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馬上行動 山田冬樹の部屋

2009-01-24

過払い金 一連か個別か 1月22日最高裁判決について(続)

02:18

一連か個別か 過払い金訴訟で残された最大の論点

 09年1月22日の最高裁判決の衝撃が冷めやらぬ今日この頃。この判決の原点である、過払い金訴訟における現在最大の論点である、一連計算か個別計算かの議論について論じたい。この最高裁判決がこの最大の論点に決着をつける大きな契機になるかもしれないからだ。

1月22日最高裁判決をもう一度振り返る

 ただその前に1月22日最高裁判決を、今ここで整理してみよう。

これは、ある男性が東日本信販に対して起こした過払い金請求訴訟についての判決だ。この男性は、東日本信販との契約で、82年8月10日から05年3月2日までの約23年間、借入限度額の範囲内で借入と返済を繰り返し、返済はリボ払い方式で行っていた。この男性は23年間ずっと借入を続けてきたわけではなく、借入をしていない期間が4回もあり、それも1226日間、232日間、758日間、156日間とかなり長い期間にわたっていた。一度完済してから再度借入をするまでに、1226日間、758日間というような長いブランクがあって、完済後10年たっていると、これまでの判決例では、時効だから完済前にあった過払い金は請求できないとされることが多かった。しかしこの最高裁判決は、こういった長いブランクがあるにも関わらず、23年間に生じた過払い金の全額の返還を東日本信販に命じたのである。

 下級審判決の中には、契約書の書き換えがないにもかかわらず長期間のブランクがあった場合、安易に分断を認めるようなものが散見されたが、1月22日付最高裁判決は、契約書の書換がない限り、いかに長期のブランクがあろうが一連計算するようと、言ってくれているのである

一連と個別は時効の成否に大きな影響

 金銭貸借取引中、完済があるとき、完済前の取引(以下「第一取引」という)と完済後の取引(以下「第二取引」という)とを、一連の取引ととらえるのか、個別の取引ととらえるのかが、この議論である。この議論は過払い金額の多寡にも影響を与えるが(一連計算の方が過払い金額は高くなる)、時効の成否にも大きな影響を及ぼす。

 個別取引ととらえた場合、第一取引終了時から10年以内に訴訟を起こさないと、第一取引から生じた過払いは時効になって消えてしまう。しかし一連取引だととらえれば、一連の取引が続く限り時効は成立しないのである。

最高裁には3つの小法廷がある

ところで最高裁には15人の裁判官がいて、5人ずつ三つの部に分けられている。特殊な言い方だが、この「部」を最高裁では「小法廷」と呼んでいる。

 各小法廷とも、共通見解がある。それは「一度完済し、過払い金が発生した場合、その過払い金をその後再開した借入債務に充当する意思があれば一連計算し、なければ個別に計算する」という見解である。

 基本契約が継続する限り、一度完済してもその後の借入金の支払いに充当されるとの合意がある。しかし契約が書換えられて新しい基本契約になってしまうと、書換前の基本契約に基づく充当の合意は、書換後の基本契約には及ばないため、原則、個別計算になってしまうのである(但し次項のとおり例外もある)。

平成20年1月18日付最高裁第二小法廷判決

 もう一つ重要な最高裁判決がある。第一取引と第二取引とが別個の基本契約に基づくものであり、第一取引により生じた借入金債務の支払に充てる合意が存在するなど特段の事情がない限り,第一取引から生じた過払金は,第二取引による借入金債務には充当されないとし、特段の事情ありと考えるかどうかは次の点を考慮して判断する。平成20年1月18日付判決はこの考え方を述べブランクが約3年間あったこと,利息と遅延損害金の利率が異なっていることなどからすると,特段の事情は認められないとした。

  • 第一取引の期間、その後新たな借り入れをするまでの期間
  • 第一取引終了時、契約書の返還や、カードが無効になったか。
  • 第一取引弁済後、借入再開にいたるまでの貸主と借主との接触の状況(業者の方が勧誘して再度の取引となったか)
  • 両取引における利率等の契約条件の違い

今後も続く最高裁判決

 3月3日には第二小法廷が、3月6日には第三小法廷が、同様の論点について判決を言い渡す。もし異なった見解に立って判決するとなると、最高裁判例に混乱を生じるために、大法廷(最高裁判事15人全員が合議して決める裁判)での決着がつくことになるかもしれない。

 もし1月22日付判決の考えが今後の最高裁判例となるのであれば、カードを作って借入限度額内で貸し借りを続けていた場合、そのカードが有効な限り、どれだけブランクがあっても一連の計算と解される可能性がある。また完済後も、契約が残っており、カードを使って借りようと思えば借りることができた状態あれば時効は進行しないということになり、完済後10年経ってもまだ時効にかかっていないということもありうるのだろうか。こうした基本契約は自動更新条項がついているため、更新、更新で、いつまで経っても時効が完成しないということもありうる。10年以上前に完済した人で試しに使ってみてそれで1万円でも借りられたということになると、そのことでカードは有効だから時効にかかっていないと主張できるのであろうか。

※平成21年1月22日第一小法廷判決

 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090122140649.pdf

※平成19年6月7日第一小法廷判決

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070607111814.pdf

※平成20年1月18日付第二小法廷判決

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080815100408.pdf

※ 一連取引か個別取引かの議論については、まだ議論が未成熟です。当然1月22日付第一小法廷判決についても評価が定まっていません。ここに掲げた見解はあくまで試論と理解してください。

※ 判決直後の論評については↓

http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090122/1232615649