120121.html

には次のように書かれている。

被災地で繰り広げられた、冷静沈着かつ勇気ある救助・支援活動。海外からも賞賛され、改めて「現場力の高さ」を内外に示した日本。しかし、中央に目を転じれば首相は短期間で次々と交代、大企業トップを巡る不祥事が相次ぎ、海外メディアからは「leaderless Japan」と揶揄されている。一方で、被災地では従来のしがらみに縛られない、斬新な発想で復興に取り組む「真のリーダー」が育ちつつある。この国の難局を打開できるリーダーを生むためには何が必要なのか?

「なぜ日本にはリーダーが育たないのか」「国際社会に通用するリーダーをどう育てるのか」「スティーブ・ジョブズのような傑出した起業家を生み出すには何が必要か」など、有識者と市民がスタジオで徹底討論する。

最初にプレゼン(問題提起)をされたのは、サムソン電子につとめた経験のある台湾の技術者。サムソン電子をグローバル競争での勝者に導いたイ・ゴンヒ元会長をとりあげて、徹底したリサーチをもとに勝てる戦略を提示して、トップダウンで強いリーダーシップを発揮したと絶賛。日本にはこのようなリーダーはいないかのような議論だったが、日本にもこのようなリーダーはいるし、このようなリーダーがつねに成功するとは限らない。

次は、Google日本法人元代表取締役社長の辻野さん。この人が書いた「グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた」は読んだことがある。何をおっしゃていたか、正確に思い出せない。リスクをとり、失敗から学ぶことが大切とか、そういうごくふつうの内容だったと思う。

次は、河添恵子さん。国際的リーダー育成に携わってきた人という紹介だったが、http://kkuniversal.blog34.fc2.com/ によれば、ご自分では「ノンフィクション作家」と書かれている。まず、学力だけを磨いた日本のエリートは世界では通用しないと断言。「私は根拠なく物事を断定します」と全視聴者に向かって宣言されたのだ。びっくり。そのうえで、トルコやカナダのエリート教育を紹介して、寄宿舎生活で異文化や違う考えにふれることが大事だと主張し、結論として、エリート候補の若者を国費で集団留学させる提案をされた。

このへんで、もういいや、という感じ。食事も終わったので、続きは見ていない。

討論を通じて、日本には協調性を重んじる文化が強く、みんなと違った選択をするのがむつかしい、という点が強調されていた。こういう面があることは否定しないが、一方で、バンカラを重んじる文化もある。出る釘を打ちつつも、それでも出る釘は、おおらかに伸ばす文化も昔からあるのだ。

政治的リーダーの不在については、文化を論じるよりも、制度面を検討するほうが重要だろう。今の政治の低迷は、長年続いた自民党流の派閥制度が時代に合わなくなったことに加え、小選挙区制導入の失敗という側面があると思う。二大政党が候補者を決めるときに、政治的能力の高さよりも票がとれるかどうかを重視する制度では、リーダーどころか、政治的能力のある政治家すら育たない。

国際的リーダーは、日本にもいる。国際的リーダーがいなければ、日本がこれだけ各方面で国際的に活躍することはできない。現時点では、中国や韓国よりもその数は多いと思う。ただし、中国や韓国に比べ、日本社会全体がやや内向き傾向にあるとは思う。海外留学する学生数の増加率で比べれば、中国や韓国のほうが明らかに勢いがある。社会全体で、もっと世界に目を向けるようにしたい。

私見では、日本は世界(とくにアジア)への奉仕国家として生きるのが良いと思う。日本は、食料自給率4割、木材自給率2割の国である。海外諸国(とくにアジア諸国)の存在ぬきには、食生活すら成り立たない。だから、日本人は、日本人の幸福だけでなく、世界全体の幸福を考えて生きる必要があると思うのだ。リーダー論にしても、「この国の難局を打開できるリーダーを生むためには何が必要なのか?」というNHKスペシャルのテーマ設定は内向きの発想だ。「この世界の難局を打開できるリーダーを生むために、私たちには何ができるか?」というような視点で議論を組み立ててほしい。そうすれば、違った答えが見えてくると思う。

明日は、バンコクに飛ぶ。

2012-01-16 自宅

[]幻想交響曲

環境省プロジェクトの全体会議・公開講演会という大仕事を終えてから、一週間がたった。あいかわらず、山積した仕事に取り組む毎日をすごしている。いま、書類をひとつ仕上げて、メールで送ったところ。ひさしぶりに1時をまわってしまった。プロジェクトの全体会議の際に、(ブログに)あまり間隔があくと、体調を崩しているのではないかと心配されるよ、と言ってくださる方があった。体調はなんとか維持しています。ご安心ください。

