『ハルとカナ』(ひこ・田中)

ハルとカナ

ハルとカナ

ハルは八歳。桜谷小学校の二年生。二年二組だ。
八年間も生きているのでハルはもう、たいていのことはわかっているつもり。
(p4)

八歳の男子ハルと、ハルと同様に「たいていのことはわかっているつもり」の八歳女子カナが交互に主役を務めます。
ひこ・田中作品に登場する子どもの多くは、観察する能力に長けています。この作品でも、両親が喧嘩するときは目を見て話さなくなるとか、みんなの方を見ているときはニコニコしている先生が黒板に向かっているときは無表情になるとか、辛辣な観察をします。
ハルとカナは大人を観察するだけでなく、自分たち自身の変化も観察します。いつの間にか男子は男子、女子は女子でつるむようになったことなどを不思議に思ったりします。
子どもはただ観察しているわけではなく、観察することで自分と世界との関わり方の手がかりを得ていきます。その結果ハルとカナは、恋心を発見します。
ハルとカナの縁は、「勇気」がとりもってくれます。カナは自分には勇気がないということを表明できるハルの「勇気」に感心します。ハルも、ハルの友だちでみんなから「気持ち悪いやつ」と思われているシュウマのことを「勇気がある」と評したカナに、やはり「勇気」を感じます。
ここでの「勇気」とは、確固たる自我のことであり、自分の思うままに感じ生きていこうとする主体性のことでもあります。そんな「勇気」を持っているふたりですから、小学2年生にして恋の本質に辿り着いた早熟さも納得できます。
主役のふたりはもちろん魅力的ですが、それ以上に魅力を持っているのが、ハルの友だちのシュウマです。休み時間が終わっても教室に戻るのを忘れたり、体がゾウで頭がキリンの絵を描いたり、「タラバガニって、カニじゃなくてヤドカリの仲間なんだって」といったわくわくする雑学を教えてくれたりと、一緒にいるととても楽しそうな子です。そんな彼はハルの恋について、「ハルはカナちゃんのこと、全部好きだよね」「どこが好きかじゃなくて、全部好き」「そうか、好きって、知らなくてもなれるんだ。すごい発見だぞ、これは」と論評します。小学2年生にしてこの洞察力。どれだけの可能性を秘めているんだ、シュウマ。小学生のころこんな友だちがいたらよかったのになと、詮ないことを考えてしまったのでした。