Y日記

空飛ぶ教授のエコロジー日記

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2006-07-02 都内某所〜日航機内

[]松本和子教授事件の背景と教訓

昼にリンクを設定したウェブ上の資料に、一通り目を通した。

感想の第一点。研究費が余っているから、蓄財できたのだ。

科学技術振興調整費の場合、年間研究費は平成11−13年度を通じて、毎年約2億円だった。4つの研究チームで均等分割していたとしても、松本チームには、毎年5000万円の研究費があった。代表者への配分額は、おそらくもっと多かっただろう。研究内容は、DNAマイクロアレイ用に、従来よりも長期間持続する蛍光ラベリングの技術を開発するというものである。「希土類錯体蛍光ラベル」という松本教授の技術が、競合する他の技術に比べて、どの程度オリジナリティがあり、どの程度有望なのかは、私にはよくわからない。しかし、この研究テーマは、毎年5000万円の研究費がなくてもできると思う。専門は違うが、その点はおよそわかる。化学的な研究の場合、インフラさえ整っていれば、大学院生ひとりあたりの消耗品費が年間100万円あれば、相当な研究ができるだろう。大学院生が10人いても、出費は1000万円である。長期の野外調査を必要としない化学系の研究者なら、旅費は、少々使っても、そう高額にはならない。海外の学会に数人で出かけたとしても、たかだか数百万円の出費である。秘書を時間雇用ではなく、人材派遣業から雇用したとしても、300万円程度のはずだ。ポスドクを雇用すれば、300万円〜500万円くらい必要だが、500万円で4人雇用しても2000万円である。5000万円は、一研究室の予算としては、相当潤沢である。もちろん、分野・課題によっては、5000万円でも足りない場合があると思うが、DNAマイクロアレイ用の蛍光ラベリング技術の開発に関しては、十二分ではないかと思う。

さらに松本教授は、平成14年度から、CRESTのナノテク分野の大型プロジェクト「金属錯体プローブを用いる遅延蛍光バイオイメージング」の研究代表者をつとめている。こちらも、「希土類錯体蛍光ラベル」を利用したプロジェクトだが、DNAマイクロアレイではなく、細胞内のmRNAのイメージングが目標であり、松本チームを含む3チームで構成されている。このプロジェクト自体は、価値あるものだと思うが、科学技術振興調整費の研究助成期間を2年間残している段階での採択が妥当だったのかどうか、やや疑問が残る。平成13年度の科学技術振興調整費中間評価では、「優れた要素技術の開発が行われており、今後も研究を継続すべきである」という評価に加えて、「本研究により開発された技術の実用化を目指して、応用検証研究を加速する必要がある」という注文がついており、平成14−15年度には、「実用化研究」を展開すると実施計画書に記載されている。「実用化」という課題は、そんなにやさしくない。一方で、新しいプロジェクトをスタートさせる際には、事務的作業だけでもかなり膨大な時間と労力を必要とする。予算規模は一桁小さいが、過去2年間、私も複数の研究プロジェクトの代表をつとめてきた。その経験から考えて、2億円規模のプロジェクトの代表を兼ねるのは、容易なことではないと思う。

いずれにせよ、2つの大型プロジェクトの代表を兼ねた平成14−15年度には、松本研究室の予算は相当なバブルだったはずだ。この環境が、転落の引き金になったのだろう。

結局、この事件は、実状にそぐわない研究費の大型化・重点化が引き起こしたものではないだろうか。本当に大型の研究費を必要とするプロジェクトはある。しかし、何でも大型化・重点化すれば、成果があがるというものではない。最適投資理論を知っていればすぐにわかることだが、投資に対する成果が加速的に増える場合でない限り、巨額の重点投資は最適ではない。一般的には、投資を増やしても、得られる成果の増加は必ず減速するので、より小規模の投資を、複数の対象に配分するほうが全体の効用は大きくなる。そして、必要な研究投資の規模は、研究分野によって異なる。

しかし、最近では、研究投資に対して、「ばらまきはよくない、重点化するほうが良い」という誤った考えがまかりとおっている。そのため、基礎研究を広くカバーしている科学研究費補助金への投資は減速しており、応用的な研究開発への大型投資が増えている。また、基礎研究に関る予算でも、ポスト21世紀COEプログラムでは、現在採択している拠点数を約半分に減らし、1件あたりの額を増やす方針だと聞いた。このような施策を続けていれば、研究資金は、特定の大学・特定の分野・特定の研究グループに集中していく。

私は、「選択と集中」から、「最適な投資」への方針転換をはかるべきだと思う。これは、投資戦略として、ごくごく当たり前のことである。

松本教授は、総合科学技術会議のメンバーとして、国の研究開発戦略立案に関る重要な立場にあった。総合科学技術会議の活動によって、以前に比べれば、研究者の発想が国の研究開発戦略に反映され、科学技術政策はずいぶん良くなったと思う。しかし、落とし穴がある。松本教授に象徴されるような、バブルとも言える研究費をとっている研究者は、「重点化」により利益を得ている。総合科学技術会議のメンバーは、そのような目先の利益にとられず、研究開発戦略について可能な限り中立的に、公平に、科学的に判断できる人でなければならない。

第3期科学技術基本計画には、「ものからひとへ」という方針をはじめとして、良い内容がたくさん盛り込まれた。しかし、「選択と集中」には賛成できない。いまや、行き過ぎた「選択と集中」が生じている。そこは是正すべきだ。松本教授の事件からくみとるべき最大の教訓は、この点にあるのではないだろうか。

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