みえないけどそこにある死

スカイプに来ていただけますか。


午前3時にツイッターからボク宛につぶやかれる。
何か分からなかったけど、嫌な感じはした。


チリさんが亡くなりました。


チャットでそう書かれていた。
ボクがスカイプに入ったのは少し遅れていたらしく、他の人にはもう内容は伝わっていた。
チリさんの彼女は一番悲しいはずなのに、見ず知らずのボク達に事情を説明してくれた。
もしかしたら説明することで気を紛らわそうとしたのかもしれない。


ボクたちの関係は一人のwebでの放送主からの知り合いだ。
全員ハンドルネームが個性的であり、また年齢も高校生から社会人まで様々だ。
ボクはオフ会などで実際に会ったことはないが、それでもTwitterなどで関係は続いていた。


彼の死をある人は、いたらぶん殴りたい。またある人は嘘であれば良いのに。
みんなの悔しさとも悲しさともとれる言葉がのっていた。


ボクは彼とはwebのみの付き合いで実際には会っていない。
だからかもしれないが実感があまりない。そしてそれに対する感情というものも不憫だとか、お気の毒に という何か客観的なものになっている。
それは日頃流れるニュースに対しての感情と少し似ている。東京の方に住んでからさらに事件との距離も近くなったが、事件の感情に関して言えばまだまだ遠い。しかし、チリさんとの違いがあるとすれば本人と関わったか、関わってないかだ。
その違いは大きく、同じような客観的出来事に見えて、何かひっかかるものがある。
画面の中でしか伝えられて来ないみえない死。でもそこにある確かな死。それは明確には意識できないけれど、確実に何かを植え付けた。


そして残念だけれど、ボクはこの出来事をいつか忘れてしまうだろう。顔も声も知らず、ハンドルネームしか知らない彼を。
だからこそボクはこの出来事を日記として残す。それがボクにできる彼を忘れないための一つの方法だから。

敬う心

なんであいつはいつもため口のくせに、メールでは敬語なのか。同級生で4年間もいたのになんやねん。
いつも楽しませる男が珍しく愚痴っていた。
どうやら明日の予定のやりとりをしている際、相手が敬語で終始返してくることに不満が溜まっているみたいだ。
彼が敬語が嫌いなのは前から知っていた。けれど、これほどまで態度が出るほど苛立つとは知らなかった。

そんなに怒らんでも。とボクが言うと、

だってな、いつもため口ねんから「じゃあ、明日頼むねー」とか、軽い言葉でいいのに、「明日お願いします」とか、妙な敬語使いやがる。思ってもない敬語使われるのが一番腹立つ。と彼は携帯を投げ、苛立ちを隠せない。


これは仮説だが、彼は敬語は建前という認識のようだ。
誤解のないように言うと、彼も年上に対してはきちんと敬語で話している。決して敬語を使わない訳ではない。
しかし彼にとっては形式の上で使っているのかもしれない。
その方がことが円滑に進むことぐらい誰もが知っている。
なるほど。そう考えると彼の言い分もわからなくもない。
一つのうすいオブラートが彼にとってはとてつもなく壁に感じられ、相手が自分のことを信用されていないと感じるのかもしれない。


確かに、ボクも敬語を、相手を敬うというよりは相手に失礼のないように。
また、自分が恥をかかないように。という認識で使っている。
そこには残念ながら敬う心は入っていない。
しかし、敬うには相手を大事にするという意味もあると思う。
親しき仲にも礼儀ありということだ。
今回のことに関して言えばいつも頼んでる側であれば、何回も頼むというのは何かとおっくうだ。
軽い気持ちで、何回もあてにし、ぞんざいに扱われると相手も嫌気がさすと思う。
そう思うと相手には敬語になると思う。
頼むことは一緒なのだけれども言葉で少しでも相手に対して不快を与えないように。
相手が大切ならば、なおさらだ。
こんな考え方はお人好しのボクらしいなんとも平和なのだけれども。


