落合尚之版『罪と罰 A Falsified Romance』の人物名に関するメモ

弥勒 (たち みろく) = ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフ

主人公。原作で該当する人物は、ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフ

ラスコーリニコフ=分離派(ラスコーリニキ)=裁ち切る=裁

原作の主人公の姓であるラスコーリニコフとは、ロシア正教の異端である分離派(ラスコーリニキ)が由来。
老婆の頭を斧で「叩き割った」事で人間社会から裁ち切られてしまった主人公の立場を象徴するような名前である。

ロジオン=イロジオン=英雄=救世主=弥勒

ロジオンとは薔薇の意味だが、江川卓説によると一文字違いのイロジオン(英雄)のもじり。
原作ではラスコーリニコフがキリストになぞらえるような描写が数回でてくるため、英雄=救世主という連想から落合版では仏教で衆生を救済すると言われている弥勒菩薩の名前を主人公につけたのものと思われる。

馬場 光 (ばば ひかる) = アリョーナ・イワーノブナ

原作ではラスコーリニコフにより斧で惨殺される金貸し老婆に該当する人物。

老婆=婆(ばば)=馬場

馬場という名前はおそらく金貸し老婆=婆(ばば)のもじりだと思われる。

アリョーナ=ヘレネー=ヘレー(太陽の光)=ヒカリ

金貸し老婆の名前であるアリョーナはギリシア語のヘレー(太陽の光)を語源とするヘレネーが由来。

島津 理沙(しまづ りさ)= リザベータ・イワーノブナ

原作では金貸し老婆アリョーナの妹に該当する人物。

リザベータ=リサ

理沙という名前はリザベータのもじりだと思われる。

リザベータ・イワーノブナ = リザベータ・スメルジャーシチャヤ = 島津?

理沙の名字である島津の由来がよくわからない。リザベータといえば『カラマーゾフの兄弟』にでてくるリザベータ・スメルジャーシチャヤが連想されるが、スメルジャーシチャヤ=スメルジ=スメジ=島津というこじつけも考えられなくもないかも。

首藤 魁 (すどう かい) = スビドリガイロフ

首藤に関しては原作で該当する人物スビドリガイロフの音をもとに日本語名にしているものと思われる。

飴屋 菊男 (あめや きくお) = セミョーン・ザハイルイチ・マルメラードフ

原作では酔いどれ官吏であるマルメラードフに該当する人物。

マルメラードフ = マルメラード(マーマレード)= お砂糖のような姓 = 飴屋

ドスト・エフスキーの創作ノートにはマルメラードフに関して「お砂糖のような姓」という記述があり、マルメラード(マーマーレード)からマルメラードフと名付けられたようである。
落合版では「お砂糖のような姓」ということで飴屋という名前になっているのではないかと思われる。

セミョーン = シメオン(聞く)= きく = 菊男

セミョーンとはヘブライ語のシメオン(聞く)が語源。ここから落合版では「聞く=きく」ということで菊男と名付けたのではないだろうか。

飴屋 英知香(あめや えちか)/旧姓 園山 (そのやま) = ソフィア・セミョーノブナ・マルメラードワ

原作ではマルメラードフの娘であるソフィア(ソーニャ)に該当する人物(一部、マルメラードフの妻であるカテリーナに該当する部分もあり。)
落合版では飴屋菊男の後妻という設定。

カペルナウーモフ = カペナウム(カファルナウム) = 園山?

原作でソフィアはカペルナウーモフという名前の一家が暮らす家に間借りをしている。カペルナウーモフとはイエスが伝導を始めた地カペナウム(カファルナウム)が語源であり、そこから英知香の旧姓である園山という名前が付けられた可能性がある。

ソフィア = 英知 = 英知香

ソフィアとは英知が語源の名前であり、そこから英知香という日本語名がつけられものと思われる。ちなみにエチカとはラテン語で「倫理」を表す語でもある。