『あやしの保健室 2 思いがけないコレクション』(染谷果子)

あやしの保健室 2 思いがけないコレクション

あやしの保健室 2 思いがけないコレクション

子どもの「やわらかな心」を狙う妖怪が新任養護教諭24歳という設定で小学校に潜り込み、子どもにあやしげな妖怪アイテムを処方する「あやしの保健室」シリーズの第2弾。妖怪の奇野妖乃(あやしのあやの)先生は、今度は海辺の小さな学校に赴任して、子どもの心を集めるべく暗躍します。
第1話の「アザムク」は、支配的な母親に面従腹背しているうちに、嘘つきに取り憑く珍獣アザムクに魅入られてしまった女子の話です。妖乃先生は、嘘は昆虫の擬態のようなものだとしながら、それには技術が必要だから「人の子にとっては、むしろ毒かもしれませんことよ」と警告します。嘘をつくこと自体については断罪しないところが、優しくもあり厳しくもあります。
この話は妖怪よりも母親のほうが怖いし、おそらくこの母親も姑に抑圧されているであろうことが予想され、妖怪が消えてもきれいに問題が解決したとはいいがたい終わり方になっています。そんななかで、自作ラップを披露しつつ盆踊りを踊る妖乃先生にはなごませてもらえます。
第3話「リフジーン」は、理不尽という言葉を使って大人をやり込める男子の話。理不尽という言葉の言霊が暴走したため、妖乃先生は親切めかして言霊を回収してあげようと申し出ます。言葉を使うことへの矜持と責任をめぐる物語で、理屈バカ系の子どもには特に突き刺さる内容になっています。
このシリーズには、児童文学として特筆すべき美点が少なくともふたつあります。ひとつは、子どもの成長する力に対する信頼です。妖乃先生は子どもの心を奪うためにふしぎなアイテムを駆使して悪巧みばかりします。しかし子どもは妖乃先生のアイテムを利用して、妖乃先生の思惑を越えて成長してしまいます。ときにその成長は、悪い妖怪である妖乃先生の思惑だけでなく、一般的な大人の期待する規範すら越えてしまいます。
もうひとつは、幸福感と世界を肯定する態度です。妖乃先生は2巻でも「やわらかな心」の収集にことごとく失敗してしまいます。しかし、そのことに関してはあまり残念そうなそぶりを見せず、予定外に手に入った「お宝」を愛でて楽しんでいます。「うふっ」「うふっ」言いながら妖乃先生が去っていくラストには、異様な幸福感があります。
ただし、この幸福感は基本的に悪い妖怪である妖乃先生の感じている幸福感であり、それが人間の倫理観を逸脱するものである可能性には注意する必要があります。とはいえ、それも多様な価値観を描いているという意味では、成果と捉えるべきなのかもしれません。