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2015-01-25

バイクに乗って駆ける、日々の中の少し不思議 『コトノバドライブ』の話

軽食屋で働くすーちゃんはバイクを買ったばかり。中古屋で見つけた、形の気に入った古いバイク。それに乗って彼女はどこへでも行く。足の向くまま気の向くまま、排気音を軽快に鳴らしながら。海辺に山中、街中に廃道、彼女が行くそこには、なにか不思議なことがある。それは、時には怖いけど、でも心揺さぶるものだ。彼女は今日も行く。バイクに乗って。

コトノバドライブ(1) (アフタヌーンKC)

コトノバドライブ(1) (アフタヌーンKC)

ということで、芦奈野ひとし先生の新作『コトノバドライブ』のレビューです。『ヨコハマ買い出し紀行』『カブのイサキ』に続く本作は、前二作とよく似た、でももう少し幻想的な路線を行く、作品世界の、文字通り「空気」を存分に感じさせてくれる作品です。口の悪い人に言わせれば「雰囲気漫画」なのかもしれませんが、むしろここまで空気・雰囲気を含んだ作品を作れることに瞠目すべきだと思います。

本作の舞台は、明言されないもののおそらく現代日本の、鄙びた片田舎の町。海も山も近く、人の動きはあまり多くない。そこにある、ミートソースとナポリタンしか作らない軽食屋・ランプで働いているのが、主人公のすーちゃんです。写真が趣味の彼女は、買ったばかりの中古バイクに乗って、昼に夜に、海に山に、どこへでも行きます。

そして、行く先々で出会う、ちょっと不思議な体験。あるはずのないものを見たり、いるはずのないものに出くわしたり。たとえば、道なき荒れ野で皓々と光る自販機。たとえば、豪雨の中を行く花神輿の車列。たとえば、まるで小鳥のように華奢な少女。これら不可思議なものとの出会いが、前二作との大きな違いと言えます。前二作も、設定自体はSFチックでしたが、その中で起こる出来事はその世界での現実感がありました(『カブのイサキ』の終盤は少々違いますが)。ですが本作は、すーちゃんが日常から奇妙な世界に半歩だけ足を踏み込んでしまう不穏さがどの話にもあり、時には怖くすらあるその感覚は、大きな特色と言えます。route3の自販機の話は実際ゾクっときた。

その不穏さもさることながら、やはり本作の魅力はその「空気」にあるでしょう。中古のポンコツバイクに乗って、鄙びた大気の中をテテテテと音を立てて抜けていく情景は、潮くさい匂いも、肌を撫でる風も、耳元で渦巻く音もまとめて、ありありとその「空気」を思い浮かばせます。

たぶんそのポイントは、大なり小なり常に吹いている風。バイクに乗れば大きく、地面の上で目を閉じていればほんのわずかに、風はすーちゃんの髪を揺らし、そこで空気が動いていることを教えてくれるのです。濃い描きこみの少ない絵の印象は軽く、乾いていて、でもそこには自然の湿り気がある。海や山や土の湿り気が。

ちょっとバイク欲しくなっちゃいますね、ちっちゃなポンコツバイク。それに乗って、人気の少ない田舎道を行きたい。つい小型二輪免許についてググった俺がいるのですよ。

何もない日にぼんやりと読んで、すーちゃんのいる世界にぼんやりと思いを馳せたい、とても気持ちのいい作品です。

第一話の試し読みはこちら。

モアイ-コトノバドライブ/芦奈野ひとし

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2015-01-21

北の大地に隠された黄金を追う、伝説の兵士とアイヌの少女『ゴールデンカムイ』の話

ということで、野田サトル先生『ゴールデンカムイ』のレビューです。明治末期の北海道を舞台に、隠された金塊を追う男たちと、父を殺した犯人を追うアイヌの少女。追う者逃げる者横から攫おうとする者と、それぞれの思惑が絡み合い、ハイスピードで物語が展開していく血なまぐさいバトルロイヤルが描かれています。

主人公は杉元佐一。日露戦争では「不死身の杉元」と仇名され、獅子奮迅の活躍を見せた男で、本来なら勲章を授与され十分な恩賞をもらっているはずですが、気に入らない上官を半殺しにしたせいでそれもかなわず、北海道の片隅で砂金採りに精を出しています。わざわざ砂金採りなどという一攫千金に手を出したのは、戦死した旧友の妻で、自身の幼なじみでもある梅子のため。思い眼病を患っている彼女をアメリカの名医に見せるため、そしてその息子を何不自由なく育てるためには、莫大なお金が必要でした。ですが、素人が手を出して簡単に大金をつかめるわけがありません。杉元は来る日も徒労に明け暮れていました。