敬語が相手との距離を感じるものになっているのはボクもよく感じる。
しかし、親しい関係があるからこそ、敬語を使うべきこともあると思う。
一概には決められないけれど、彼の前ではできるだけ壁を感じさせないようにしようと思った。

別れたもの

いつも笑顔の女の子と映画を観に行った。
彼女は学年では1つ先輩であるが同い年である。
映画も終わり、食事をしているとき、会話の流れで、ふいにボクが映画とか一緒だと彼氏に怒られるかもな。と言うと
うん。いや、あのー。。。ね。と、
目をきょろきょろさせ、頭も生まれたての赤子のように揺れ、少し落ち着かない。
ボクは察して、何も言わなくてもいいよ。何となくわかったから。
笑顔の彼女は、すごく緊張する。
付き合うこともこういうことも今までなかったから。と言い、
深呼吸をして、彼氏と別れたことを言ってくれた。
詮索はしなかった。どうも話し合いのうえでの別れのようだ。


ボクは彼女の彼とも知り合いだ。
彼はボクとは性格が真反対で、論理や、ルール、マナーとか堅苦しいことを嫌う。
そして、なんだかんだモテる。男にも評判は上場である。彼は否定するだろうけれど。


彼女は、どうすればいいか。会ってもいいのか。連絡をとってもいいのか。
友達としての付き合いは大丈夫なのか。などを聞いてきた。
ボクは、連絡や、会ったりはいいんじゃないかな。まだ好きで相手もその気持ちなら復縁もありえる。
でも、相手も待ってはくれないし、周りもほっとかないと思うよ。手を打つなら早めにこしたことはない。という旨を伝えた。


彼女はボクの話に感心しながらチキンカツを食べる。
自分の今の状況を確かめるようにゆっくり丁寧に食べていた。
彼女は努めてか、素なのか、もう条件反射なのか、終始笑顔で話をした。


でも彼女は食事の手があまり進んでいない。
それは映画の前にホッ トドッグを食べたなのか、
心にわだかまりがあるからなのかよくわからない。
ボクが食べ終わっても、まだ2/3くらい残っている。
原因は多分前者なんだろうけど、後者の可能性も少なからず表れているように思えた。
ボクは彼女が笑顔で食べきれる時がくればいいなと思いながら、
彼女の残りのカツをもらった。

彼女たちにとって

そういや、前の女子呑みで君の話でたよ。 同じ部の彼女がさらっと、楽しそうにボクに言った。
えー、俺モテモテやん。どんな話? とボクは聞く。
たいしたことないよ。ハハハ。その言葉を聞きながら、ボクはなんとなく思う。またボクに彼女が出来るには。みたいな話をしているんだろうな と。


ボクの話が出たよと教えてくれるということは、毒は吐いてないし、むしろ良心的なのだと思う。けれど、ボクの欠点や改善点などを肴に、彼女た ちは笑い、あるあると共感しながら盛り上がったんだろう。そう思うと喜んでいいのか、怒っていいのか、と複雑な気持ちになる。


ボクには彼女がいない。大学在学中に一人も付き合っていない。そのことが彼女たちの心配の原因なのだろう。先に誤解が無いように言っておく が、男に恋愛感情はないし、ましてや、漫画、アニメになど毛頭ない。し かし、彼女がいないことでこういうフィルターをかけられることも少なからずある。そもそもボクは中学校のときから結婚はできないだろう。と思っていたの で、あまり悲観していない。
そういう諦め気味のところや、強情なところなどが駄目なようだけど。彼女たちはボクがどんな性格であれ関係ない。そういうおせっかいなことを していることでこの場での自分の考え方のお披露目会をしているのだと思う。ボクの運命は突き詰めて行くとどうでもいいのだろう。ただ笑い、盛り上がること が目的なのだから。


でも思うのだ。心情はどうであれ、こうやってボクのことを気にかけてもらえていることは悪くない。それはボクの実像を捕らえていないから思え ることなのかもしれないけれど。