おまえにハートブレイク☆オーバードライブ

2004-12-29

「20年後の10代と尾崎を聴く!〜「15の夜」「卒業」シェリー」はどう響くのか?」

香山リカ『ぷちナショナリズム症候群』(02年)が話題となったことはまだ記憶に新しいが、論壇ではまったく取り沙汰されなかった部分に、論壇以外の場所でだけちょっとした波紋を呼んだ記述があった。最近の若い奴は尾崎豊が何いってるのかわからないらしい、とそこには書かれていた。

大学でこの『卒業』や『15の夜』といった尾崎の代表曲を一八、一九歳の学生に聴かせて感想をきいたところ、多くの学生が「何を怒っているのかわからない」「ひとりよがりの詩で不愉快だ」などと否定的なことを述べた。(中略)歌詞の内容に共感できると答えた学生は約一〇〇人中わずか二人だけだった〉

また香山リカ適当なことをいってんのかとか思ったのだが、なーぜ「シェリー」を聴かせない? などとことあるごとに話題にしていたせいで、編集部からは「シェリー栗原」なんて呼ばれる羽目に。ようしわかったこの際だ、この不肖シェリー栗原が、18、9歳の連中に「実際のところどうなのよ?」と詰め寄ってみようじゃないか、とセッティングされたのがこの座談会である。結果は……読めばわかる。



――えーっと、尾崎豊を聴いたことがある人は?

男1:ベストを聴いたことがあります。親父がパチンコで取ってきたのを。

女2:友だちに勧められて「15の夜」と「卒業」だけ聴きました。

――その友だちはどうして知ってたの?

女2:やっぱたぶん親の影響で好きになったんじゃないかな……。

――他には……、ふたりだけね。じゃあ何はともあれ、いちばん有名な「15の夜」を聴いてもらいましょうか。



♪じゅうごのよーるー、ぬーすんだばいくではしりだすー

――これがデビュー曲なんですけど、そこの、珍しそうに聴いてたお嬢さん、どうですか。

女1:ヤンキーっぽいなぁ、と。なんか恥ずかしい。

――どのへんが恥ずかしい?

女1:なんかこう、校舎の裏でタバコをふかして見つかったら逃げ場がないとか。外の方がバレにくいのに。(一同笑い)

――「金八先生」っていうドラマは見たことある?

(ほぼ全員、何となく知っているようす)

――80年ころ、校内暴力が盛んだったころの回で、学校で暴動が起こって収拾がつかなくなり、学校が警察呼んじゃって、捕まった生徒が「俺は腐ったミカンじゃない!」って叫ぶのがあったのね(ああ、という声)。当時問題になっていた管理教育への批判だったんだけど、この「15の夜」という曲もそういう時代背景を共有しているわけ。

女1:あー。

――学校に行きたくないと思ったことは?

女1:行かない。行きたくなかったら。

――単位が足りない、卒業がヤバいとかになったら?

女1:そこまでは……。やっぱ高校だと救ってくれるところが。先生たちが。

――そこは要領よく、落ちない程度に?

女1:そうですね。

男2:15歳でこんなことは考えてなかった。普通に遊んで暮らしてましたね。こんなふうに自分を追いつめてというのはなかった。

――14、15歳っていうのは、けっこう実存的にどうよ?って時期でしょう。でも、何が抑圧しているかというと見えるのは学校くらいしかないわけじゃない。

女1:そんなに学校が大事じゃなかったのかな。

男1:うん。すごいさらっとやり過ごすような場所でしかなかった。

――ここで歌われているのは学校だけど、もっと大きなシステムみたいなものに絡め取られてしまう自分、というのがこの人のテーマとしてはずっとあって。何かにねじ曲げられてる理不尽さというか。

一同:うーん。

女1:やー。わかんないなぁ(笑)。だったらなんか、中東平和を思ったりするなーとか。自分がそんなになんかされてるって……15歳でー?(語尾やや強く)

――いや逆に15歳だからこそ、じゃない? 大人を敵とかと思ったりしたことは?

