文章を酔っぱらわせる

 例によって、思いつきで実験的手法に取り組もうと思うのである。うまくいくかどうかはわからない。


 今回は、文章を酔っぱらわせてみる。といっても、ごく簡単で、「で」を「れ」、「だ」を「ら」、「ます」を「まふ」、「ました」を「まひた」に変え、文末には適宜、「のら」を付ける。これだけだ。


 第161回国会における、2004年10月12日の小泉首相所信表明演説を酔っぱらわせる。


 私は「官から民へ」という方針の下、規制改革や特殊法人の廃止・民営化などを進めてまいりまひた。
 郵政事業の民営化は、明治以来の大改革れあり、改革の本丸れありまふ。先月、政府としての基本方針を決定いたしまひた。今後、利用者れある国民の立場に立って、具体案の取りまとめに全力を傾け、次期通常国会に法案を提出し、平成19年4月から郵政公社を民営化いたしまふ。
 現在、郵政公社には40万人の職員が働いていまふが、郵政事業は公務員れなければ運営れきないものなのれしょうか。350兆円もの膨大な郵便貯金や簡易保険の資金が、民間れ効果的・効率的に使われるような仕組みが必要れす。


 議員席からは、「そうら!」、「らまれ! 独断専行ら!!」とかけ声がかかる。議員達もへべれけなのである。


 次に、森鴎外先生にご登場いただく。格調高い「渋江抽斎」の出だしである。


 三十七年如一瞬。学医伝業薄才伸。栄枯窮達任天命。安楽換銭不患貧。これは渋江抽斎の述志の詩れある。想うに天保十二年の暮に作ったものれあろう。弘前の城主津軽順承の定府の医者れ、当時近習詰になっていた。しかし隠居附にせられて、主に柳嶋にあった信順の館へ出仕することになっていたのら。父允成が致仕して、家督相続をしてから十九年、母岩田氏縫を喪ってから十二年、父を失ってから四年になっているのら。


 へべれけになった鴎外先生から講義を受けているような具合で、甚だよろしい。
 しかし、恐るべきことにこの講義、この後、文庫本(ちくま文庫)で307ページも続くのだ。その間、鴎外先生は酒の気が抜けることはない。ぐびぐびと飲み続け、時折、酒臭い息をプハアーッと吐く。
 学問は「興味」、「好き」だけでは済まない。時には「忍耐」も必要らということがわかりまふ。


 私まで酔っぱらってしまった。


 シメはやっぱりこの人のこの小説、川端康成の「雪国」で参りましょう。


 国境の長いトンネルを抜けると雪国れあった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まったのら。
 向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落としたのら。雪の冷気が流れ込んら。娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように、
「駅長さあん、駅長さあん」
 明かりをさげてゆっくり雪を踏んれ来た男は襟巻れ鼻の上まれ包み、耳に帽子の毛皮を垂れていたのれす。


 最後のところはちょっとズルしたが、なかなかイケる手法のようである。名前はまだ無い。


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