「クロッシング」

 イーサン・ホークリチャード・ギアドン・チードルと実力派俳優が主役を固め、さらにウェズリー・スナイプスまで登場する豪華な作品だ。監督のアントワン・ホニャララは、トレーニング・デイでもイーサン・ホークとタッグを組んでいる。
 主役3人はそれぞれブルックリンの警官だが、それだけが共通点で置かれている状況は全く別で、ストーリーもそれぞれに進んでいく。イーサン・ホークは貧しい警官で子宝に恵まれるが、それが家計を圧迫して苦しむ、リチャード・ギアは独身を貫き、孤独に過ごしてもうすぐリタイヤしようとする老刑事、ドン・チードルは麻薬捜査官としてマフィアに潜入調査するも、マフィアのボスに命を助けられたがために恩を感じてしまっているエリート警官。
それぞれが名演技を見せるので、非常に見ごたえのある作品だ。ただ、惜しいのは題名か。"Crossing"なんて題名は合ってない。それだけは言っておく。原題"brooklyn finest"で「ブルックリンの警官たち」って題名はたしかにどうかと思うが、もうしこし何とかならないものだろうか…

<あらすじ>
 イーサン・ホークは、ブルックリンの警官として働いている。同僚の仲間もいて、子宝にも恵まれていて、一見幸せな状況に思えるが、子宝に恵まれたことが家計の圧迫につながり、安い家に住んだががめに、部屋のカビのせいで嫁が健康を崩している。そんな中、嫁に新しい子どもができてしまい、一刻も早く引っ越さないと行けないが、金がない。
 エディ(リチャード・ギア)は、何事も目立つことなく、ミスをすることもなく、淡々と職務をこなしてリタイヤまで22年間警官として勤め上げた。ただ、他人との接触を避け続けたために孤独で、同僚や、新人にさえ影でバカにされる存在だった。リチャード・ギアはそれを特に気にすることもなく、通いつめている売春婦との一瞬だけを取り柄に過ごしている。
 ドン・チードルは出世欲の高い警官で、業績を残すためマフィアに囮捜査官として潜入する。そのマフィアのボスに昔、命を助けられたため、恩を感じてマフィアを切り盛りしつつ、早く潜入捜査が終わることを祈るが、一向に終わる気配も、出世する気配もなく苛立っている中で、なんとその生命の恩人であるボスを囮調査で罠にかけよという命令が下る…

 サル(イーサン・ホーク)は突撃調査の時に触れる大金がどうしてもほしい。安月給でこき使われているにもかかわらず、目の前にある大金は、より給料の良いエリートたちの備品を買い揃えるために使われると思うと我慢が出来ない。いい家が見つかりつつあるのに、みすみすそれを逃すなんて出来ない。どうしても金を手に入れたい、どうにかバレずに突撃捜査のときにどさくさに紛れて金をくすねたいと考えていたのに、最後のチャンスだった突撃捜査が直前でキャンセルされてしまう。しかし、「どうせなら警官がいないほうが確実に金が手に入る」と、ひとりで突撃して金をふんだくる決心をする。
 エディは、リタイアしてあとは売春婦と一緒に暮らせればいいと思った。あの売春婦だってきっと俺のことが好きだろうという自負があった。でも、売春婦にしてみれば仕事に過ぎないわけで、幻想だったことを思い知らされる。そんなとき、不意に目の前を遠った、ヤクにまみれて売春をさせられている女性をみて、いつか署内で張り紙されていた誘拐された少女だと知り、これまで全然役に立ったことがなかったリチャード・ギアだが、居ても立ってもいられなくなり、助けだすことを決心する。
 マフィアのボスを罠にかけることが出世の条件とされてしまったタンゴ(ドン・チードル)は、激しいジレンマに悩みつつも、罠にかけることを決心する。ウェズリー・スナイプスが長年マフィアを支えてきたタンゴの言う事を信じ、あとは逮捕を実行するところまできたが、自分の恩人を捕らえることをどうしても許せず、逃げるように説得を試みた。しかしその時、レッドに殺されてしまう。タンゴは出世を果たすが、長年マフィアに染まったがためか、社会の法ではなくマフィアのルールによってレッドを消す決心をする。
 そうして3人が決心したわけだが、3人が決心して向かった先が偶然にも同じビルだった。サルはなれた手つきで突入し、ギャングたちを一瞬で殺した。もはや警官ではなくプロの殺し屋だった。呆気無く殺した後、金を漁りすぐさま大金を見つけて、ようやくこれで家が帰ると安心した瞬間、生き残っていたギャングに殺されてしまう。
 タンゴはこれまで組織の中でも銃を握ったことのないやつとしてチキン扱いされていたが、その日はマフィアの中ではなく、警官としての銃を握り締め、レッドにまっすぐ向かって銃を放った。逃げ惑うレッドを追いかけ、自分が警官で有ることを告白しレッドをどん底に陥れた上で殺害した。だが、その時サルを追いかけていた同僚の警官がその現場を発見し、マフィアの抗争と勘違いしてタンゴを打ってしまう。
 エディはこれまで命の危険にあうようなことを避け続けてきたはずだが、首尾よくギャング達を始末し、無事に救出する。
 結局、悪に染まった二人が殺され、ただただ欲もなく過ごしたひとりが生き残った。
 しかしね、全員の演技力がいいね。特にイーサン・ホークがやっぱりいい。最後のギャングを殺しに行くところとかめちゃくちゃかっこいいし、殺した後のあの呆気無さそうな顔、そして殺されたときの表情、すべてがかっこいい。
 淡々と終わる結末は好みが別れるかもしれないけど、かなりおもしろいかったですね。