『さかな石ゆうれいばなし』(奥田継夫)

奥田継夫による落語の再話集です。落語は元々陰惨な話が多いですが、この作品集ではその側面が強調されています。「首提灯」や「たがや」の暴力性、「一眼国」の差別性など。登場人物のセリフは落語の文体・テンポなのに、地の文が淡々としているため、その落差から話の残酷さばかりが目に付いてしまいます。
「落語は庶民の反骨精神の産物だという説があるが、私はそうは思わない。もっとドライなアンチ・ヒューマニズムというべきものが底にあるようだ。落語には毒があるのである。うすのろをばかにし、死者をからかい、失敗をあざ笑い、病人に非情である。」とは、星新一の言。著者の意図とは違うでしょうが、作品はそういった面をあぶり出しています。
そんななかでおもしろかったのは、医者の登場する落語を集めてアレンジした「医者たち――魚の骨」です。あとがきによると、しょっつる鍋を食べていて小骨をのどに引っかけたとき、医者にたらい回しされた自身の体験が元になっているとのこと。私怨が入っているだけあって医者に向けるまなざしが過剰に辛辣で、珍妙に味わい深い作品になっていました。