「とくべつに東京に行ったお土産話をしてあげるから、ここにすわりたまえ」
「べつに聞きたくないけど、そこまで言うなら聞いてあげないこともないから、すわってあげるよ」
「なんでそんなにえらそうなの!」
「どっちが!」
「で、なんの話をしよう?」
「話よりもさ、お土産ないの」
「ないよー、残るようなものはなんにも買ってない。傘すら忘れました」
「忘れたっていうか、邪魔だって言ってたから、忘れたフリして捨てたんでしょ、さては」
「いや、純粋に過失です。だってこっち帰ってきたら雨降ってたし、これはちょうどいいと思った矢先に、駅のトイレに忘れたの」
「アホですな」
「あの駅のトイレに忘れたの、二回目なんだよねー」
「ますますアホですな」
「うるさいな!」
「で、なんの話?」
「話……そうだねえ、朝の上野公園を歩いてたら、どこからかフルートか何かの音色が聴こえたんだよ」
「うん」
「アメージング・グレイスとかね。で、でどころを探して階段をのぼったら……」
「怪談調な引きだねえ」
「スーツのおっちゃんがひとりで縦笛吹いてました」
「そこでがっかりしたらおっちゃんかわいそうだよ! ていうかなんでがっかり?」
「がっかりしたわけでもなくて、むしろうけたんですけど」
「それはそれでどうなの……というか、横笛と縦笛の区別がつかなかった己の不明を恥じなさい」
「そこは、あれですよ、笛だということがわかっただけで合格かなー、と」
「合格ラインが低い!」
「で、おかげで、『にんげんっていいな』があたまから離れなくなりました……」
「おっちゃん、吹いてたの?」
「吹いてたのさー。なんかの主題歌だけど、『まんが日本昔ばなし』がいちばんに浮かんだけど、違うような気がするー、って、帰ってきてから『でんでんでんぐりがえってばいばいばい』で検索しました。『まんが日本昔ばなし』であたりでした。そしてたぶん、はじめてタイトル知りました……」
「よかったねえ」
「よ、よかった……のか?」
「よかったじゃん、よかったよかった」
「そうか、よかったのか……」
「洗脳されてんなよ!」
「ええっ!?」
「でも、にんげんっていいの?」
「いいんじゃないの? おいしいおやつにほかほかごはん」
「いいのか……?」
「いいんだよ、あったかーいふとんでねむるんだろな♪」
「そうか、いいのか……」
「洗脳されてんなよ!」
「ええっ!?」