ボクの嫁 私の嫁 〜その7

星乃さんとの思い出。スキLv.1の続き。


あの日以来、私は星乃さんが頼みごとをしやすいような雰囲気を作るように努めていた。
星乃さんが私に頼みやすいように時間を持て余しているそぶりをしたり、
気づいたときに手伝えるようにできる限り星乃さんの近くにいたり、
大したことではないが、何かあればすぐにでも手伝えるようにしていた。
今思えば、少々変かもしれないが、私は星乃さんを変えることに躍起になっていたのだ。


これは少し効果があったのかも知れない。
星乃さんはたびたび私にお願いをするようになった。


今日も先生から頼まれた荷物を運ぶのを手伝っており、
私は星乃さんから頼まれ事をされるのが嬉しく感じていた。


「最近、星乃さんが頼み事することが増えたね」
「ごめんなさい。もっと他の人にも頼みたいんだけど、なかなか…」
「いや、いいんだよ。何かあったら僕に頼むといいよ」


当初の狙い…私に頼み事をすることで、
他の人へ頼み事をすることに慣れさせる、とは程遠いが、
私としてはこれはこれでいいかな?なんて思ったりしていた。
そう……最初の星乃さんを思えば、ずいぶん進歩したな、と思うから。


「星乃さんも変わったよね」
「え…?変わった?」
「うん。僕と出会ったばかりの時とは変わった気がする」
「そうね、あなたと出会ったばかりの時はあなたと話すことにもぎこちなかったし…」
「うん?ああ、そうだね…」


そのとき、私は私が聞いたとある質問の記憶が頭によぎった。


「あのときは変なことを聞いたりしてたよね、ごめんね」
「えっ!?あ…あの、キスの…こと?」


あ、覚えていたのか。


「あの時は本当にごめん。あまり女の子と話したことなかったから、変な事聞いて…」
「ううん、いいの。私も、仲良くなって間もないとこんな感じなのかなって、思って」


そう言って、うつむきながら頬を赤らめる星乃さんが、妙に可愛かった。
そして、そんな可愛らしい星乃さんの力に、
消極的な私と似ている星乃さんの力に、もっとなりたい。
そう思っていると、ふと、心の声が自然と出てしまっていた。


「ねえ、星乃さん、キスしてみない?」


星乃さんがより一層顔を赤らめ、硬直した。
あ…またやってしまったな、と思い、どうしようもない後悔に襲われた。
私はなんとか必死で謝って、取り繕おうとしていた。


もしかしたら、星乃さんは、
「私が星乃さんとキスできなくて困っている」と思ったのだろうか?
星乃さんは私に「困っている顔を見たくない」と言い、
「男の人のことをよく分かっていないから…」と
本来は私が謝っていたはずなのに、逆に謝っていた。


いや、僕の方こそ、いや、私の方こそ、
なんて言い合いをしていたら、なんだか可笑しい気分になって、笑っていた。
やっぱり星乃さんは私と似ていると感じ、面白いなとも思ったし、
「私の方が悪い」と、考えようによっては
星乃さんが自分の意見を前面に出して、積極的な一面を見せた、とも取れるため、
私としては非常に嬉しく感じた。


「ほっぺなら…」


私の「キスがしたい」に対する星乃さんの答えはそれだった。
本当にいいのかな?と思う私に星乃さんは言った。


「あなたの気持ちをもっと知りたいから…」


私の気持ち…?
今の私の星乃さんに対する想いとは一体なんだろう…?
「星乃さんの力になりたい」
「もっと星乃さんと親しくなりたい」
私が思ったのはその気持ちであった。


そっと私は星乃さんの頬にキスをした。
星乃さんが私の気持ちを知りたいなら、私は精一杯星乃さんに気持ちを伝えた。


後で知ったが、頬へのキスは“厚情”という意味があるらしい。


つづく。


その6
その8



星乃さんとキスをした…