「マイレージ、マイライフ」"Up in the air" 2009年 アメリカ

B0030XN8VWマイレージ、マイライフ [DVD]


by G-Tools

 リストラ宣告人としてアメリカ中を飛び回り、マイレージを貯めることだけを喜びとして過ごす男を描いた本作。その男を演じるのはジョージ・クルーニー。コミカルもシリアスも演じられる彼だからこそ面白く見える。
 ヒロインは、同じくアメリカ中をキャリアウーマンとして飛び回り、"できる女"よろしく、男関係も割り切った関係を受け入れると豪語する。ヴェラ・ファーミガという女優を知らなかったが、とてもセクシーで美しい。誰でも惚れるよ、これは。
 ビジネスマンの飛行機出張"あるあるネタ"から始まり、観るものの心をつかみつつ、いつの間にか人生観にまで突き刺さるテーマに入ってしまっているこの脚本がうまい。
 役者よし、脚本よし、音楽良し。3拍子そろった佳作だ。


 あらすじ
 ライアン・ビンガム(ジョージ・クルーニー)は、リストラ宣告のアウトソーサーとして企業からリストラ宣告を請負う会社のエージェントとして、アメリカ中を年間322日も飛び回り、見ず知らずのサラリーマンに対してリストラ宣告を行うスペシャリストだ。年間322日も飛行機に乗るため、空港や旅のノウハウの塊であり、"バックパックよりも大きいものは背負わない"ことを信条としている。独身だし、家には何もおかない。常にバックパック一つで飛び立てる。唯一欲しがるモノはマイレージで、これまで7人しか達成していない1000万マイルを貯めることを夢としている。
 そんなライアンが上級会員だけが入れる空港のラウンジで、同じくアメリカ中を飛び回るセクシーな女性アレックス・ゴーラン(ヴェラ・ファーミガ)と出逢。アレックスと"あるあるネタ"で盛り上がり一夜を共にするが、アレックスは"私は割り切れる関係よ"と豪語し、ライアンと連絡を取り続ける。
 一方、ライアンの会社にもリストラが迫ろうとしている。新人の女性ナタリーが考案した新リストラプログラムは、これまでの直接面談方式ではなく、インターネットを通じたビデオチャットでリストラ宣告を行おうとしたものだった。これによりエージェントの出張は不要となり、人員も減りコストも減る。ライアンにとっては今までのリストラ宣告の経験が合うとは思えず、何よりも出張がなくなることでマイルが貯まらなくなるというのに、なんとナタリーの教育係にライアンが選ばれてしまう。
 ライアンの周りにいる2人の女性。そしてこれまで"バックパックに入らない"からと敬遠していた2人の姉妹。4人の女性に囲まれてもライアンは自分の信条を貫こうとするが…
 <ここからネタバレの可能性あり!!>
 ナタリーは新入社員らしく「自分はできる。自分は会社を変えられる」と思い込み、最新の心理学を用いてリストラプログラムを作り、ビデオ・チャットでリストラ宣告するスキームを取り入れようとする。これにより無駄が省かれ、リストラ宣告の会社でリストラが発生するという皮肉に陥る。
 でもナタリーから見れば「古い人間」であるライアンとともにリストラ宣告をすることにより、自分の甘さを知る。直接合うことによる人との距離感、空気感。それを知る事によりこの仕事の責任の重さを知る。そうして持ち前の負けん気もあって、徐々にリストラ宣告のスキルを学び、ついにビデオ・チャットのテストケースで無事にリストラ宣告を行う。
 一方ライアンはナタリーとの気軽な関係を築き、それで満足していたが、ナタリーから見ればあまりにそんな関係は身勝手であり、独りよがりであり、自らの目標となったアレックスの気持ちを考えないライアンに対して憤りを感じてぶつける。
 ライアンはこれまで疎遠だった妹の結婚式にアレックスを誘うことを決心する。それはナタリーからの叱責もあって心境に変化があったからかもしれない。その結婚式で幸せいっぱいだったはずの妹の旦那が突如結婚式を取りやめると言い出す。結婚を決心させる説得役に何故か独身のライアンが駆り出される。思わず結婚しないことを肯定するような方向に持っていきそうになるが、なんとか最後には結婚を決心させる。そしてようやく家族に「おかえり」と受け入れられる。
 こうして人との繋がりを深めるにつれ、ついにライアンはバックパックに人を入れたくなってくる。押えきれない感情に押され、ついにアレックスの家に押しかけると、なんとそこには夫と子どもがいた。アレックスはすでに人との繋がりを知り、人をバックパックに入れていたのだ。
  繋がりを知り、そしてその中で最初に入れたくなった人との繋がりが切れてしまい失意の中にいるライアンに対してちょうど1000万マイルを達成したことが告げられる。なんという皮肉か。全く嬉しく慣れないライアンに対して機長が会いに来る。「お住まいは?」「ここ(飛行機)です」「どうして1000万マイルを貯めようと?」「わすれました」虚しい会話が続く。
  一方ナタリーは自身を取り戻し、自ら考案したリストラ・フローチャートをもとに誰でもリストラ宣告ができる、ビデオ・チャット・リストラプログラムを完成させ会社に導入する。しかし、自ら宣告した一人が自殺したことを知り、失意のなか会社をやめてしまう。
 しかしライアンは人の繋がりに見い出し、ナタリーをこのまま埋もれさせてはいけない、これまで宣告してきた人たちのように切れてはいけないと、次の就職先へ推薦状をかいてナタリーを救う。