池上彰さん、理系文系の二分法はやめましょうよ。

日経新聞朝刊の「池上彰の大岡山通信」は比較的よく読む記事ですが、今朝の「理系・文系大きな違い」はいただけませんねえ。
東工大での講義で、「GDP7-9月期の速報値が悪かった主な原因は民間企業の在庫が減ったことであり、ひょっとすると景気回復のサインかもしれない」という話をしたところ、「在庫減少がGDPにどのように反映するか、その計算式を教えてください」という質問が出たそうです。この質問に対して、「そこが気になったのか!と、びっくりです。東工大の学生は、どうしても数字にこだわるのですね。」と書かれていますが、理系文系に関係なく、これは至極もっともな質問ですよ。作られたものがすぐに売られる理想状態では、在庫なんて計算しなくて良いけど、実際には作られてから売れるまでに時間差があるので、この時間遅れの効果をどう計算するかが問題なわけです。GDP推計では、作られた時点で価値が創造されたと考えて、在庫の増加を支出に計上します。だから在庫が減ればGDPは減る。計算式は簡単です。GDP=在庫の変化+その他の支出。学生の質問に対しては、「良い質問だね」と褒めたうえで、この計算式を書いて説明してあげるべきです。ちなみに、「その他の支出」というのがGDPの本体部分で、民間消費+政府の支出+投資+輸出ー輸入。
注:なお、池上さんの説明は、甘利明経済再生担当相の以下の説明を紹介したものと思います。

しかし、翌日の日経新聞の記事によれば、投資も消費も減っているので、甘利さんの説明は、担当相という「立場」を反映したものですね。
この話題に続いて、分子生物学会シンポジウム「これでいいのか日本の生命科学研究」で、「理研のトップも研究者である。研究者は、それぞれ自分の研究について瑕疵があれば責任を取ればいいのであって、経営者として責任を取る必要性を感じない」という研究者の発言に呆れた話を紹介されています。「理研の人たちのほとんどは理科系の人たちでしょう。ひょっとすると、文科系の人間が多いマスコミの批判の意味がわからなかったのではないか。」・・・おい、おい、待ってくれ、と言いたいですね。私は理系ですが、理研トップの責任は重大だと思いますよ。ただし、トップが責任を取ってやめれば済むという問題でもないですね。トップをすげかえただけで、体質が変わらないというあまたの前例を踏襲されても困ります。池上さんには、何が問題なのかをしっかり指摘していただきたいですね。問題を「文理のミスコミュニケーション」にすりかえるのは、適切ではないと思います。
人間を理系と文系に分けて議論するのは、典型的な二分法の誤りです。池上さんにこの「論法」を使ってほしくないなあ。