テイルズ・オブ・グレイセス

 クリア。以下感想(ネタバレアリ)。

 とにかく戦闘がとても秀逸。このシリーズの戦闘は創意工夫が必要なようで、実際はただのガチャ押しゲームだったんだけど、今回は戦闘の組み立てや、相性の考慮なんかがとても効いているし、パーティーメンバーの選定から含め、頭の使いがいがある。やれることが非常に多く、無駄な要素はほとんど無い。秀逸。アクション系のRPGでは、現時点での到達点と言えるかも知れない。その他のシステムも非常にレベルが高い。正直(失礼ながら)テイルズとは思えない出来映え。素晴らしい。

 一方で残念なストーリー。ベースストーリーと設定はかなり良い。だが展開が大振り大味すぎるし、纏め方が酷い。そしてそんな展開の大味さを助長しているのが、古今稀に見る不愉快な主人公。

 敢えて世間知らずの我が儘子供時代を冒頭で描写したのは、その後の挫折と成長を見せるためのギミック、いわば「アビス効果のインスタント版」かと思ったら、ただ単にプロローグに過ぎず、数年後、外見が成長しても、中身は成長どころかよりワンパターンになっていて、延々それを見せられる。発言の大半が「ねちょっ」と音のしそうな感情論。そのくせ目先の情にフワフワ流されるので実行が全く伴ってこない。結局、最初から最後まで何にもしていない。だから、全く感情移入出来ないし、最後の超ご都合主義的解決が全く心を打たない。

 回りの物わかりが良すぎて、最後までろくすっぽ痛い目を見ずに、被害者ぶってる。「守る」というお題目の元、手を汚さないし、その為にどんどん事態が悪化していく。(ヴェスペリアの)ユーリの「守り方」がしっくり来ただけになあ。その後にこんなのを見せられちゃうと、落差が……。とにかく主人公以外の人物は悪くない。中盤から終盤へ向けて、主人公毒に当てられて個性を失ってしまうのは残念だが、キャラデザで「ウヘェ」と思ったソフィも、パスカルも、プレイしてすぐに気に入ったし、シェリアとヒューバートは「王道」だし、マリクも良い味出している。リチャードも中途半端に途中でパーティー復帰しない分潔い(助からなければ良かったけど。あそこまで行って、生かす理由ってなあー。ソフィもなんだか残念な不時着感。返す返す、アビスは良くやっていた)。まあ、途中で殺す気がないのは分かったので、何の驚きも(緊張感も)なかった。薄っぺらいハッピーエンド。まったくもって、しっくり来ない。

 悲劇描写を避けるハッピーエンドになんて、何の厚みも感動もない。決断を避け、理想論ばかり言う主人公は、このシナリオで良しとした人の写し鏡なんだろうな。多分、自分の生み出したキャラを溺愛するタイプの人だろう。漫画家だったら自分の好きなキャラクターを途中で殺すのに耐えられず描くの辞めちゃうタイプの人だろうな。これが最近の流行? いや、流石に若いユーザーを馬鹿にしすぎでしょう。

 結果、こんなに安っぽい話になってしまった。まあ、全般酷いのだが、特に最後をADVに委ねちゃうのは、RPGとしては職務放棄に等しい。なんだろうね、最近のダラダラムービーを見せるRPGは。ああした物は「察する」のが受け手のセンスであり、楽しみでしょう。そこをああした押しつけがましい手法に逃げないでもきっちり理解出来るように見せていくのが作り手のセンスであり、仕事でしょう。楽しみを奪って、仕事を放棄する。受け手を信用出来ずに、自分のベストを押しつけて満足する作り手は嫌い。いかにも現代RPG的製法と言えばそれまでだけど…ゲーム全般を通じて描写に失敗した「主人公の強さ」を、あんな形で肯定しても納得行くはずがない。自分も中学生くらいなら、このレベルの物語でも納得言ったかも知れないけど。昔と違い、今の早熟聡明な中学生には流石にこのレベルの「子供騙し」じゃあ通用しないと思うけどね。大人は言うまでもなく。

 アビスやヴェスペリアと比べるとサブキャストが弱いけど、それぞれしっかりした役割は持っている。しかし主人公のせいで、それぞれの見せ場はなんだかぼんやりしてしまっている。その主人公には「主人公としてそこにいる」と言う以上の価値が何もないにも関わらず。いわゆる主人公性をプラスにはいっこも発揮せず(回りが勝手にくみ取っていることはある)マイナスにバリバリ発揮しまくる。ゲーム開始5時間後くらいから、エンディングまで、ずっと不快感を何処かに抱えたままプレーしてました。私が「心の最高傑作」にタクティクスオウガを挙げている理由は、主人公が背負っているものの重さをしっかり理解していて、それに時折潰されそうになりながら、現実との折り合いを付けて、地を這って進んでいくその「人間味」。そこの真反対に位置する人物描写。背負わない(背負った気になって回りに預けている)、決断しない、現実と折り合わない、地に足が付いていない。そのくせ、人一倍苦悩する。そして幸せになる。苦悩にも成長をまるで感じない。その「停滞」と「エゴ」をネチネチ、ネチネチ……辟易としました。お陰で、ぶっ続けでやらないで済んだけど。

