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2008-12-06

「不気味で素朴な囲われたきみとぼくの壊れた世界」について、重大なネタバレを含みながらも言いたいことがある

不気味で素朴な囲われたきみとぼくの壊れた世界 (講談社ノベルス)

不気味で素朴な囲われたきみとぼくの壊れた世界 (講談社ノベルス)

CAUTION!

以下の文章では、「不気味で素朴な囲われたきみとぼくの壊れた世界」について、作品の根幹に関わる重大なネタバレを含んでいます。未読でかつ今後読むつもりの方は、以下の文章を読んだ場合に作品の楽しみを決定的に損なう場合があります。くれぐれもご注意ください。一応読む気のない方にも内容がわかるような書き方はしてあります。あんまいないとは思うけど。

では以下収納。






という出だしから書いていこうと思いますが、今回の作品で最大に言いたいことは挿絵です。

編集サイドから「こういうカットを描いてくれ」という具体的な指示があったのか、それともイラストレイターであるTAGRO氏の方が主導的に絵を描いたのかわかりませんが、ちょっと作品的にフェアじゃないカットがいくつかありました。

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(同書 p22)

この絵ならまだいいです。ぎりぎりのところで譲歩しましょう。こういう服を着る人もいるかもしれません。

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(同書 p8)

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(同書 p23)

でもこれはさすがにアウトじゃないですか?この二枚では、はっきりと迷路さん(バックアップ)は右前のシャツとジャケットを着ています。

いるかもしれない「この作品を読んでないし読む気もないけど、この記事は読んでる」人のために説明をしておくと、この作品の最大のオチは、最初からずっと「女性である」と意図的に誤認させるように書いてきた病院坂迷路(画像の人間でもあり、表紙の人間でもある。本作のほとんどで一人称語り部を務める)が、オチで「読者はこいつは女だと思ってたかもしれないけど、実は男性でした。ドッギャーン!!」とひっくり返されるものなのですが、そのオチが適切にはまるため、読者を納得させるためには、「『女性ではない』という確証が実はそのときまでどこにもなかった」という前提が必要なはずです。挿絵の中で迷路さんに女物のシャツを着せるのは、ちょっと勇み足ではないでしょうか。


そりゃあもちろん「女物のシャツを着ているのが女性であるとは限らない」という意見は理解できます。ですが、それならなぜ表紙の絵は、こだわったようにぎりぎりで男性と言い訳がつくような格好、及び体型で描かれているのでしょうか。「長い髪をポニーテールで括ったクール系の眼鏡美人」とぱっと見では捉えられる表紙絵ですが、この「彼女」には胸がまるでありません。私も最初に見たときは「胸のないキャラだな」と思ったほどです。服装はどちらかと言えば男性的なものですが、その姿勢、容貌から女性だと判断する方が多いでしょう。

ここまでの描写なら、「実は男性でしたー」と言われても、「くっそー、そういえば確かに女性とは言い切れない描き方だ」というように読者を歯噛みさせることができますが、右前の服を着ていては、「これいつ女物着てるじゃん」と言いがかりをつける隙を与えてしまうことになるのです(ついでに言えば、表紙の「彼女」は腕時計を内向きにつけています。これも避けるべき描写でしょう12/12追記;コメント欄の指摘より、男性教師でも腕時計を内側につけることはあるそうです。miyaさん、ありがとうございます)。

男性が女物を着ていけない法はありません。ですが、女物を着せることで損なわれる必然性はあります。

本来的には本作のネタ、語り部の性別誤認トリック(というかオチ)は、挿絵が使われる「ラノベ」という分野だからこそ効果的にできたものなのでしょう(「ラノベ」の定義云々を言い出すとしちめんどくさくなるので、それはおいといて)。西尾先生は、そこらへんを充分に自覚していたに違いありません。おそらく作中には、語り部である病院坂迷路の容貌を形容する言葉は一度もでてきていないはずです。ですから、読者は「彼女」の容貌を挿絵からのみで想像することになります。いや、挿絵という極めて具体的なイメージを与えれた以上、「想像」などという自由度の高い物ではありえないでしょう。表紙や各カットの「彼女」の絵からほとんどぶれはしないと思われます。

また、この病院坂迷路は、同姓同名の実在した同じ血筋の女性の「バックアップ」(作中でそう自称しているが、具体的にどういうものであるか言及されているわけではない)であり、それを何度も繰り返すために、「彼女」自身は一度も性別を明らかにしていないにもかかわらず、本物の「病院坂迷路」と同じ女性であると読者は勘違いさせられるのです。


