「Grip 報道メディア」における「ユーザーカルマ」とは

というわけで、第三夜はいよいよ「Grip 報道メディア設立 企画書」における「ユーザーカルマ」がテーマです。いちいち「Grip 報道メディア」と書くのは長いので、単に「Grip」とします。おそらくこれが正式名称だったのだろうとも思われます。
では、果たして今夜こそはゴールにたどり着けるでしょうか。



この「Grip 報道メディア設立 企画書」は現在、以下の場所にある。

PDFは全8ページであるが、上記によれば「umeさんの名前が入った1ページ(スケジュールと必要経費のページ)」は省かれているというから、オリジナルは全9ページあったのであろう。実名やスケジュールはともかく、必要経費部分が無いことは資料として痛いのだが、やむをえない。
以下、表紙を除く2ページ目から順をおって「ユーザーカルマ」について見ていこう。

2ページ 「概要」

まず、Gripを構成する3つの主な要素が登場する。見出しを引用する。

  1. 総合ニュースサイト(情報の収束)
  2. 取材依頼サイト(取材記事の一般化)
  3. ユーザーカルマ(ネットユーザーの性向値計測)

ユーザーカルマは実にこのサイトの三本柱のうちの一本であることがわかる。

3ページ 「システム概要」

2ページの三本柱がどのような役割・関係を持っているかを具体的に図解している。

一見してわかるのは、「総合ニュースサイト」と「取材依頼サイト」が良く似た構造を持っていることである。「総合ニュースサイト」は「未出版ニュースページ」と「出版ニュースページ」を持ち、「取材依頼サイト」は「未取材依頼ページ」と「取材済依頼ページ」を持つ。双方とも、記事はまず「未」の方にユーザーによって投稿され、評価と取材の違いはあるが、その結果によってもう一つのページに「昇格」する。

これは昨夜見たDigg/Pliggの構造と同じと言っていいだろう。Gripの2つのサイトの構成はDiggでいう「新着記事」ページと「注目記事」ページの構成を踏襲したものだ。Gripが違うのは、このセットを2組持つということである。

ユーザーカルマはこの2つのサイトを支えるように下にある。2つのサイトにおけるユーザーの行動を「ブックマーカーカルマ」「コメンテーターカルマ」「取材記者カルマ」の3つのカルマとして数値化し、それぞれとその総合のランキングを作るとある。

ユーザーカルマの具体的な説明の部分を引用する。

数値化されたカルマによってニュース評価時の1票の重みをユーザーによって変化させる。

これが、Pliggのカルマ機能そのものであることはもはや説明の要も無いであろう。

4ページ 「ビジネスモデル−概要」

このページで語られているのは、しかし、収益化の方法論ではない。

ネット上における情報・人物の信憑性・性向を測る基準の必要性を説き、このサイトの「ユーザーカルマ」がその標準値となることを目指すことを宣言している。ユーザーカルマの計測基準が並んでいるが、これは昨夜のPliggの基準と基本的に同じ考え方に基づいていることが分かるだろう。

ビジネスモデルについては、ユーザーカルマが浸透すれば「個人発信情報(ブログなど)の口コミ効果などを企業が営利活用する際の仲介ビジネスを確立する」とだけあって抽象的だ。

このサイトの「売り」がユーザーカルマにあるということが強く主張されている。

5ページ 「ビジネスモデル−モデル1 トラックバック広告」

このページでビジネスモデルの具体的な方法論が登場する。

かいつまんでいうと、広告とその広告の商材を扱ったブログをトラックバックで結んで、口コミ情報としての影響力を持たせ、Gripはその仲介サイトとしてのマージンを取るというビジネスモデルである。

面白いのは、トラックバックしてくるブログに否定的な情報が含まれることを許容することは、口コミ情報の信頼性を保つ上で必要だとし、企業側がそれを認識するのを要請していることだ。その上で、目に余る悪質なものをカットし、あるいはトラックバックしてくるブログの信憑性を測る基準としてユーザーカルマを利用するとある。

6ページ 「システム仕様−総合ニュースサイト」

このページでようやく「Digg」と「Pligg」の名前が登場する。画面写真が掲げられているが、これはDiggそのものである。

第一期開発では、「Digg」のコピーそのままが「仕様」である。ソフトとしては「Pligg」を使用する。その上でGrip独自の機能を追加開発するとあるが、注目すべきはその独自機能の筆頭として「ユーザーカルマ値の導入」が挙げられていることだろう。

ここまで見てきてわかるように、機能としての「ユーザーカルマ」はPliggのカルマ機能の拡張であって、Gripの独自機能ではない。Gripの独自部分はカルマ値に託した意義とそれをビジネスモデルに組み込むアイディアであるのだが、これはシステムとしての実装とは性質の異なる部分である。ユーザーカルマの拡張はたしかに追加開発する必要があるのだろうが、「導入」と書いてしまっているのは控えめに言っても誤解を招く部分だろう。

7ページ 「システム仕様−取材依頼サイト1」

8ページ 「システム仕様−取材依頼サイト2」

この2ページにいたって初めて、「ユーザーカルマ」という単語が登場しないページが現れた。ここではDiggを元にGripを実現するための具体的な画面構成が説明されている。Diggにおける「Digg」ボタンが、Gripでは「Grip」ボタンになるだろうことが想像できる。「Dugg」は何になる予定だったのだろうか。「Grop」?


これが「Grip 報道メディア設立 企画書」における「ユーザーカルマ」である。泉氏はこれについて、上記のエントリでこう書いている。

「ユーザーカルマ」という言葉についてですが、これは最後の企画書で利用することを書いた『Pligg』というフリーソフトで使用されている言葉をそのまま使っています。『Pligg』は、『Digg』を真似て作られたGPLライセンスフリーソフトで、その中で元々ユーザーの評価をする単位に「カルマ」という言葉が使われていて、それをそのまま使いました。

これが少なくとも嘘ではないこと、そしてDigg/Pliggの関係についてもかなり正確であることが分かるだろう。

結論的な心象を言えば、Gripの「ユーザーカルマ」とオウムの「カルマ」あるいは仏教的な「業」とは全く違った方向性を持つということになる。「世間に関わることによって増大するもの」という意味では同じ概念だが、それを増すことを善しとするのか、それを減らすことを善しとするのかという意味では全く反対である。
【追記】この部分については、私の認識に誤りがあった。別のエントリを参照されたい。 7/21 16:43

もし万が一これをオウム者が支持・選択したとすれば、随分皮肉な発想を持つ信者であっただろう。とここで言うと、ある人の名前を叫ぶ声が聞こえるような気がするが、私はとりあえずオッカムの剃刀を採用して、その考えを支持しない。

別の言葉にしたらとBigBang氏は提案したそうだが、それも頷ける。Pliggの用語に引きずられたのであろうし、営業的なインパクトも正負合わせて持った言葉であるが、他の用語を検討してもよかったのではないかと思う。結局は幻に終わった企画について改善提案を出しても詮の無いことではあるが。



以上で夏の自由研究「カルマ三部作」を完結します。とりあえず着地しました。
でも、この三日調べていて思うところが別にでてきたので、それについてはまた書きましょう。Walkmanネタが進まないよ。まったく。