「地球最後の日 SFセレクション (5)」(赤木かん子・編)

地球最後の日 (SFセレクション)
地球最後の日 (SFセレクション)」(赤木かん子・編)
 このそうそうたる収録作を見てください。

「The End of the World」(那須正幹
「悪夢の果て」(赤川次郎
「おとうさんがいっぱい」(三田村信行
「電話がなっている」(川島誠
「おむかえがくるよ」(曽祢まさこ)

 このシリーズ、普通のSF入門アンソロジーだと思ってスルーしていました。大間違いでした。赤木かん子おそるべし。なにしろ「だれかを好きになった日に読む本 (きょうはこの本読みたいな)」の最強トラウマコンビ「The End of the World」と「電話がなっている」を収録している上に三田村信行の「おとうさんがいっぱい」まで載せるんですから。読まされる方の身になって考えてください。「だれかを好きになった日に読む本」でさえいたいけな少年少女の心に大きな心の傷を残したというのに、さらに怖い話を上積みしていったい何がしたいというのでしょうか。ひょっとして赤木かん子はトラウマ児童文学界の王座をねらっているのか?こういう事はどんどんやってください。子供の心に傷を与えるのは児童文学の重大な使命のひとつですから。
 「だれかを好きになった日に読む本」はいわばトラップでした。このタイトルでこんな怖い話ばかり載っているとは普通考えません。それに対してこの本のタイトルは「地球最後の日」。怖い話であるということは予想できます。でも宣戦布告していれば何をしてもいいということにはなりません。とにかくこわすぎ。
 簡単に内容紹介を。

「The End of the World」 
核戦争の話です。家族とともにシェルターにこもった少年が主人公。どこかから放射線が漏れていたらしく、家族が次々に死んでいきます。この家族が弱っていく様子が詳細に描写されていてとにかくこわい。

「悪夢の果て」
2003年だから比較的最近の作品です。子供への奉仕活動義務化が実は徴兵制への布石だったというお話。子供を犠牲にする大人の身勝手さへの怒りが伝わってきます。とにかくこわい。

「おとうさんがいっぱい」
家におとうさんが何人も帰ってきた。どれも本物みたいだけど、いっぱいいたら困るので誰か一人を本物と認定しなければならない。不条理な設定で人間の実存とはなんぞやと問いかける問題作。とにかくこわい。でもどこが「地球最後の日」と関連するのかわかりません。

「電話がなっている」
階層社会テーマ。試験によって人間がランク付けされ、最低ランクになるとハンバーグにされてしまいます。設定が非常に仰々しいですが、この話の本当の怖さは違うところにあります。未読の方は是非自分の目で確かめてください。とにかくこわい。

「おむかえがくるよ」
国家的な姥捨て山です。70才になると殺されてしまことになっています。ところがいやらしいことにくじに当たれば生き残ることができるという希望を残しています。人間の醜さがこれでもかと描かれていて、とにかくこわい。

 「地球最後の日」というタイトルが付けられていますが、不条理系の「おとうさんがいっぱい」をのぞけば全て人災です。もちろん編者の恣意的な選択なんですが、暗い世相を反映しているように思います。