『プラネット・オルゴール』(小沢章友)

プラネット・オルゴール

プラネット・オルゴール

小沢章友は、主に幻想小説怪奇小説の分野で活躍している作家です。児童書の著作では、これまで古典のリライトや伝記を多数出していましたが、オリジナルの児童文学は2005年の『ムーン・ドラゴン』以来久しぶりです。
小沢章友は以前、死をテーマにした『不死』という短編集を出していました。そのなかで特に記憶に残っているは、「ガンダルヴァ―生命の素粒子」という作品です。この作品には、死者は香りだけを食べるガンダルヴァ乾闥婆)という素粒子になって転生するのだという信仰が登場します。香りという具体的な感覚で死をイメージさせるのが印象的でした。
不死

不死

『プラネット・オルゴール』も、生と死をテーマにした作品です。天文台で働いている青年とおるは、児童向けの「星の教室」である少女から、「ひとは、死ぬと、どうなるの?」「いつかは死ぬのがわかっているのに、なぜひとは生まれてくるの?」という質問を投げかけられます。その質問をきっかけに、12才の誕生日を迎える直前で亡くなったゆりかという少女と清里高原で過ごした1999年・12才の夏休みの思い出がよみがえってきました。
オルゴール博物館を見学したり、星を眺めたりといった、ゆりかとの思い出がリリカルに語られています。幼くして両親を事故で亡くしたゆりかは、自分の死期も悟っているようなふるまいをします。自分の生命力を試すために崖に向かってそりを滑らせるような危険な遊びをしたり、自分の短い生命線を笹の葉で傷つけて伸ばそうとしたり、こうしたちいさなエピソードがどれも痛切な哀しみを喚起します。

「いつも思うんだ。生きていたいって。もっともっと生きていたいって。ひとつひとつためすのは、まだ生きられる、まだ生きていられるって、自分に言い聞かせるためなんだ。」(p69)

そして最後に、タイトルにある「プラネット・オルゴール」という、生と死を円環に閉じ込める鮮烈なヴィジョンを提示します。「ガンダルヴァ」で香りを手がかりにしたように、この作品では聴覚と視覚を頼りに生と死のイメージを探ろうとしています。その壮大さと美しさには、ただただ圧倒されるばかりでした。