エジプト考古学の面白いのは、あれだけ高度、かつ華やかな文明でありながら、幾度と無い文化侵略や戦災、天災で、明瞭な歴史資料が圧倒的に乏しい点。すなわち、我々が教科書で学んだ内容が、生きている間に二転三転する可能性を、全世界文明の中で、最も高く有する文明であり、かつ、最もロマン溢れる文明であると言うこと。
前もちらっと触れましたが、あのツタンカーメンの死因ですら、ここ数年で覆りつつあるんです。ピラミッドが、奴隷を使って強制労働で建てた、と言うのも、とうの昔に否定された「古い常識」。これから、日々、今までの事実をちゃぶ台をひっくり返すように覆す新発見が為されて行くと思うと、ワクワクしませんか? しませんか。
■100年前発掘のミイラはハトシェプスト女王=歯が決め手―エジプト
これなんかも本当に凄い発見で。ハトシェプストは、ううん、分かりやすく例えると、誰だろう。淀君? もっとスケール大きいぞ。まあでも淀君、近いかなあ。イメージ的には、イアフメスが信長、トトメス1が秀吉、3が家康。アメンヘテプ3が家光でアクエンアテンが綱吉。無理矢理戦国=18王朝リンク論。まあともかくそんな人のミイラが100年前に見つかって「その辺のオバハンだろう」くらいに放置されてたわけで。団子屋の女将の墓かと思ったら淀君のでした、みたいな。…あれえ、何か凄さが伝わらない…。この説明、終了。
さておき今回の発見。私の付け焼き刃の知識で補足しておきますと。第6王朝ってのは紀元前2300年前前後にあった王朝。そもそも「第**王朝」というのは、マネトーという昔のエジプト人(プトレマイオス時代=クレオパトラやカエサルの時代)が区分した30の「エジプト王制の区切り」です(歴史研究上ではペルシア支配下〜クレオパトラまでの「第31王朝」として加えて区分する)。有名どころで言うと、ギザのピラミッドのクフ王は第4王朝。ハトシェプストやトトメス、ツタンカーメンは第18王朝。ラムセスは第19王朝。
で、第6王朝ってどんなん? と言うと、私程度のニワカエジプトマニアでは「特に何もないつまらん時代」としか言いようのない時期でしてw 大建築物を造ったでもない、海外と大きな戦いがあったでもない、新しい文化が芽吹いたでもない。まあ、ただ、それは「対外的な記録が残ってないから」という側面もあり。今回の発見を通じて、新たにこの時代/王朝の情報が収集されて、「結構やるよ第6王朝」と、10年20年後の教科書では、ピラミッドやツタンカーメンと同じくらいフォーカスされる可能性も、まあ、ゼロとは言い切れないわけで。今後、どんなデータが、この遺跡から引き出されるか、楽しみでありません。
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興味ある方はこの辺をどうぞ。特に後者は、読めばエジプト好きになること間違いなし。エジプト学入門者のバイブル、と呼んで差し支えない、まさに白眉な一冊。「考古学って覚えること多くて…」というめんどくささを飛び越えた、とっても面白い本です。