このように、周到に「ギリギリで言い訳の利く性別誤認」を図ってきたにもかかわらず、「実際に女物を着てしまっている『彼女』」の絵のために、折角の言い訳が説得力を薄れさせてしまうのです。私は8pの挿絵を見て即座に思いましたよ、「ああ、胸はないけど、この迷路さんは女性なんだな」って。

あるいは、もし「彼女」自身の口でもなんでも、「自分は痩せすぎ」云々の台詞・描写が出ていれば、まだこの絵でも言い訳の余地は残っていたでしょう。実際私の友人にも、古着の女物のシャツを着ていた細身のおしゃれさんはいましたから。高校の頃の話ですから、社会人にもなってそのような格好をするのはいかがなものかとは思いますけども、まあそれは「象牙の塔の人間だから」ということでエクスキューズとしましょうか。それでも、表紙の絵が男性風の服装である以上、他のカットでもそれらしい服装をさせた方がよかったのは間違いのないところです。


この作品はそもそも、ミステリのお約束として殺人事件が起こるわけですが、そのトリックの解決がメインであるわけではありません(そういえば、帯に「名門女子高を襲う七不思議殺人事件!」の惹句があるんですけど、本編で七不思議の話が出るのって結構終盤なんですよね。いいのかな、そんなの帯で明かしてちゃって追記;嘘でした。最初の「なまえ欄」で書かれてましたね)。この作品のほとんどは、病院坂迷路の性別誤認オチまでの壮大な前振りであり、同時に、もう一人の主役、むしろ真の主役である串中弔士の「人でなし」ぶりを活写するところが目的となります。だからこそ、挿絵なんかで、作者の意図していないところでその面白さを減じてしまうというのは、編集部の怠慢であるという謗りは免れなれないでしょう。本来なら、カットが上がってきた段階でストップがかかるはずです。「TAGRO先生、これじゃあ迷路さんが本当に女性になってしまいますよ」と。


時既に遅くはありますが、せめて二刷以降ではそこらへんを直してくれたらなあと願って止みません。


追記;コメント欄、トラックバック先でも、この問題についての論がなされてます(私の問いの立て方に対する反論という形で)。興味のある方は、そちらも読んでみてください。




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mokimoki 2008/12/07 02:06 はじめまして。
迷路のイラストはミスではなく意図的なものでないかなぁと思います。
TBさせてもらいましたが、詳しくはそちらで。

えへへえへへ 2008/12/07 02:36 上の方のコメント、TBにあるように女装をした男性という位置づけだと思います。
そのあたりが割愛され「実は男性だった」しか書かれていないのでアレですが。
ただこの割愛も、2作目へのアンサーというか気付いてねっていう著者の意図のように思います。

yamada10-07yamada10-07 2008/12/07 03:23 そういえば、本家の迷路が男装の麗人だという設定がありましたね。それについてはすっかり失念していました。確かにそれを勘案すれば、迷路(バックアップ)が女装していることの必然性は説明できますし、イラストとの整合も取れますね。
ですが、迷路(本家)が男装を中学生時代に「静かなる人払い令」の立場からしているのに比べて、迷路(バックアップ)が、仮にもいいとこの私立女子校に出向している講師なのにもかかわらず女装しているというのは、なんだか設定としてギリギリな感じはすると思います。少なくとも、迷路(バックアップ)が男性であるというのは、作中の登場人物(教師や生徒)の間では周知の事実であるという設定(そこがうやむやにされるようでは、名門女子高とはいえないでしょう)でしょうから、名門私立女子高の教師が女装の男性というのが作中で一切不問にされるのはどうかな、と。まあ女装というか、「ギリギリで女性に見える」くらいの格好ではありますが、なればこそ校長や教頭などは、「誤解を招くような格好は慎んでください」「生徒に悪影響を及ぼしかねない行動はやめてください」と注意の一つもするでしょう。あるいは「病院坂の奇行はもう一般常識に近い」というような設定だとしたらもうお手上げですが、象牙の塔から送り込まれた若い臨時講師相手ならば、そのくらいの指導はできるのではと思います。
いくらか荒唐無稽であることが魅力であるフィクションに、そういうことを言い立てるのは無粋であるのかもしれませんが、荒唐無稽さは、他の箇所がまともであるからこそ引き立つものだと思います。絵の女装が作者の意図どおりだとしたら、他のまともな部分の描写とのバランスが悪くなってしまいますし、そうでないのだとしたら(私の記事のような状況なのだとしたら)、作者の意図を減殺させてしまっているのではないでしょうか。

yamada10-07yamada10-07 2008/12/07 03:35 あ、あと前作を知っていなければ上手く機能しないオチを作るのは、西尾先生らしくないなあとは思います。「ザレゴト・デクショナル」で、「『戯言シリーズ』は、いないとは思うけど途中から読んだ人にネタバレしないように書いている」というような記述があった気がします。まあ今回の場合、前作を知らなければ性別誤認オチだし、知っていればもう一ひねりある、という二段構えということで、話は少し違うのかもしれませんが。

