『ふしぎ古書店4 学校の六不思議!?』(にかいどう青)

ふしぎ古書店4 学校の六不思議!? (講談社青い鳥文庫)

ふしぎ古書店4 学校の六不思議!? (講談社青い鳥文庫)

孤独な文学少女だった東堂ひびきは、用意された運命に反逆して大切な友だちと居場所を守りきりました。これで東堂ひびきの試練は一区切りついたので、しばらくは読者の胃を痛めるようなつらい展開はないはず。楽しい楽しい「ふしぎ古書店」シリーズ、第4巻で実質第2部スタートとなりました。
シリアス展開はひとまず終わったので、第4巻は楽しい方面のシリーズの魅力が増強されています。そのひとつは、読書の楽しさ、物語の楽しさを子どもに伝える「沼」としての側面です。
4巻第1話は、学校の七不思議をめぐる謎を解く、暗号ミステリです。読者をミステリ沼に引きずり込むために緻密に設計された、優秀なミステリになっています。みんなでわいわい言いながら暗号を解く探偵団ごっこを愉悦を、ひびきと親友秋山絵理乃ともうひとりの軽妙な会話で、疑似体験させてくれます。ひびきを絶対的な探偵役とせず、最後の詰めを甘くして犯人当てを外させたのも、親しみやすさを出すためにはいい演出です。読者の方にはかなり印象的なヒントが与えられているので、探偵役を出し抜く楽しみまで味わわせてもらえます。ここで紹介される本が、テキストとビジュアルで初歩からミステリの楽しみをレクチャーしてくれる『くろて団は名探偵』であるのも、いつもながらみごとなチョイスです。
また、怪談は「つくり話」であるとしてその功罪について考察している点も、物語というものの奥深さを伝えるいい材料になっています。
4巻第3話は、逃亡した金魚妖怪をおびき寄せるため、友だちを集めてミニ百物語をする話。ちょうどハロウィンの時期だったので、ひびきは『魔女の宅急便』のキキ、絵理乃は『ふしぎの国のアリス』(の二次創作の『おとぎの国のエリノちゃん』)のコスプレで参加して、愉快なハロウィンコスプレ怪談パーティーになります。
この金魚妖怪の正体は、山東京伝の『梅花氷裂』の藻之花です。福の神のレイジさんは、「少々、刺激が強いお話ですので」と言って、その詳細を語りません。でも、いまの時代インターネットを使えばすぐに情報を得ることができます。これは作者から読者への、「知りたければ自分で調べよう」という目配せにほかなりません。こうやってさりげなくちょっと辛口なお話に誘導し、物語の「沼」に引きこもうとする手口のいやらしいこと。
「沼」への誘導と並ぶ4巻の魅力は、幸福を描く児童文学であるという点です。怪談パーティーのあと、絵理乃はひびきに、自分はいま幸福の絶頂にいるのだということを告白します。

「今日のあたしは、明日には消えちゃうと思う。明日のあたしは、もう今日のあたしじゃいられない。(中略)でも、今日があるから、明日があるわけで、だから、『今日』をなくしちゃいたくない。大事にする。明日の『今日』も、明後日の『今日』も……。っていうか、こんなすごい『今日』を体験してる小学生、ほかにいないよ。こんなの、小説みたいじゃん。あたし、いま、アリスみたいだもん。東堂ひびきは、まるで、キキみたいだし、これ、すごいことだよ。」
(p228)

異常にテンションの上がったふたりは、「わーっ!」と叫んで駆けだしてしまいます。『今日』は失われることを前提としていながらも前向きな、かなしいまでの幸福感。大人になることを前提としている絵理乃とは言っていることは正反対ですが、ピッピとトミーとアンニカが大人にならないことを誓いあったあの「ピッピ」シリーズのラストシーンが髣髴とされます。ここまで痛切に哀切な読後感を残す児童文学はめったにありません。
さて、このまま楽しく幸せな物語が続くのか、それともまた新しい試練が訪れるのか。どちらにせよ、このシリーズが青い鳥文庫史上・児童文学史上に残る重要な傑作になることは、すでに確定しています。