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2008-01-03

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○2007年 読書の収穫。


1位      渡辺靖「アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所」

                      (新潮社 ISBN:9784103060314)

                                                     



2位      木下直之「わたしの城下町―天守閣からみえる戦後の日本」

                    (筑摩書房 ISBN:9784480816535)




3位     稲葉振一郎「経済学という教養」

                  (東洋経済新報社 ISBN:9784492394236)



4位      田中森一「反転―闇社会の守護神と呼ばれて」

                      (幻冬舎 ISBN:9784344013438)

                    


5位      吉田豪「男の卍固め」

                    (幻冬舎 ISBN:9784344409194)



6位      宇月原晴明「信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス

                    (新潮社 ISBN:9784101309316)



7位      佐藤優「獄中記」

                     (岩波書店 ISBN:9784000228701)

                                    

8位      上杉隆「官邸崩壊」

(新潮社 ISBN:9784103054719)



9位       野口武彦「新選組の遠景」

                     (集英社 ISBN:9784087747133)



10位     伊勢崎賢治「武装解除 紛争屋が見た世界」

                      (講談社 ISBN:9784061497672)

                   

今年のベスト選考はいつにも増して熾烈をきわめた。選考の目安として、読後インパクトの強さを念頭においた。むろん選考員は私ひとり。

心情本屋的に振り返ってみれば、佐藤優大ブレークな一年ということだろうか。7位に「獄中記」をえらんだのもそんな時代の空気を反映させたかったから。

今年の業界を予言的に語るなら、新書のブームは終息にむかうだろう。なんとなくの勘でしかないが、新旧入り乱れての新書棚確保合戦、そろそろ勝負が見えてきたのではないか。今年一年でヒットが出せなかった版元は撤退を余儀なくされると予感する。岩波サン、大丈夫ぅ?

なお、宮崎哲哉・藤井誠二「少年をいかに罰するか 」、鹿島茂「ドーダの近代史」、竹内洋「大学という病」、片岡義男「映画の中の昭和30年代―成瀬巳喜男が描いたあの時代と生」等など、結果的にベスト10からもれた本たちにも、この場をかりて「ありがとう」を申し上げる。以下ベスト本の寸評。

アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所

1位、「アメリカンコミュニティ」。著者が訪れるアメリカ各地のコミュニティはどれもこれも珍妙さがただよっている。鶴瓶が訪問するような日本の市町村とは別クチのものだ。

オンリーワン。

今風に評せばそうだろうけど、そのオンリーワンにはなんとも言えない寂しさがモレなくついてくるみたい。

ちょっと大げさかもしれないが、「自由」って概念理解の日米の間に横たわるギャップの途方もなさを改めて思った。どちらが良くてどちらが悪いということでなく。以前書いた感想はコチラ!


わたしの城下町―天守閣からみえる戦後の日本

2位、「わたしの城下町」。

天守閣とは日本の城の特徴的建造物。木下先生は、日本各地の天守の保存や再建の動機を調査し、そこから見えてくるニッポン人の城イメージの変遷をたどった。日本海軍軍艦の艦橋部分も、著者は天守閣の様式とみているようだ。建造される用途や材料を時代ごとに変えつつ、近世以降一貫してに支持されてきた天守閣スタイルの根源に迫る。以前書いた感想はコチラ!


経済学という教養

3位、 稲葉振一郎「経済学という教養」。経済学の立ち位置、存在理由を再確認する本。不況の克服する処方箋は、聖域なき構造改革の断行か?それととも公共事業投資に税金を投下することか?以前書いた感想はコチラ!

