WANの労働争議と、非営利団体内での労働の搾取問題

昨年発足した、ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)。そこで労働争議が発生した。
ウェブマスターの仕事をされていた遠藤礼子さんが、一方的に契約内容の変更をされ、それにともない賃金も五分の一に減額といわれたということだ。
遠藤さんの抗議の内容やおおまかな経緯は、ユニオンWANのブログ、非営利団体における雇用を考える会(仮)ーWAN争議を一争議で終わらせないーに書かれている。また、遠山日出也さんのブログでも、この件が取り上げられており、ほかにもこの件についてのブログエントリがいくつかネット上にはあり、twitterでも情報や意見の交換が行われている。

サイトのアクセス数が低いという問題を、すべてウェブ担当者に押し付けるというのはどうかと思うし、自称「IT弱者」であるとオープニング集会など様々な場において公言しておられた理事の方々が、冷静にサイトについて評価し、問題点を把握できているのか、正直いって疑問だ。むしろあのサイトは、内容やそのごった煮的なコンセプトに問題があるのではないかと私は思うが、まあサイト自体の問題は置いておいても、このいきなりの労働内容の一方的変更通告、そして給与大幅減額通知というのはひどい話しだ。

このユニオンWANについて、WANのサイトに遠藤さんが記事をアップしたが、あっという間に削除になったという。その経緯も、上記ブログに書かれている。「削除すればいい」と短絡的に考えてしまうところが、ファイトバックの会のウェブにおける対応を彷彿とさせる。外部に対して何の説明もなく削除をする(しかも、自らの団体が問われている問題に関して)というのは、あまりにまずい対応だろう。

今回の労働争議について聞いたとき、悲しいかな驚かなかった。私はWAN外部の人間であって、内部のことは詳しくは知らないが、あまりにありがちな、予想通りの展開だったから。WANについで今まで(かなり限定されているのだろうが)聞いてきたことからも予測できたし、女性運動および非営利団体の世界の中で、よくあるパターンを踏襲しているからでもある。市川房枝記念会で雇用されて、そのあまりにひどい賃金や労働条件に関連して組合をつくって運動していた方々が、婦選会館の耐震工事を理由に解雇を通告され、裁判を戦っていたこと(一昨年、高裁にて和解成立)は記憶に新しい。(市川房枝記念会の未来を語る会当ブログの関連エントリなど参照)また、裁判までいかずとも、NPOや運動体内でのひどい労働状況のため、どんどん人がやめていった話しなども、日常茶飯事だったりする。運動体内での労働問題のため、いったいどれだけの人材をフェミニズム運動が失ってきたのか、、。賃労働の場合はもちろんそうだし、「ボランティア」の名のもとで労働の搾取が行われていることも頻繁にある。「非営利」「運動」という名のもとに、奉仕精神をもち、非常に安い給与や無償での労働を、ひどい労働条件のもとで行うことが当然であるというような価値観は、いまだに横行している面がある。

WANに関しては、昨年5月にそのオープニングイベントに出たときの感想を当ブログに「WANオープニングイベントに出て」とエントリとして書いたのが、そこのコメント欄でのやりとりの中で、WANの労働が当初からかなり大変な状況であることが書き込まれている。また、昨年6月に開いた「フェミニズムとインターネット問題を考える」研究会においても、フェミニズム運動体においての労働搾取問題がひとつのテーマとして浮かび上がり、とくに「ウェブ担当者」的役割を担う人たちの過重労働問題について少々議論がなされたが、WAN関係者だという方が、「賃金を払っているから労働力の搾取という表現はおかしい」という趣旨のご発言をされたのだった。(「フェミニズムとインターネット問題を考える」研究会終了エントリ参照。)

私自身も、日本の女性関連運動体のウェブ担当者的な役割をしていたことがあるが、ITがよくわかってないと自認する人たちから、時間を問わず、急ぐべき仕事もそうではない仕事も関係なく、あれやれこれやれと指令がきて、すぐ対応しないとまた催促がくる状況というのはたしかにあったし、大変だった。そして、ウェブサイトをつくるだけではなく、「どうやって使えばいいの?」レベルの質問にもかなり頻繁に対応しなくてはいけなかった。WANのオープニングイベントで私がみた印象からいえば、「使い方」の説明におそらく相当な時間を費やさざるを得なかっただろうことが推測できる。
また、ユニオンWANブログを見ると、業者は曜日・時間を問わず対応してくれるのに、遠藤さんは勤務時間内のみの対応なのがWAN理事の不満点のひとつとしてあがっていたようだが、時間を問わずに何でも依頼がきたらたまらないだろう。そして、遠藤さんの場合、複数の仕事をもたないと生活が成り立たない状況であったようなので、これを条件にされて、業者と比較されるというのもどうかと思う。

WAN理事サイドの説明も声明も何もでていないので、使用者側の主張など、まだいろいろわからない面もあるが、とにかく突然の労働条件の不利益変更はひどい対応だと思う。また、非営利団体における雇用を考える」という遠藤さんのご主張は、ひじょうに重要かつ緊急の問題提起だ。労働者側への不利益がないように、争議が解決してくれることを願う。この問題、またいろいろ展開があるだろうから、私もフォローしていきたい。