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馬上行動 山田冬樹の部屋

2009-01-05

東京高裁 エウリアンを退治するグレイトな判決 

13:46

エウリアン

 エイリアンではない。エウリアンである。「絵を売る」と、「エイリアン」との二つの特性を両有するところからこのように呼ばれる。

 日本固有の生物であり、都市繁華街に出没する。若い美人女性の形をとることが多く、獲物を巧みに展示会と称する屠殺場に誘い込み、イルカとかホワイトタイガーなどの印刷物を版画と称し、クレジットを組ませて買わせる習性がある。その習性が訪問販売取引として、人に害を及ぼす危険性があるため、特定商取引法により、有害動物に指定されている。

エウリアンの被害者が起こした訴訟

 この絵画商法の被害者が起こした訴訟で、08年11月27日東京高裁は「違法行為を複数合わせた勧誘行為。自由な意思決定を不可能な状態に陥らせ、売買契約を締結させた」として、特定商取引法、消費者契約法に違反するとして、販売会社に弁護士費用も含めて約51万円の損害賠償を認めた。

 事案は次のようなものだった。

 被害者は医療機器開発エンジニアの男性。男性は05年9月神戸三宮の商店街を歩いていると、20代前半の女性(これがエウリアン)に「展示会をやっているので見て行きませんか」と声を掛けられた。

 案内されたビル2階(屠殺場)には風景画(版画と称する印刷物)などが並んでいた。「気に入った作品は?買うか買わないかは、気にしなくていいですから。」と一つの作品を指すと、女性は絵や販売会社のことを説明し、男性をセンスが良いと持ちあげた。やがて60万円で買うように勧められ、「明日になれば80万円に値上がりする」「社長に掛け合ったら、48万円に値引きしてくれた」として、買うように迫り、さらには別の女性販売員も出てきて2時間の押し問答になり「損をしても早く帰りたい」という心理状態に追い込まれ、クレジットで購入した。

 被害者がその後、絵の市場価格を調べたところ、48万円で購入した絵は1万2000円だった。

 この相手の会社は、過去10年間で国民生活センターに3000件を超す苦情がよせられていた。

東京新聞09年1月3日朝刊)

こうしたキャッチセールスは特商法による規制対象

 特定商取引法(特商法)という法律がある。この法律は、訪問販売、通信販売、電話勧誘販売、連鎖販売等の商取引について規制している。

 この裁判の事案は、訪問販売にあたる。訪問販売というと、自宅に販売員が来るような場合だけのようなイメージを受けるが、こういったキャッチセールスで店舗等に案内する商法も「訪問販売」に当たるとされている。特商法では、真の勧誘目的を秘して展示会に案内してはならないとし、また、契約を取るために「威迫して困惑させてはならない」としている。

版画というより

 版画自体が印刷物であることは間違いないが、こうした展示会で売っているイルカ等の絵画は工業印刷物といって良い代物である。画家が描いた原画を写真撮影して、それを特殊な技法で印刷したものだ。

 印刷手法としては、ミックスト・メディアとか、ジグリー(アイリス)とか、アータグラフとかいったものが知られている。

 ミックスト・メディアとは絵画を写真撮影したものにニス等を上塗りし立体感を出す手法である。ジクリーはヒューレットパッカード社が開発したアイリスというプリンターを使って印刷するため、アイリスとも言われている。アータグラフとは、カナダA.R.T.社が開発した印刷手法のため、このように呼ばれている。これは、原画にレーザー光線を当て、原画の色調だけでなく、原画の凹凸まで情報として読み込み、A.R.T.社独自開発のオイルベース・フォイルと呼ばれる油絵のペイントに酷似した素材を使って、印刷される。アータグラフになると、油絵でも原画とほとんど変わらないものが出来上がるため、素人目には真贋の区別さえできないほど精巧なものである。

 クリスチャン・ラッセンとか、シム・シメールの版画は、こうして作られたものである。

 確かに印刷としては手が込んでいるが、いわば高級ポスターと呼んでもいい代物であり、こういった形で作られたものと知ったら、果たしてどれほどの人が購入するであろうか。少なくとも数十万、百万という金額では買わないはずだ。

限定500枚といっても

 版画には必ずシリアルナンバーがついている。たとえば「36/500」とあれば、500枚刷られた中の1枚という意味である。モノによっては「AP(アーティスト・プルーフ=画家が手元に残したもの)」、「MP(ミュージアム・プルーフ=美術館向けに印刷されたもの)」などもあるので、500枚以上あったりするが、そのあたりは500枚のほかには数枚しか刷っていないだろうという画家との信頼関係によって成り立っている。500枚以上刷られないように、本来はその版画の原版は破棄されなければならない。しかしラッセントかが原版は壊しても、原画まで破棄しているかは不明である。普通絵画は作者が死ねば値段が上がるが、もしラッセンが死んで、その原画が残っているとしたら、遺族が全部その版画を売り切った後は、その原画を使ってさらに増し刷りすることも考えられなくもない。そうなれば価格は暴落する。

 そもそも、「限定500枚」を、美術価値としていかほどのものとして見るべきだろうか。売る方は「世界に500枚しかない」というのだが、逆にいえば「世界に500枚もある」のだ。その原画が1000万円の価値があったとしよう。それが500枚刷られれば、一枚当たりの単価は本来2万円程度と見るべきではないか。逆にこうしたものが100万円で売られたとすると、画商は1000万円の仕入価格で、10億円の売り上げを得ることができるのである。これほどおいしい商売はない。