人文的な公共圏云々のアプローチがうざったい方には、竹森俊平「経済論戦は甦る」をオススメ。


反転―闇社会の守護神と呼ばれて

4位、田中森一「反転」。自身の逮捕起訴事案を検察の国策捜査と告発する形式は佐藤優「国家の罠」とよく似ている。ただ、検察という集団の習性を知り抜き、巧みに利用した田中の弁護士としての手腕が神通力を発揮したという事実が、田中の国策捜査主張を裏書きしている。ゆえに、これに反駁するのは相当厄介だ。

プラハ合意後、空前の景気にわいたニッポン。あの当時のバブル紳士たちを間近で見た者の談話としても貴重。以前書いた感想はコチラ!


男気万字固め (幻冬舎文庫 よ 10-1)

5位、吉田豪「男気卍固め」。インタビュー仕事においてサブカル界屈指の男・吉田豪。彼の発明に、インタビュー対象者が好む言葉で相づち、アイノテを入れるというワザがある。

「男の卍固め」山城新伍の場合、「アナアキーですね」がそれ。また、さいとうたかをの場合、「1+1は2じゃないんですね!」というアイノテを挟んでいる。

対象者の持論や他人からどう見られたいかという自己像のなかに、どうやら相手をノセるアイノテ言葉が潜んでいるようだ。

とはいっても吉田に相手の心を読むような超能力があるわけではない。私見では、相手をノセるアイノテは、膨大な量のタレント本を読むあさる日々の鍛錬によって培われると確信する。以前書いた感想はコチラ!


信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス (新潮文庫)

6位、宇月原晴明「信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」。

山田風太郎ボルヘス、ふたつの偉大なる魂の継承者。宇月原晴明の特徴は、硬質な文体とグローバルな奇天烈着想の融合。

宇月原晴明の見立てでは、日本近代は家康の江戸幕府によって始まるのではないか。つまり徳川幕府の樹立とは、宇月原晴明史観に照らしてみれば魔術的カーニヴァルとしての政治や戦争の終焉を意味するのだ。感服。以前書いた感想はコチラ!


獄中記

7位、佐藤優「獄中記」

公務員にとって愛国心ってなんだろうか。佐藤の本を読むたびにそんな疑問があたまに浮かぶ。

革新官僚、戦前の大学教育と中央集権的官庁システムが生んだ、岸信介に代表される国家主義的官僚の総称だが、佐藤の矜持とは、煎じ詰めれば革新官僚のそれではないか?

野田敬生「諜報機関に騙されるな!」(参照)で中和しながら読むと吉。以前書いた感想はコチラ!

 

 

 官邸崩壊 安倍政権迷走の一年

8位、上杉隆「官邸崩壊」。

オーラが見えると豪語する、淡い色の趣味着物着たオッサンや髪オールバックで、芸人にコンビ名変更を宣告するオバサンは、なんで晋ちゃんにズバリ言わなかったのか?

その点、上杉はエラかった。連中が芸能人相手にペテンを語っているさなか、安倍内閣倒壊をずばり的中させたのだから。

卓抜した洞察力をそなえたペンは、オーラやオールバックより霊験あらたかなのだ。


新選組の遠景

 9位、野口武彦「新選組の遠景」。

「新撰組なんてテロ集団だろ?」って思ってる人や司馬遼文体がばかばかしくて「燃えよ剣」が読む気しない人など、これまで新撰組と疎遠だった方々にむしろお薦め。以前書いた感想はコチラ!


武装解除  -紛争屋が見た世界 (講談社現代新書)

10位、伊勢崎賢治「武装解除」。 

内戦の泥沼化とは、政府側、反政府側双方が愛郷心的イマジネーションがすり減り、紛争調停が破綻した状態をさす。伊勢崎は国連などの武力をバックに、血で血を洗う当事国にのりこみ、その当事者たちの手打ちに具体的な段取りをつけてきた男。手打ちのプロ。

「武装解除」読むにつけ、ニッポン的平穏が奇跡のように思えてくる。

R・ディカプリオが傭兵崩れのダイヤ密売屋を好演した映画「ブラッド・ダイヤモンド」は、シエラレオネ内戦とそれを取り巻く西側諸国の偽善描いた意欲作。こちらもオススメ。以前書いた感想はコチラ!