えへへえへへ 2008/12/07 03:48 設定としてギリギリという点に関しては、所詮作り話だから、それよりも「西尾作品だから」で片づけられるのではと思います。いや、大いに不満ではあるでしょうが。

また、過去作を知らなければ…についても、知らなくても女装した男性だったと言われてしまえば片づくのかなと思います。これもまた「西尾作品だから」になるわけですが。仰るように、普通の誤認オチでさらに過去作とのリンクだよ、的なニュアンスではないかと。

えへへえへへ 2008/12/07 03:57 とはいうものの、女装した男性だ、だからイラストが女性でも問題ない(真実はわかりませんが)ってオチ自体は ガッカリでしたけどね。

mokimoki 2008/12/07 15:04 推測の域を出ないですが、イラストが編集部のミスだという可能性は低いでしょう。
TAGRO氏の掲示板で本人のコメントがありますが(ついさっき確認)、それも傍証となると思います。

その前提の上で、この仕掛けが成功してる/苦しいというのは読んだ人個人に依る感想ですね。自分としてはえへへさんとほぼ同じ見解です。西尾維新だからということと、世界シリーズは実験的な要素が強いということ。普通に女装で通っちゃうのが病院坂の病院坂たる所以かなーという気はします。
>あ、あと前作を知っていなければ上手く機能しないオチ
オチというよりは、前作を読んでいれば気付き得るモロネタバレの伏線と評した方が適切でしょうか。この場合前作のネタバレになっているわけではないですし。そういった意味での前作とのリンクは戯言シリーズでもあるのではないかと。もしかしたら次作で病院坂の特性が語られることでのサジェスチョンはあるのかもしれません(そしてそれを最初から予定していたという構成の可能性もありますね)。

yamada10-07yamada10-07 2008/12/07 17:46 ここまでくると、読者個人の受け取り方次第、mokiさんの仰るとおり、「読んだ人個人に依る感想」で左右される領域になってしまうかと思われます。私としては、「西尾先生だから」「実験的な要素が強いから」というので容認するのはやはり心苦しさを覚えてしまうのですけどね。

>また、過去作を知らなければ…についても
>オチというよりは、前作を読んでいれば気付き得るモロネタバレの伏線
やはり、03:35付けのコメントは、後半の方が適切ですかね。

お二方のおかげで、迷路(本家)が男装の麗人であるということを思い出せ、読み方の別解釈を示唆していただけました。コメント感謝いたしますm(__)m

miyamiya 2008/12/12 00:35 時計に関してだけ言えば、教職の人の中には男性でも内向きにつける人はいますよ。テキストを持ちながら手首を返さずに時間を確認できるので、時間を気にしていることが生徒にバレずに便利なのだそうです。

yamada10-07yamada10-07 2008/12/12 00:39 ほう、それは初耳です。それなら内向きの時計も不自然じゃないわけですね。興味深い情報ありがとうございます。

csan_01csan_01 2008/12/18 04:17 オチの伏線が本文中線あったか?と思いお邪魔しました。
そういえばオリジナルも男装してましたね・・・
完全に失念してました。
しかし、やっぱり本文中に伏線はないみたいですね・・・。
個人的ですが、なんか納得いかないわーw

yamada10-07yamada10-07 2008/12/18 20:58 私も納得いかないですw
いっそのこと服装をもっとわかりやすい女装にしてくれれば、「病院坂」の奇人ぷりが強調されたと思うんですが、表紙がなまじどっちともとれる服装の分だけ「日和ったなぁ」と感じてしまいます。オリジナルの男装を暗黙のうちに示すだけでいたいなら、それくらい思い切ってほしかったです。

 2009/08/10 11:33 最近この作品を読んだので、今さらですがレスさせてもらいます。

バックアップの迷路が右前のシャツを着てるのは
単純に体格が細すぎて女っぽいから自分に似合うのがレディースサイズしかなかったってだけじゃないんですか?
オーダーメイドや色々探せば合うサイズもあったかもしれないけど
探すのが面倒で手近な店で女物のシャツですませたって思ってました。
見た目女なキャラだし(笑)
むしろ私としては一枚目の服を男が着る事はファッション的にありえないのでそちらの方がよっぽど問題かと思います。
多分、体格は細身の男と取れなくもないので最初から読者に「あ、このキャラ男だ!」と気づかれたらこの小説自体オチのないものになるので、
ややこしいけど、しかたなく最初の挿絵に一枚だけにモロに女物の服を着せたのだと思ってました。

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