『黒猫さんとメガネくんの初恋同盟』(秋木真)

黒猫さんとメガネくんの初恋同盟 (つばさ文庫(角川))

黒猫さんとメガネくんの初恋同盟 (つばさ文庫(角川))

「怪盗レッド」シリーズで大人気の秋木真ですが、今回の作品は著者にとって原点回帰的な作品になっています。2007年の秋木真デビュー作の感想でこんなことを書いていました。

彼の作品はこれ以前に児童文芸に掲載された短編と地方の文芸誌に掲載された短編の2作を読んでいて、ひそかに注目していました。どちらの作品も男子を主役とした片思い小説です。ヒロインはあまり他人にはいえない特性を持っていて、主人公は自分だけがそれを知っていてヒロインの保護者役を引き受ける特権を持っているという構造の作品でした。ただし、物語終了時点になっても主人公はヒロインからまったく男として見られることはなく、甘さと苦さがいい具合に同居した作品になっていました。男子主役の恋愛ものは児童文学界ではほとんどフロンティアなので、秋木真にはぜひこの分野を開拓してもらいたいと思います。
http://d.hatena.ne.jp/yamada5/20071025

そう、秋木真は恋愛ものを書くべきなのです。男性作家による男子主人公の恋愛メインの児童文学は、ほとんどありません。最近は如月かずさが開拓しつつありますが、先に手を出したのは単行本デビュー前とはいえおそらく秋木真のほうです。ぜひこの路線の作品も書き続けてもらいたいです。
中学2年生の地味系メガネ男子青原優人は、ある日の朝クラスメイトの椎名紗枝が優人の幼なじみの真木野航の靴箱になにかを入れようとしている現場を目撃します。椎名さんは悪魔と黒魔術が好きな変人として有名で、呪いの儀式をしようとしているようにしか見えませんでしたが、実は航宛のラブレターを仕込もうとしていました。現場を見られた椎名さんは、驚くべき取引を持ちかけます。椎名さんは優人の思い人が自分の親友の美島ひかりであることを知っていて、優人の恋の手助けをすることと引き替えに自分と航の仲を取り持つようにと迫ったのです。こうして二人のあいだに同盟が成立しました。
椎名さんの変人キャラが立っていて、それに振り回される優人の様子が大変笑えます。椎名さんのような変わり者にも居場所が与えられる優しい世界が描かれているのもよいです。ギャグと優しさの調和した楽しいラブコメになっています。
主人公の青原優人という名前は名は体を表していて、穏やかで心優しい草食系男子として設定されています。今の時代にふさわしい優しい恋愛物語、これこそわたしが秋木真に期待していたものです。繰り返しになりますが、ぜひこの路線の作品をもっと出してもらいたいです。