一同:んー(と否定的に絶句)。

女1:偏差値とか良かったからね、たぶん。(一同笑い)

――や、偏差値は彼もいいわけよ、青山学院高校だし。だから、いわゆるヤンキーが盗んだバイクで走り出すのとはちょっと意味が違ってくるわけじゃない。

男1、女1:うーん……。

――この雑誌編集者のHさんは、じつは元ヤンキーなんだけど、彼は、「ヤンキーは盗んだバイクなんていわねえんだよ。そこらへんにあるバイクは全部俺のバイクだから」っていうんだよね(笑)。だから、盗んだバイクで走り出して「自由になれた気がした」りするのは、逆に優等生的だと。

一同:なるほどー(笑)

――いや、感心されても困るんだけど……。ま、いいや。じゃあ、もうひとつの代表作である「卒業」を。



♪こーのしはいからの、そつぎょおー

――……という、輪をかけて暑苦しい歌なわけですが(笑)、さっきから大人しい彼女、どうですか。

女3:うまくいえないんですけど、声高にこういうことをわざわざいわない方が楽なんじゃないか、と思っちゃうんですけど。あんまり実際的じゃない、っていうか、昔だったら有効に働きかけた部分もあったのかもしれないけど、いまだともう型としてできあがっちゃってるんじゃないかなって……。

――いまの方が当時よりもっと混沌とした世の中になっていると思うんだけど、いま有効なメッセージって浮かぶ? っていうのは無茶なので、いま何を聴いてますか?

女1:倉橋ヨエコ

女2:マッド・カプセル・マーケットは音楽聴き始めたころからずっと聴いてます。

男1:僕は『Jポップ批評』のバンド・ブーム号を読んだのがきっかけで、80年代後半のバンドをけっこう聴いてますね。レピッシュとか。

――レピッシュ! そっち行っちゃうんだ。

男2:昔の岡村靖幸、聴いてます。先輩の影響で。

――岡村と尾崎って同い歳なんだよ。岡村はいま聴いても通用する?

男2:(うなずく)

――尾崎は?

男2:いやぁ(ちょっと強く否定。一同笑い)。

男1:カラオケとかで歌うとすごく気持ちがいい。そこまで主張するほど思ってないんだけど、ほんとに自分がそう思っているような気にされて、歌ったあとすごい気持ちがいい。そういう意味では通用します(笑)

――まー、いま「支配からの卒業」っていっても、グローバリゼーションからの卒業? ブッシュからの卒業? ってことになっちゃうからねえ(笑)

一同:(笑)

男2:たぶんいまは、そんなに敏感じゃないというか麻痺してるんだと思いますね。反抗とかそういうのはあんま、頭にない。

――何かが変わるとは思わない?

男2:変えている格好いい人を見てないから、変えられるなんて思ってないのかもしれないし、変えることの格好よさっていうのがわからない。そのまま行けばいいんだって感じ。

――将来とか考えた場合に、このままで大丈夫なのかよ、っていうのはあるでしょう? このご時世だし。

女1:うん、それはありますけどね。うまくいかなくっても、そこで何がそもそもいけなかったのかとかはあまり思わない気がする。タイミングが悪かったな、とか。実は向いてなかったとか。人のせいにはしないんじゃないかなぁ。

女3:目指してるものが明確にあって、それに進むっていう感じがたぶん希薄なんじゃないかなと思うんですけど。

男1:就職……かな。

女1:そりゃあ成績のせいだろうと(笑)

――え、でも現状を考えたら、就職できないのは社会のせいだと思わない? このツケは国のせいだと思うでしょ、普通。

女1:ああ〜。でも、思ってもでもどうにもなんないから。

男2:なんかこう用意されたもので遊ぶのに慣れちゃってるから。

男1:まあしょうがねえや、就職キツいけど、このなかで何とかやんなさい、みたいな。

女2:この時代がいけないんだよっていう前に、自分が悪いんだからしょうがないよ、って思っちゃいますね。やってる人はやってるわけだから、やれないのは自分の能力がないせいだと思っちゃう。

