ブログと選挙

Ostromさんから、「人間が織り成す社会における選挙制度において、中間にある最適解を得るためには、個人に対する「情報」と財の供給に、規制・制限があってはならないとも思います。」というコメントがあった。財についてはすぐに判断がつかないが、「情報」についてはまったく同感である。私が大学生のころは、まだ、立会演説会というものがあった。これすら禁止されている現状は異常である。
しかし、インターネット時代にいつまでもこのような状態が続くとは思えない。木村剛氏のブログで、次のような記述を見つけた。

昨日、IT選挙推進協議会の代表を務めている北川正恭早稲田大学大学院教授とお話しし、9月9日のゴーログ「IT選挙推進協議会で公職選挙法を改正しよう!」にトラックバックが100件近く来たということを報告しましたら、「よ〜し、やっぱりネットを選挙運動に使えるようにせんとあかんな」ということで、実現に向けて動き始めようということで合意しました。

この流れは、とめられないと思う。きっと実現するだろう。選挙期間中に、候補者がネットで直接自分の政策や意見を表明し、国民が直接それにコメントできるようになれば、国民が手にできる情報は、質量ともに一変するはずだ。
実は、ネット普及の流れにもっとも迅速に対応しているのが、自民党である。自民党は公示前に、「自民党主催メルマガ/ブロガー懇談会」なるものを開いていた。この懇談会に乗り込んだフリージャーナリストの泉あいさんによる「自民党主催メルマガ/ブロガー懇談会の報告」は実に面白い。新聞を読むよりも、自民党の実情がよくわかる。たとえば、泉さんの質問に対して、武部幹事長は次のように語っている。なお、泉さんの質問は、ネットで公募されたものだという。

私はあまり批判したくはありませんけど、今回選挙に至ったのは、郵政法案に対する賛成・反対であったとは思いません。やっぱり倒閣運動ですね。そういう背景があったと思います。小泉内閣打倒ですね。いくら議論しても同じですよ。
私たちが毅然として、反対派の人に厳しく対応しているのは、みんなで決めたことはきちっと守らなければ。・・・昔は派閥がありましたから、派閥の親分に『おいコラ!誰のお陰でバッジつけてる』とやれば静まったんですよ。今は派閥が機能しなくなりましたからね。派閥が機能しなくなったら党がしっかりすればいいんだけど、党の方も抑えきれないですよね。もう総務会に出て●Э£★醞◆Ю△(聞き取り不能)めちゃくちゃなんですから。
今度の総務会では、賛成者と反対者と両方手を挙げさせたんです。・・・総務会で採決したというのは、自民党では初めてなんですから。皆さん方からしたら信じられないでしょう。

この懇談会で、録音を認めたというのも画期的である。その結果、泉さんの詳細な報告が実現した。武部幹事長は、ここまで詳細な記録が、ネットで公開されるとは予想していなかっただろう。これは画期的なことだと思う。泉さんの奮闘に拍手を送りたい。
懇談会の詳細は、「自民党主催メルマガ/ブロガー懇談会の報告②(会話ログ)」で伝えられている。この報告の中で、選挙期間中の「ネット解禁」について、注目すべき発言がある。

世耕広報本部長代理「ちょっと補足しますと、我が党でもネットの解禁というのは頑張っています。HPそのものは候補者は今までだと閉じなくてはいけなかったんですね。それを今から4年くらい前、我々当時の自治省と大変な議論をして、直前まで更新ができて、そこから以降は開けたままでいいよと。
これはもう大変な法律論争をやったんですけど、そこまで持っていったのは実は自民党なんです。
もっと自由に我々主張していますが、我が党の中で非常に心配の意見が出るのは、誹謗中傷が行われるんじゃないかと。
選挙今回12日間なんですけれども、それが最後の3日間ぐらいでバっとなされた時に対処のしようがないじゃないかという意見が出ております。
ただ、皆さんのように真面目に取り組んでいただいている方に、選挙にコミットしていただくような機会を何か作りたいなという想いでおります。
これは志は一緒でございますから、頑張って行きたいと思います」

