『カーネーション』(いとうみく)

カーネーション (くもんの児童文学)

カーネーション (くもんの児童文学)

母親に嫌われている娘の話です。あらすじの説明は、これだけで十分です。
この作品の成果は、まったくなんの理由もなく純粋に、親というものは自分の子どもを嫌うことがあるのだという事実を突きつけたことです。そのために、〈物語〉を徹底して排除するという方法をとっています。
母親には、かつて自分のせいで幼い妹を死なせてしまった過去がありました。母親は、娘がその妹に似ているために愛せないのだと思おうとしていました。これはベタでいい〈物語〉で、「こんな晩」「今度は殺さないでね」式の因果話・怪談話の類型になっているので、納得されやすいです。それに、妹の死というトラウマを乗り越えれば娘を愛せるようになるという、トラウマ克服の〈物語〉としてうまく転がしていける可能性も秘めています。
しかし、それは後付けで捏造された〈物語〉でしかないということを、この作品は暴き立ててしまいます。〈物語〉を捏造する過程を経ることにより、母親の悪意にそれなりの理由があったという可能性は消えてしまい、それは弁解の余地のない混じりけなしの純粋なものとして光り輝くことになります。
では、和解不能な母娘はどうすればいいか、引き離すしかありません。現実的な対処法を提示したことも、この作品の大きな成果です。
〈家族〉という〈物語〉を理性的に完膚無きまでに叩きのめしたこの作品は、圧倒的に正しいです。家庭で苦しい思いをしている子どもの助けになるはずです。