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2008-06-09 21世紀の生政治

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近畿大学国際人文科学研究所紀要『述』第2号(明石書店、2008、ISBN:4750327495)に翻訳を寄稿した。


本来であれば、同訳稿に解説をつけるはずのところ、このたびは私の怠惰によって掲載訳文にはつけられなかったので、この場で若干フォローしたいと思う。



今回翻訳したのはニコラス・ローズ(Nikolas Rose)の著書The Politics of Life Itself: Biomedicine, Power, and Subjectivity in the Twenty-First Century(Princeton University Press, 2007, ISBN:0691121915)の第一章。


編集部から吉川浩満(id:clinamen)と山本に『述』第2号にて「生政治」を特集するので寄稿せよとのオファーをいただき、それならばと同書の翻訳(部分訳)を提案した。


翻訳は、諸般の事情から前半(pp.34-55)を篠原雅武氏にお願いし、これを吉川が調整、後半(pp.55-79)は山本が担当した。また、原注は吉川が訳出。内容が医療やバイオ関係に及ぶことから、訳稿全体について宮澤正顕氏に監修していただき最終的な訳文を確定した。篠原氏には非常に短い作業時間であったにもかかわらず前半の訳文を作成していただき、また宮澤氏には専門的なチェックのみならず、全編にわたって多数の誤訳や不適切な表現を訂正をしていただいた。訳文が少しでも正確で読みやすくなっているとすれば、それはこのお二人のお力添えによるものである。また、なおも残る問題点の責任は、山本と吉川にある。



ニコラス・ローズは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンスで、ジェイムズ・マーティン・ホワイト記念教授と、バイオサイエンス・生物・医学・バイオテクノロジー・社会学研究のためのBIOS研究所所長を兼任している社会科学者である。


臨床医学の誕生』をはじめとするフーコーの仕事に依拠しながら、近現代における主体の統治について、その構成のされ方や変容を、精神医学を中心に、科学・技術・政治・経済的な側面から歴史的に分析している(後述の主著を参照)。


The Politics of Life Itself(生命そのものをめぐる政治)は、飛躍的な発展を遂げつつあるバイオテクノロジーや生物医学(biomedicine)がもたらす医療環境の変化を受けて、21世紀における生政治(biopolitics)のありようを考察するものだ。


今回訳出した第一章「21世紀のバイオポリティクス」では、分子レヴェルでの生物医学やそれを支える科学的発見や技術の歴史的展開をとらえ直しながら、現在、どのような立場の人びとが生命についての専門家として権能をふるっているのかを具体的に分析している。読者は、本章から、広範に及びますます専門細分化が進む各種の専門家たちについて、あるいは生命や健康をめぐる資本の動き(バイオ経済(bioeconomics))などの現状をサーヴェイできるだろう。


ローズは、今日、生命にかかわるさまざまな決定を、誰がどのように下すのかという回路、生政治(生命にまつわる各種決定にかんする政治)の変容をあぶりださんとしている。


以下の章は、このように続く。


Chapter 2 Politics and Life

Chapter 3 An Emergent Form of Life?

Chapter 4 t Genetic Risk

Chapter 5 Biologicl Citizens

Chapter 6 Race in the Age of Genomic Medicine

Chapter 7 Neurochemical Selves

Chapter 8 The Biology of Control

Afterword Somatic Ethics and the Spirit of Biocapital



また、ローズの主著には以下のものがある(管見ではいずれも未邦訳)。


The Psychological Complex: Psychology, Politics and Society in England, 1869-1939 (Routledge, 1984).


Governing the Soul: The Shaping of the Private Self (Routledge, 1989, Second Edition, Free Association Press, 1989, ISBN:0415028566; 2nd ed., Free Assn Books, 1999, ISBN:1853434442).


Inventing Our Selves: Psychology, Power and Personhood (Cambridge University Press, 1996, ISBN:0521646073).


・Edited by Andrew Barry + Thomas Obsborne + Nikolas Rose, Foucault and Political Reason: Liberalism, Neo-Liberalism and Rationalities of Government (University of Chicago Press, 1996, ISBN:0226038262).


Powers of Freedom: Reframing Political Thought (Cambridge University Press, 1999, ISBN:0521659051).


The Politics of Life Itself : Biomedicine, Power, and Subjectivity in the Twenty-First Century (Princeton University Press, 2006).



この翻訳を通じて改めて感じたのは、bio-を接頭辞とする言葉(biopolitics, biomedecine, bioeconomics, biotechnology, bioethics)がそれぞれ別のディシプリンにおいて例えば「生政治」「生物医学」「バイオ経済」「バイオテクノロジー」「生命倫理」などと訳されるため、ともすると英語では明示されている「bio」という共通項が見えづらくなるなあということでした。


今回の翻訳の作業は、遅延に遅延を重ね、明石書店の大村智さんに多大なる迷惑をおかけしました。本来4月に刊行される予定だった『述』第2号の刊行が6月にずれこんだのも山本と吉川の作業の遅れによると思われます。同誌編集部ならびに執筆者の皆様、同誌刊行をお待ちの読者の皆様に深くお詫び申し上げます。大変ご迷惑をおかけしました。


近畿大学 国際人文科学研究所

 http://ccpc01.cc.kindai.ac.jp/ichs-html/home/index.html


⇒明石書店

 http://www.akashi.co.jp/

morimori_68morimori_68 2008/06/12 13:33 お久しぶりです。

一仕事が済まれたようでおつかれさまでした。

bio- の話はとても面白いですね。

すぐに思いついたのは、たとえばルビを振って注意を喚起することですが…。

yakumoizuruyakumoizuru 2008/06/12 21:57 ありがとうございます。ルビを振るのもありですし、初出時に原語を示すのもありですよね。

いろいろな分野で生じているかもしれない、こうした同根語がバラバラな訳語で見えなくなる問題についての辞書を作ってはどうか、などと空想しました。