 ……さて。マイナス部分をこれ以上掘り下げても何もないので、気を取り直して(一旦棚に上げて)、他の部分。グラフィックはヴェスペリアにこそ劣るものの申し分ないし、スターオーシャン4のように綺麗すぎて気持ち悪くなるゲームや、FFのようにゲームであることを捨てた愚かな恐竜よりずっと好き。そもそもXBOX360とWiiを「絵の綺麗さ」で比較することが間違っている。それぞれのハードに持ち味がある。Wiiは「遊べる」ことが最大の意義。なぜアンチWiiの人はPS3や360とグラフィック面で比較するのだろう。レースカーとファミリーワゴンを最高時速だけで比較することに何の意味が? 偶然か必然か、過去最も「遊べる」テイルズがこのハードで出たのは良いこと。

 今回のスキットは良い(相変わらずキャラゲーとしての需要を意識しすぎて蛇足&オフザケが多いけど、そこも含め嫌いじゃない)。スキルも良い。デュアライズによる武器の強化や料理、アイテム作成も楽しい。エレスポットというギミックによって、大半のRPGにおいて記号以下・魔法の補助用具と化していたアイテムの存在が非常に利いていて、それに加えて今まで、ほとんどとってつけたような存在だった料理まで活きている。戦闘も含め、このシリーズの進歩が微細なマイナーチェンジのみの牛歩だった部分が今作で劇的に前進した。ダンジョンの構造も面白く、本当に「スターオーシャンワイルドアームズ(2で割らない)」というレベルに達している感がある。テイルズシリーズが破れなかった壁を堂々と破ったこの(大小引っくるめた)システム面は、本当に心から賞賛したい。(担当)スタッフエライ!

 それだけに本当にこの最低な主人公を軸にしたストーリー展開の雑さが惜しい。それがなければ、ヴァルキリープロファイルオーディンスフィアの域に達していてもおかしくないゲーム。元々その面で期待しても無駄なメーカーだったらそこまで惜しくないが、傑作だったアビス、良作だったヴェスペリアでやれることが分かっているだけに本当に惜しい。勿論、同じテイルズでもラインが異なればそこは相互補完出来ないのだろう。テイルズチームは、決して全ての英知が結集することがない。今後も実現はしないだろう。「ここさえまともなら」と言いつつ、悔しがるのが、テイルズユーザーの定めかも知れない。勿論、その残念な部分があっても、大半のRPGよりは良く出来ている。少なくともテイルズ名義の、いのまたデザインのゲームで、初めて「まともに」楽しかった。個人的に絵師としてはいのまた>藤島なので嬉しかった。

 いのまたデザインは秀逸から微妙まで幅広い。まず最高レベルで揃うことはない。第3者の絵になった際に違和感が強烈に残るキャラが居る。やっぱりいのまたデザインはアナログであり、アナクロでもある。藤島デザインはどれもこれも60点で人の手に委ねた際にもしっくり馴染む。しかし時代の先端に近い位置にいる。結果、今の評価ではいのまたデザインが藤島デザインを超えることはまず無い気がする。惜しい。けど「古い物」ってのはそういう物だと思う。好きな人だけ愛でればいい。

 Boaの曲は嫌いじゃない。アビスと比べるのは気の毒だけど、ヴェスペリアBONNIE PINKだって好き嫌いあるだろうし(私は好き)。個人的に、ゲーム畑の楽曲はゲーム畑にいる人が歌うべきだと思うけど(商業主義のアニメはともかく)、こうしたエモーショナルに歌い上げる技量のある歌い手がゲーム畑には不足している(と言うより、平易な歌い方が好まれるので排他されていると言うべき?)以上、作品に合う曲は畑違いの歌手の方が多いだろうし。まあ、いいんじゃないですか。

 採点。システム面は10点満点をあげたいところ。ストーリー構成の大ざっぱさで−1。主人公で−5。結果4点。まあ、−5は流石に私の好き嫌いを反映しすぎているので、ここまで拒絶反応示さないだろう人は7点くらい付けて良いんじゃないかろうか。ともかく、戦闘を中心にしたシステムはかなり秀逸。50時間から掛かるRPGで最後まで戦闘が面白いってのは奇跡。このシステムで、アビス・ヴェスペリアのチームに新作を作って欲しい。テイルズ最高傑作が生まれる予感がある。……けど、繰り返すけど、そういう期待はしない方が良いのがテイルズなんだよねー。どうかなー。

 次はドラクエ6かな。実はドラクエシリーズで一番好きじゃないのが6なんですが。それでも、今のRPGと比べるとしっかりしてるからなー。世界樹は4月に延びた。繋ぎが2本は必要です。

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