「丘の上の人殺しの家」(別役実・スズキコージ)はてなダイアラー絵本百選

丘の上の人殺しの家

丘の上の人殺しの家

 丘の上にある「人殺しの家」には、人殺しの三兄弟が住んでいました。この三人の目下の悩みは、お客が来ないこと。12種類ものとびきりの殺しのメニューを用意しているのになぜ客が来ないのか……?あまりに商売が暇なので、巡査にまで心配される始末。三兄弟はお客を呼ぼうと試行錯誤しますが、どれもうまくいきません。そこへ一人のおばあさんがお客として現れましたが……。
 童話に限らず、エッセイでも犯罪評論でも戯曲でも、別役実の芸風は徹底してボケ倒すことです。この人殺しに依頼が来ない理由は一目瞭然に思えます。彼らが通常の人間が人殺しに期待することとは違うことをしているからです。しかし別役のボケに引き込まれるうちに、だんだん自分の方が間違っているのではないかという気分にさせられます。そして最後には神が登場してカタストロフをもたらします。ここまでされたらもう別役ワールドに平伏するしかありません。
 別役実の紡ぐ物語世界だけでもう充分楽しめるのですが、もちろんこの本のもうひとつの主役はスズキコージの暑苦しい絵です。彼の絵で描かれる人殺しや拷問の道具の数々。「指挟み器」「眼玉くり抜き器」「股裂き器」。天井からぶらさげたお客さんを針金の先につけた猫の尻尾が四方八方からくすぐるという「くすぐり殺し器」、五寸釘を植えたベッドに寝かせて上から12トンの石を落として押しつぶす殺人方法。残酷なはずなのにのどかさが感じられるのが不思議です。
 さらに、町へ人殺しの勧誘に出かけた三兄弟が出会った、人殺しより恐ろしい人々の姿も圧巻です。さらにさらに、警察署長さんの後頭部の個性的なハゲ、はたまたラストに登場する神様のあまりに神々しすぎるお姿。見所をあげていくときりがありません。
 不条理ギャグを描かせてこの別役スズキコンビに勝てる作家はそうはいないはずです。ばかばかしくも不可思議な世界に浸れる一冊です。

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