確かに、個人の人権を侵すような誹謗中傷は問題だ。今回の選挙でも、週間××が、ひどい記事を載せた。このような記事に対して、現状では当事者が反論する余地がない。
しかし、ネットなら、即座に反論できる。あとは選挙民の良識を信頼すべきである。
今回の選挙で、私は最後まで郵政民営化後の「策」が理解できなかった。以前にも書いたが郵政民営化には一定の合理性がある。肝心なのは、民営化自体ではなく、民営化後にどのような「策」を用意するかだと思う。この点を与党の責任者にもっときちんと説明してほしかった。ネット選挙になれば、政策論争がもっと進むだろうと思う。
木村剛氏と北川正恭氏の活躍に期待したい。

花の色と匂いの生産を制御する転写因子

今日は終日、キスゲプロジェクトの科研費申請書の研究計画を煮詰めるために、ダウンロードしたままきちんと読まずにいた関連の論文を読んでいる。
キスゲプロジェクトでは、送粉昆虫の意思決定に関する実験と並行して、花形質に関与しているQTLをマッピングする計画だが、QTLマッピングだけでは、遺伝子が特定できない。表現型効果の強い遺伝子があることはわかているので、これらについてはF2世代での分離から、遺伝学的に特定することができるだろう。しかし、できれば、遺伝子まで突き止めたい。それが可能な時代なのだ。
すでに、cDNAライブラリーやESTライブラリーは、ある程度用意した。
次は、候補遺伝子のネライをどこに絞るかである。
キンギョソウペチュニアなどを使った研究から、花色の多型には、色素の合成系に関わる酵素の生産を制御している転写因子が関わっていることがわかってきた。このテーマに関する初期の研究は、次の文献に要領よく解説されている。

Mol & al (1998) How genes paint flowers and seeds. Trends in Plant Science 3(6): 212-217.

このレビューで紹介されている、ペチュニアにおいてアントシアン合成系を制御する転写因子、An2は、Myb遺伝子ファミリーの一員だった。
Mybとは、Myeloblastosis(骨髄性白血病)の略であり、ニワトリ骨髄性白血病ウイルスが持つがん遺伝子として、発見された。その後、この遺伝子と相同な領域を持つ一群の遺伝子が、真核生物全体に共通する転写因子群であることがわかってきた。
植物においては、花だけでなくさまざまな器官におけるアントシアニン合成に、Myb遺伝子群が関わっている。これらの遺伝子は、5'側にMybに相同性のある2つの反復領域(R2R3)を持っているので、R2R3型Myb遺伝子と総称されている。
7月にウィーンで開催された国際植物科学会議でも、この関連の研究について情報を集めた結果、このR2R3型Myb遺伝子を狙うのが良いだろうという考えを固めて帰国した。
その後、ペチュニアで、花の匂いを制御している転写因子が同定されたことを知った。その名も、ODORANT1。

Verdonk JC, Haring MA, van Tunen AJ, et al.
ODORANT1 regulates fragrance biosynthesis in petunia flowers
PLANT CELL 17 (5): 1612-1624 MAY 2005

発表月を見ると、ウィーンにいたときにはすでに発表されていたことになる。
驚くべきことに、このODORANT1も、An2と同様に、R2R3型Myb遺伝子だった。花の色も匂いも、共通祖先を持つ転写因子群によって制御されていたのである。
R2R3型Myb遺伝子についてさらに詳しくレビューしてみると、これは相当面白い転写遺伝子群である。色素や匂いの生産、毛の発生、病原体が感染したときの過敏感反応など、表皮細胞が持つさまざまな、植物特異的な機能を制御している。
シロイヌナズナのゲノム中に125個のR2R3型Myb遺伝子が確認されていることからも、この転写遺伝子群の重要性が伺える。
そこで、花特異的に発現されているR2R3型Myb遺伝子をcDNAライブラリーから拾い、ハマカンソウとユウスゲの間でアミノ酸置換があるものを絞り込めば、色や匂いに関わる遺伝子がヒットする可能性が十分にあると考えるに至った。このアイデアについては、しばらく前に大学院生と相談し、やってみようという合意に達している、
今日、関連する論文をレビューしてみた結果、しばらく前から暖めていたこのアイデアでいけそうだという意を強くした。
さて、もうひとつは、F2世代を使って送粉昆虫の意思決定過程を調べる実験のアイデアを煮詰める必要がある。遺伝子の研究だけなら、分子生物学者にまかせておけば良い。こちらは、エコゲノミクスと実験進化生態学を統合した研究をめざしている。この両者を関連づける計画にいかに説得力を持たせるかが、大きなポイントだ。