過去を見る方法



竹岡俊樹『石器の見方』勉誠出版、2003/03、ISBN:4585051260


日本の後期旧石器時代の石器について、どのように観察したらよいかを教えてくれる手引き書。


石器の加工の仕方と、そうした加工によって石がどのような形になり、どんな痕跡が残るかを、多数の具体例を図示しながら解説している。


もちろん、素人がさっと目を通して、ただちに石器を見分けられるようになるようなものではないが、全国のあちこちで出土した石器の多様性と共通性、あるいはそれがこれだけ丹念に集められ、分類されていることに、いまさらながら驚く。


考古学の方法について述べた「あとがき」での著者の言葉が印象的だったので、ここにも引いておきたい。

2000年11月5日に発覚するまでの二十数年間にわたって前旧石器時代遺跡の捏造を見破ることができなかったという顛末や、今日の後期旧石器時代研究の迷走の原因は研究者たちが石器の製作技術を十分に捉えることができないことにある。押圧剥離痕や自然破砕礫すら見分けることができない。


研究の目的がどのようなものであっても、またフィールドが海外であろうが国内であろうが、旧石器時代研究にたずさわる考古学研究者が最初に行うべきことは同じである。対象とする遺跡に残された遺物を観察・分析して当時の文化を復元することである。石器が「見え」なければ研究は成り立たない。あるいは今回のように「研究」は砂上の楼閣に終ってしまう。


見る力の脆弱さは旧石器時代研究の基礎、その出発点である石器分類に最も端的に現れている。石器は技術的特徴ではなく、しばしばその輪廓によって分類され、器種と型式は区別されず、文化的実在と研究者間の約束事とが渾然としている。ここには学問はない。


この状況の中で、現在必要とされることは、この学問の原点に立ち帰って、厳密に石器を見てその属性を把握するという基礎的な訓練を繰り返すことである。そして、そのための枠組みを示すことが本書を作成した目的である。

(同書、p.205)


旧石器時代を研究するうえでは、石器を適切に「見る」ことができるかどうかが不可欠の条件であるという次第。


そういえば、捏造事件が発覚した結果、当時購読していた日本史シリーズの石器時代を扱った巻が全面書き替えになったと聞いて、その影響の大きさを感じるということがあった。


竹岡氏には、旧石器時代の型式学』(学生社、2003/10、ISBN:4311300530)という著書もある。一見すると本書と重なった内容の本だが、『旧石器時代の型式学』の「あとがき」によると、『石器の見方』は「器種分類」、旧石器時代の型式学』は「方法論」を論じたもの。ここにもう1冊、「文化の分析」を行った『図説日本列島旧石器時代史』勉誠出版、2002/05、ISBN:458505121X)を加えて、「日本の旧石器時代研究の再構築」を目指した三部作とのことなので、これも近々拝読しようと思う。


上記以外で、関連する竹岡氏の著書として次のものもある。


『前期旧石器時代の型式学』(学生社、2005/07、ISBN:4311300646
旧石器時代の歴史――アフリカから日本列島へ』講談社選書メチエ、2011/04、ISBN:4062584964
旧石器時代文化研究』勉誠出版、2013/12、ISBN:4585220682


■目次

はじめに
用語の解説
第1章 剥片を素材とした石器
第2章 礫および礫片を素材とした大形石器
第3章 剥片剥離技法(石核と剥片)
第4章 石器の分類について
あとがき
引用文献
索引


■書誌


書名:石器の見方
著者:竹岡俊樹
発行:2003/03/20
版元:勉誠出版
定価:3500円+税
頁数:232+xii



■関連リンク


勉誠出版
 http://bensei.jp/


國學院大學 > 竹岡俊樹コレクション
 http://www.kokugakuin.ac.jp/oard/3_0308.html