『なりたい二人』(令丈ヒロ子)

なりたい二人

なりたい二人

「ムギ、そんなにこまやかに気をつかってくれていたのね……。そっか、積極的に避けてくれてありがとう!」(p46)

「クラスで一番でっかい地味めの女子」のちぇりと、「クラスで一番ういてる孤独なぽっちゃり男子」のムギは、同じマンションの同じ階に住んでいて家族ぐるみでつきあっていた仲のいい幼なじみでした。しかし、小学校高学年になるとカップル扱いされるのがいやでちぇりはムギから離れ、ムギもそれを察してちぇりと距離を置くようになり疎遠になっていました。ところが中学校の職業調べの学習で余り者同士ペアを組まなければならなくなり、おたがいツンツンしながら仲睦まじく課題をこなしていくことになります。
職業学習を通して子どもが自分の将来や生き方を考えていく物語と平行して愉快なラブコメが展開される、令丈ヒロ子らしい教育的かつきちんと読み物としておもしろいエンターテインメント作品になっています。
この作品では、師匠の山中恒っぽいところが散見されるところも楽しかったです。まず章タイトルの最後を「……二人」で統一している細かい工夫が師匠っぽく、ちょっとドライだけど内容を期待させるものになっています。一時疎遠になっていた幼なじみが無理矢理共闘させられるシチュエーションからも、師匠の『おれがあいつであいつがおれで』などが思い出されます。
そして、主人公二人をとことん罵倒する破壊的ギャグも師匠の域に迫っています。いわく、「でっかくておばさんくさい保育士風女子」と「よく太ったおとなしめの保育園児風男子」、いわく、「女子力ゼロ女子」と「非モテ男子代表」。ちぇりが自分の身長を利用して人を威圧する場面の「自分でもこわいと思うほど、にゅっと首を伸ばして、高いところから見下ろしてそう言ってやった」という妖怪じみた描写も笑えます。