――でも、そのやっていける人の絶対数がどんどん減ってるわけでしょ。するとあぶれる人がどんどん増えるわけでしょ。

男1:でも、その怒りを発したところでどうにもならないってわかってるから(一同同意)、めんどくせえやって。

女1:そのエネルギーの分、たぶんバイトする。

――え、バイト? そうなるのか。

男1:僕は、なんか変な自信があって、成功する自信じゃなくて、ダメでもどこか行きつくところには行きつくんじゃないかっていう。

――もっと得体の知れない自信はないの? 俺はこんなもんじゃない、みたいな。

女1:そんなに自分が大したものだとは思えない。尾崎の歌とか読んでると、自分ってそんなに大事にされるような、声高に叫ぶほどすごいものなのかなって。

女3:俺はもっとできるんだから伸ばしてくれ、みたいな感じがなんか(笑)

女1:そう、それが鼻につく。これ歌う前にもっとやることなかったのかな、って。

男1:こういうのを本気で歌えてるからすごいな、とは思いますけどね。それは格好いいなって。狙ってやってるわけじゃないですよね?

女1:親に反抗したかったんですかね、結局。

――うーん、もっと漠然とした抑圧感だったんじゃないかと思うんだけど。

女1:抑圧って考え出したらそういうネタが多すぎて、まともに見たらやっていけないし……。

男1:闘ってくれる人がいるから、こういう自分もいるんだし、みたいな。(一同軽い笑い)

――はからずも自分がそういう役回りになって、闘わなきゃいけないってことになったら?

一同:……。

――じ、じゃあ、次の曲を聴いてみましょうか。



シェリー、おれはしんじつへとあるいてるかい〜

――口をへの字にして(笑)聴いていた彼女、どうですか?

女1:なんかナルシストだなって。自意識過剰で「俺、俺」うるさいなーみたいな(笑)

――自分がシェリーの立場だったら、どう?

女1:うっざーい!(一同爆笑) もうホント勘弁ですね。

男2:まわりを見ているようで、見えてないところもいっぱいあって、少し子供なような気がする。自分本位で、自分を壊していかなかったからうまくいかなかったんじゃないかな。

――この歌が他とちょっと違うのは、「敵」が出てこないでしょう。この、自分が間違ったことやってるんじゃないか、負け犬なんじゃないか、というのが案外、原点なのかと思ったりもするんだけど、そういう意識ってあったりする?

男2:そういうことはあんまり本気で考えたりしない。

男1:本気で考えたりはしないからこそ、格好いいなと思う。

女1:あるにはあるけど、こういうかたちに共感するのは違うかな……。

――えーと、さっき香山リカの本を読んでもらったけど、どうなんだろう、あそこに書かれているとおりの感じなのかな?

女2:ほんとに、みんなそう思ってるのか、そんなに否定的なのかなと思いましたけど……。

――何いってるかはわかる?

一同:わからなくはない。

――「若気の至り」の普遍性っていうか、「青臭さ」の永遠性っていうか、おれらの世代くらいまではたぶんみんな大なり小なりそういうところあったと思うんだけど、クラスにこういうタイプ、いなかった?

女2:中学まではいました。

女1:中学だよね。

女2:高校クラスにひとり。

男1:そういう奴のことはバカにしてたよね。

男2:ああ、してたかもしれない。

――いや、同時代の奴にしてもバカにしてたりしたんだけどさ、自分にもそういうとこがあるがために裏返しでバカにするというか。そういう裏返ったのも含めて、共感するところはあるかってことなんだけど。

女1:これに?

――うん。

女1:いやぁー(と力強く否定)。

男1:ないね。

男2:うん。あの、醒めてるっていうか、小賢しいんですよね、俺たち。小賢しいのは好きじゃないんですけど……。

男1:結局、小賢しくなっちゃうんだよねー。だからこそ、こういうのを見ると、なんというか、うーん、共感ねえ……。

(初出:『音楽誌が書かないJポップ批評35〜尾崎豊FOREVER YOUNG』)

それぞれの曲の歌詞は以下のリンク先で。


音楽誌が書かないJポップ批評 尾崎豊 (宝島SUGOI文庫)

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