そんなある日、酒に酔った老人から不穏な話を杉元は聞きました。それは大金の話。金を持っていたアイヌたちを殺して金塊を奪った男の話でした。男は捕えられ死刑囚として網走監獄に投獄されるも、拷問されようとも金のありかを決して喋らず、なんとか金を横取りしたい看守らも彼を殺すことは出来ません。そうこうしているうちに男は、同房の死刑囚らの背中に金塊のありかのヒントを入れ墨で彫りこみ、彼らを唆して脱獄させたというのです。そして、脱獄囚たちの入れ墨を集めれば、金のありかがわかるのだと。

もちろん初めは、酔っぱらいのたわごとだと相手にしていなかった杉元ですが、酔いが醒め我に返った老人から殺されかけたことで、俄かに与太話が真実味を帯びだしました。逃げた老人を追う杉元ですが、その最中にヒグマの親子に出くわす羽目に。いくら銃を持っているとはいえ、猟の経験のない杉元に対抗する術はあるはずもなく、あわや殺されるというところで窮地を救ってくれたのが、アイヌの少女・アシリパでした。話を聞けば彼女、金を奪った男が殺したアイヌらの一人の娘だというのです。

こうして、大金を狙う杉元と、父の敵をとりたいと願うアシリパは手を組んで、逃げた脱獄囚たちを追うこととなりました。ですが、杉元ら以外にも、大金を欲しがる監獄の役人に、噂を聞きつけた屯田兵、秘密を知って逃げる脱獄囚、そして金を奪ってアシリパの父らを殺した張本人たる男と、様々な思惑が絡み合っています。現代の価値にして8億という大金は人を狂奔させるに十分な額。軍人も、死刑囚も、戦時の英雄も、時には命をゴミのようにすら扱ってそれを追い求めるのです。

とはいえ主人公の杉元は、誰でも彼でも殺す殺人狂ではありません。「不死身の杉元」の仇名は、日露戦争の最中に多くの傷を受け、首元を銃弾が貫通してもなお戦うことをやめずなかった彼を、畏怖と称賛を込めて呼んだものですが、あくまで彼は殺されないために、生きるためにやむを得ず殺すのです。ただそれは、殺されそうであれば殺すことを厭わないということ。

「俺は殺人狂じゃない ……でも 殺されるくらいなら躊躇なく殺す」

これは彼自身が語った言葉です。

そして杉元と行動を共にすることとなったアイヌの少女・アシリパ。彼女は、内地で育った杉元とは異なる価値観を持ち、小は自然や動植物への知識から、大は殺すことへの道徳まで、彼女と杉元はしばしばいさかいを起こします。1巻の段階ではまだそれは微々たるものですが、これから先、それがどうなるかはわかりません。歳の頃だけでいえばまだ少女に過ぎない彼女ですが、生まれも育ちも異なる人間同士の間で決定的な衝突がいつ起こるのか、それが何をきっかけとするのか、どちらもわからないのです。もとより二人が身を置いた状況は、命を懸けて脱獄囚を追う過酷なバトルロイヤル。生死の境に直面したときに果たしてどう振る舞うのか。

で、そんな血なまぐさい空気の中に時折吹き込むのが、アシリパのアイヌクッキング。リスやウサギを獲るところからのハイレベルなものですが、小動物を捕えようとして生き生きとしているアシリパの顔は年相応のもの。ま、リスを前に舌なめずりをしたのには、さすがの不死身の杉元もドン引きしてますが。美味しいのかな、野生のリスのつみれ汁。

ちょっとしてコメディ描写を挟みつつも物語はスピーディ。脱獄した囚人が何人いるのか明確にはされていませんが、既に3人が登場し、杉元と関わっています。脱獄囚らと接触し、断片的に情報が得られるにつれ、金を奪った黒幕が少しずつ明かされる。スリリングなサスペンスと、血なまぐさい追跡劇と、今後の展開に目が離せません。

試し読みはこちらから。

ゴールデンカムイ/週刊ヤングジャンプ

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2015-01-18

鬱屈した日々と、そこに吹き込む風と 『さよならガールフレンド』の話

高校三年生の滝本ちほは、田舎での生活に倦んでいた。閉鎖的な人間関係。噂話くらいしかない娯楽。監獄のように取り囲む自然。出口も未来も見えない生活に、吐き気すら感じていた。