木曜日に、全学共通教育の講義のために伊都キャンパスに向かう途中で、ひさしぶりに幻想交響曲を聞いた。箱崎で車のエンジンをかけたとたんに、あの第4楽章が流れてきた。学生時代によく聴いた曲だ。この曲を聞くと、何かにとりつかれて夢中になっているときの興奮を思いだす。この曲が奏でるエネルギーは、いつ聴いても熱い。

2012-01-07 都内

[]公開講演会「生物多様性観測・評価・予測研究の最前線」

今日は、都内で研究プロジェクトの全体会議。明日は、以下のように、公開講演会を開催する。もっと早くアナウンスすべきだったが、今日まで研究会の準備などに追われ、ブログへの掲載が後手にまわってしまった。今からでも、アナウンスしておこう。

環境研究総合推進費戦略的研究開発領域S-9「アジア規模での生物多様性観測・評価・予測に関する総合的研究」(2011-2015、プロジェクトリーダー:矢原徹一)では、アジアにおける生物多様性の現状を評価し、その損失を防ぐための政策提言を行うことを目標として、種・遺伝子多様性、森林・陸水・生態系に関する、アジア規模での生物多様性観測を実施しています。定点調査地における現地調査の結果を、リモートセンシングや標本情報にもとづく広域観測データと統合し、分布モデリング・絶滅リスク評価などの手法を用いて、「アジアのどこで、どれだけの損失が、どのように進んでいるか」の評価すること、この評価にもとづいて、アジアにおける生物多様性損失を減らすうえで有効な対策、およびその優先順位の決定に科学的根拠を与え、国際的な生物多様性アセスメントや我が国の生物多様性国家戦略改訂などに貢献することを最終目標としています。

本プロジェクトでは、下記の日程で公開講演会を実施します。生物多様性の変化に関心のある、多くの方々のご参加をお待ちしています。

日時:1月8日(日) 13:00-17:00

会場:東京大学農学部1号館8番教室

主催:環境研究総合推進費戦略的研究開発領域S-9「アジア規模での生物多様性観測・評価・予測に関する総合的研究」

プログラム

1:00-1:35

矢原徹一(九州大学):生物多様性の観測・評価をアジア規模でどうやって実現するか?

1:35-2:10

森長真一(東京大学):植物の適応と環境変動−ゲノムを温ねて生態を知る

2:10-2:45

黒川紘子(東北大学):森林の生態系機能を予測する−種多様性と機能形質の観測から

2:45-3:00 休憩

3:00-3:35

中村太士(北海道大学):広域データから見えてくる日本の河川の現状と課題

3:35-4:10

山本啓之(海洋研究開発機構):海の生物多様性−見える多様性と見えない多様性

4:10-4:45

辻野亮(総合地球環境学研究所):東南アジアの森林減少と可能性

4:45-5:00 全体への質問

2012-01-05 自宅

[]書き初め

年末年始は、紅白も、箱根駅伝も無視して、論文原稿の改訂作業に専念した。その論文を、第一著者のT君が今日投稿した、「カンボジア、カンポントム・カンポンチュナン省の永久調査区における樹木の分類」と題する、植物分類学の論文だ。本格的な植物分類学の論文を書くのは久しぶり。合計320種の木本種に、名前をつけた。カンボジアでは、植物種の分類学的研究が遅れていて、森林の調査をしても、多くの植物に名前がつかない。これでは、種組成についての論文が書けない。種組成について報告した論文がいくつか出版されているが、同定がほとんど信用できない。そのため、森林プロット内の胸高直径が30cmもある木本種が、「ヤマノイモ属(Dioscorea)の一種」(草本性のつる)にされていたりする。

カンボジアの森林調査に関わってすぐに、カンボジア森林植物図鑑を作る必要性を痛感した。そのためには、植物分類学の研究をしっかりやる必要がある。植物分類学出身のキャリアを生かす場が与えられたので、地道な仕事に時間を割いている。幸い、植物分類学の研究に熱意を傾けてくれる若いT君二人の協力が得られたので、ゼロからスタートして2年間で、320種について論文を発表できるところまできた。しかし、320種という数字は、カンボジアの植物種の1割にも達していないだろう。

12月に訪問したBokor国立公園は、非常に多様性が高い場所だったために、4つのトランセクト調査を通じて、一気に約1000種の植物標本が得られた。次は、これらの同定に取り組む。あと4年間で、カンボジア森林植物図鑑の第一版を何とかまとめたい。

このような植物分類学の地道な研究を、マクロ生態学の新しい解析に結びつけるアイデアも持っている。かなり手ごたえを感じているので、一年後には形にしたい。

手元には、あと5編の論文原稿が仕上げを待っている(大学院生の論文原稿3編、マメ科多様性の国際観測の論文、メキシコのステビアの論文)。月にひとつでは要請に応えきれないので、寸暇を惜しんで論文改訂作業をするのが、新年の課題だ。