引きこもり解決へ2つのキーワード

『「堕落」のすすめ』と『スローワーク』だそうな。「北風と太陽」だな。孤立化し追いつめられている者をさらに追いつめても、事態は好転するどころか最悪の事態さえ招きかねないと。これはただの甘言ではなく、現場を知るひとの現実主義に根ざした試みのひとつだろうと思う。

岡田斗司夫×岸田秀の対談のなかで、岸田氏は近代を「のんびりしていた人々が頑張る連中に殺されていった時代」と表現している。いまも「のんびり」が「頑張る」にかならず負ける、という構造はなにも変わってない。

そういった状況だからこそ「働くと負けかな」という価値転倒をはかるニート君の発言が嘲笑とともにあれだけのインパクトをもって迎えられたのだろう。「頑張らない」と宣戦布告した瞬間、それはもう勝ち目のない負け戦なのだから。

火車 ★★★★★

宮部みゆき火車』を読了。キャッシングローンによる多重債務の悲劇を題材にした社会派ミステリー。たいして小説を読んでいるわけではないが、自分のなかではベストの部類。

借金が膨れあがり自己破産するような人間にたいする風当たりは強い。「金にだらしない」「無責任」「自業自得」だと。はたしてほんとうにそうなのだろうか? 物語は、主人公の刑事が失踪したふたりに女の人生の軌跡を追っていくなかで、「ささやかな幸せ」を望んで、しかしどうしても手に入れられずに闇におちていく彼女たちの心情が次第に浮きぼりにされていく。

そこには絶対の孤独のなかで湧きあがる「本来ありえたかもしれない自分」への憧憬と、現実の闇に引き裂かれる女の絶望が、フィクションという枠を越えて現実味をおびて迫ってくる。「幸せを求める」とはいったいなんなのか? いくつも付箋をはさみたいセリフがあったが、巧みなストーリーテリングのまえにページをめくる手を休めることができなかった。

カタルシスと胸を覆う寂寥感が入り混じった複雑な満足感。評判どおりの傑作だった。

火車 (新潮文庫)

火車 (新潮文庫)