ある夏の日、ちほは恋人・高岡の浮気を知る。相手は尻軽と悪名高い、ビッチ先輩こと田淵りなだった。誰にでもやらせる彼女にちほは嫌悪感を覚えるが、どん詰まりの人間関係にはなかった、この田舎町での絶望を共有できる唯一の相手として、次第に惹かれていった。時は移り受験が近づいてくる。ちほは東京の大学を受験し、この町を出ていくことを決めたのだが……(「さよならガールフレンド」)

表題作を含む全6本の、鬱屈した生活の中で風穴を求める人間たちを描いた短編集。

さよならガールフレンド (Feelコミックス FC SWING)

さよならガールフレンド (Feelコミックス FC SWING)

ということで、高野雀先生の処女単行本『さよならガールフレンド』のレビューです。「コミティア見本誌読書会第一位」と帯の惹句にありますが、その期待を裏切らない、素晴らしい作品でした。

収録作品は計6本。

若さを感じられなくなってきた自分といつまでも若いつもりの彼氏とのギャップに苛立つアラサー女性を描いた「面影サンセット」。

彼氏の急な転勤話で引っ越しと結婚が持ち上がった女性が、高校来の友人との過去と未来に思いをはせる「わたしのニュータウン」。

通勤電車で見かけるだけの男性になんとなく心惹かれていたら、その人とそっくりな後輩が入社してきて、なんだか変に心を乱してしまう女性の「ギャラクシー邂逅」。

「女らしい」姉との比較にうんざりしてきた女性が、自分とセックスをしてくれる男性に出会うも結局セフレでしかなく、自身の価値の低さに窒息してしまいそうになる「まぼろしチアノーゼ」。

クラスメートの女子が突然家に転がり込んできて、自分の居場所がどんどんなくなっていくことに焦りと苛立ちを覚える男子中学生の「エイリアン/サマー」。

以上に表題作を加えたラインナップとなっています。

6作品に共通するのは、最初にも少し書いた通り、主人公たちが日々に鬱屈、あるいは苛立ちを覚えていること。

閉塞的な田舎の人間関係や、自分とのギャップが日々強くなっていく彼氏、稚い恋心で自分を振り回す友人、後輩との距離感、「女の子」としての価値のない自分、平和な日常に浸食してきたクラスメート。

息苦しさやままならなさ、所在なさ、見えない何かにからめとられているかのような閉塞感。彼女や彼は日常の中で喘いでいました。

彼女や彼が喘ぐ理由は、どこまで日常的なもの。普通なもの。言ってしまえば、誰にでもあるようなもの。たとえば「さよならガールフレンド」の主人公・ちほの友人らにも、作中では書かれていないものの、きっとよく似た悩みがある。でも、そのありふれた悩みを重苦しく、でも淡々と描く筆致は、読んでいるこちらに彼女や彼の心情をじわじわと染みこませます。それはあたかも、白い木綿の布を汚れた水が浸食するよう。その感覚は「さよなら〜」や「まぼろし〜」で特に顕著です。

そして、彼女や彼の塞いだ日々に風穴を開け、新鮮な空気を送り込んでくれたのは、あるいは彼氏の浮気相手だったり、あるいは自分とはまるで違うはずの姉だったり、あるいは鬱屈を生みだした張本人だったり。なんであれ、吹き込まれた一陣の風は、心の中のよどんだ空気を揺り動かし、わだかまっていた重みを減じてくれるのでした。

それは決して、立ち込めた靄を一息で消し飛ばしてくれるものではありません。当たり前の日常はそこまで軽くない。でも、かきまぜられた心の視界は少し開け、今まで自分が見ていたものがこの世の全てではないことを気づかせてくれます。出口が、未来がどこかにあることを知れるのです。物語の最後にかならず見える明るさが、読後感を和らいだものにしてくれる。


感覚的な表現をすれば、この作品を読んだ印象に色がありません。モノクロ。

もちろん決して悪い意味ではなく、それが意味するところは、冷静さ。キャラクターからの距離。キャラクターが感情をこじらせていても、それの描写はこじらせを起こすことなく淡々と距離をとって描いている。臨場感ではなく、スクリーンの向こうにキャラクターがいるような温度の低さ。

感情の起伏はしっかりと描いているのに、そこに過剰さはない。それをあたかも、昔のモノクロ映画のように感じているのかもしれません。


デビュー作がこれとは実に空恐ろしく、実に今後が楽しみなのです。マジで。

単行本未収録の作品が一本読めるので、お試しはそちらもどうぞ。こういう群像劇大好きっ子なので、早く次の単行本を出して収録するんだ!

さよならガールフレンド特別サイト あたらしいいひふ

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2015-01-16

腹が減っては戦ができぬ 魔物を食べてダンジョン探検『ダンジョン飯』の話

ある日存在が白日の下にさらされた、地下深くに眠る黄金の王国。その深奥にあると言われる宝を目指し、人々は我先にとダンジョンへ潜った。待ち受けるモンスター、食人植物、罠。そして、空腹。深く潜れば潜るほど、モンスターの攻撃は苛烈になり、手持ちの食糧は心もとなく。そんな時、誰かがふと思ったのだ。

「モンスターって食えるんじゃね?」

これは、宝探しそっちのけでモンスター食に心を奪われた男たちの物語である……

ということで、九井諒子先生の新作『ダンジョン飯』のレビューです。エルフもドラゴンも出てくるファンタジーファンタジーした作品でありながら、テーマは飯。モンスターや畸形植物など、ダンジョンで獲(採)れるやつらでどんな料理ができるか、という飯漫画。ファンタジー版『山賊ダイアリー』という認識で大体あってるかもしれませんな。

主人公は戦士のライオス。彼をリーダーとするパーティーはダンジョンへ潜っていましたが、最深部で遭遇したドラゴンによってパーティーは壊滅。かれの実妹である魔法使いファリンのおかげで、辛くもダンジョンから脱出することはできましたが、当のファリンは脱出魔法が効かずドラゴンの腹の中。ライオスはすぐにとって返して彼女を蘇生させようとしますが、あいにくと手元不如意。ダンジョンに入る前の腹ごしらえさえできない状況です。そもそもダンジョンに潜るには、ただ高価な武具があればいいというものではありません。野営道具、ランプなどの灯り、ロープ、各種薬など、戦闘以外に必要なものはいろいろありますが、何より必要なのは食糧。腹が減っては戦ができぬ。ドラゴンに負けたのも、罠にかかって食料の大部分を失ってしまったために、パーティーの士気や体力が落ちてしまったことが大きな要因でした。

ダンジョン探索にとって死活的に重要な食料を買うことすらできなかったライオスが、一刻も早く妹を助けるために考え出したアイデア。それがダンジョン飯でした。

食料は迷宮内で自給自足する

迷宮内には魔物が溢れている つまり生態系が存在しているということだ

肉食の魔物がいればその糧となる草食の魔物が! 装飾の魔物が食う植物に植物の栄養となる水や光や土が!

すなわち人間も迷宮で食っていけるということだ!

(1巻 p17)

彼と一緒にファリンを救おうとしていたパーティーメンバー、エルフのマルシルとハーフフットのチルチャックも、これにはさすがにドンびき。

なにしろ彼らがダンジョン内で目にした魔物は、歩くキノコバジリスク、大サソリ、大コウモリ、ドラゴンと、どう贔屓目に見ても食いたいと思える代物ではありません。しかし、妹を救うためにそれしかないのなら、ライオスは厭わずそいつらを食ろうてやるのです。ま、本当は昔からいつか機会があったら食べてやろうと思っていたのですが。

こうして、彼ら三人にダンジョン飯の先達、ドワーフのセンシも加わって、自給自足ダンジョン探索が始まったのです。

ダンジョン飯にやたら執着するライオスと、ダンジョン飯にやたら詳しいセンシと、基本毛嫌いするマルシルと、外から諦観混じりの冷静なツッコミを入れるチルチャックとで、話はコメディでテンポよく進んでいきます。なにしろ一話冒頭から肉親がドラゴンに食われてるくせに、深刻さがまるでなし。「みじん切りまでは蘇生した奴がいたよな!?」だの「うんこから生き返った冒険者の例は!?」だの、そんなに命が軽いのかと。この兄、妹を助けるより魔物を食う方が完全にメインだよね。きっとホヤやナマコを初めて食べたのもライオスの係累。

1巻で彼らが作ったのは、「大サソリと歩き茸の水炊き」、「人喰い植物のタルト」、「ローストバジリスク」、「マンドレイクバジリスクオムレツ」などなど。なんだこの出オチ料理は。「人喰い植物のタルト」の文字列の破壊力、ハンパない。

調理の描写がいちいち細かいのもポイント。大サソリの可食部とか、スライムのさばき方とか、美味しいマンドレイクの採取方法など、現実の料理にはまずもって役に立ちそうもない説明がてんこ盛り。無駄にリアル。

それでいてずるいのは、意外に美味そうなところ。「マンドレイクのかき揚げと大蝙蝠天」、ビールと一緒に食べてみたいぞ。

最初は尻込みしまくるマルシルも、空腹には勝てず嫌々手を伸ばすのですが、その美味さには驚くことしきり。マジかよ。

すごいなこの作品。このままどこまででも行ってほしい。

かなりお薦めなので、書店で見かけたらぜひ手に取ってみてください。

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2015-01-13

世界の神秘に触れるのは大巫女見習いの一人の少女 『一変世界』の話

“神の森”の中心にあるガーデラン女神神殿。それは、人々の生活の中心であり、信仰の中心でもあった。けれど、その頂点にいるはずの大巫女の不在が長く続いており、今は大巫女見習いのプーリョが、大巫女になるべく日々修行を積んでいた。

神殿。それは神秘の力を探る場所。神がおわし、魔物がすまう世界で、大巫女見習いプーリョは何を知り、何をするのか……

一変世界 1 (BUNCH COMICS)

一変世界 1 (BUNCH COMICS)

ということで、明治カナ子先生『一変世界』のレビューです。

神に魔物に超常の力。本作は、私たちが住む世界とは別の理に生きる異世界を舞台にしたファンタジー作品となっています。

異世界の中心には女神神殿があり、そこにいる大巫女が人々の信仰を一身に集めています。でも、今は大巫女がおらず、一人の大巫女見習いがいるばかり。本作の主人公は、その大巫女見習いの少女・プーリョです。大巫女の唯一の後継である彼女は、周囲を大人の神官らに囲まれ、日々神殿で修業を積んでいます。祝詞をあげ、朝の鐘を鳴らし、行事を差配し、そして何より、神との交感を果たす。大巫女以外には知りえない神秘に触れる、大巫女見習いのプーリョは、少しずつ神に近づいていくのです。

けれどそんなプーリョも、ひとたび神殿を離れれば一人の女の子。変装のためなのか男装をして、市井の友人のエズリンと遊んだりして羽を伸ばします。森の探検をしたり、祝日に夜遊びをしたり。大巫女見習いとしての真面目な顔と、一人の女の子としての無邪気な顔のギャップがとてもかわいらしいですね。


さて本作品の舞台。それは、私たちの常識とはまるで違う出来事が当たり前のものとされている世界と、その世界の中心にある一つの神殿。そしてその神殿の中心となる、大巫女。でも、いまは大巫女が不在であり、それをほとんどの人々は知らない。隠されている、中心の不在。

また、世界がなぜそうあるのか。神殿には、女神には、いったい何があるのか。神秘の力とは何か。それを知るのは大巫女ただ一人。でも、大巫女はいない。隠されている、世界の秘密。

世界の人々にとって隠されている秘密は多く、そしてそれらは私たち読者にも明かされていません。1巻の段階では、神秘の片鱗が無造作に提示され、むしろ謎は深まるばかり。神殿に多数ある石像は何なのか。神殿でゲームに興じる三人の男は何者なのか。15年前に終わった戦とは。大巫女の役割は何なのか。そして、神殿とはいかなる存在なのか。

最初の数話こそ、物語の導入として異世界での日常の話を描いていますが、進むにつれて明かされない謎がどんどん現れてきます。この、いっそ不親切とさえ言える謎の羅列を受け止められるかどうかが、本作を楽しめるか否かの分かれ目だとは思うのですが、そこを乗り越えられれば、魅惑の異世界に耽溺できるかな、と。

『魔法使いの嫁』 もそうなのですが、どうも私は、私にとっての当り前じゃないものが当たり前に描かれている世界に弱いですね。私の目にはひどく危なっかしく映るものが、その世界の理にさえ従えば、ある程度安全に傍にいられるものとできる描写に、妙に心惹かれるのです。この作品にはそれがあります。

2巻以降で謎が明かされだすのか、それとももっとてんこ盛りになっていくのか。まあすべて明かされる必要はないと思いますが、適度な安心感を得られるくらいには、物語の根幹に踏み入れては欲しい、かな。

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