2012-02-01
■[book]ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
- 作者: ジョナサン・サフラン・フォア,近藤 隆文
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2011/07/26
- メディア: ハードカバー
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先に結論を書くと、とても面白くて感動した本です。今月映画が公開されますが、出来が楽しみでもあり少し怖くもあります。
9.11の同時多発テロ事件で父親を失ったオスカー少年。1年たってもその傷はいえぬままだったが、ある日父親の遺品から、ブラックという名前がかかれた封筒、その中に入った一つの鍵を偶然見つける。鍵の秘密を探るためにニューヨーク中の「ブラック」という苗字をもった人間を尋ねるというのがメインのプロットです。そして、第二次世界大戦中のドレスデン空爆で深い心の傷をおった少年の祖父母の物語が同時進行します。
少年と祖父母の少し乾いていてユーモラスな語り口、過去や現代を行き来する視点 そしてドレスデン空爆の悲劇と、特に後半くりかえされる少年の口癖、どことなくカート・ヴォネガットのスローターハウス5の雰囲気と似ています(おそらく意図的なものだと思います)。また、この小説はビジュアルライティングという手法で書かれていて、祖父の手記となる部分は、そのままに校正のあとが残っていたり、英語が苦手な祖母のタイプライターで打ち出された部分はとても読みづらかったり、連続パラパラ写真が載っていたりして、単なるテキストでは無い「本」を読む楽しさが味わえます。
この本ではドレスデンや9.11、かつてのヒロシマの悲劇がバラバラに語られます。これはそれぞれ別の背景を持った全く別の事件だけど、同時に歴史の中で必ず起きる普遍的な悲劇です。さらに少年と祖父、祖母の視点を通して、これらの歴史の悲劇が結局は1人1人の死によって構成されていて、個人的なものでもあること追体験します。この小説のテーマは現代の日本の僕らにとっても(去年の3.11の時に、残念なことに)身近なことになってしまった感じがします。
と、重くなってしまいましたが、とにかくこの物語の少年の語り口がものすごくユーモラスで、ありえないほどグッとくるのでその点でもオススメです。重力ピエロの台詞にあるとおり「本当に深刻なことは陽気に伝えるべき」ですね。
そして、ラストの連続写真をどうとるかは読者に委ねられていると思いますが、自分にとってはある種の開放感をもった素敵なラストだったと思います。(この小説のラストを文章ではなく写真で締める必然性もあったと思います)
2011-12-30
■ [book]ヴィクトリア朝時代のインターネット
19世紀にはテレビも飛行機もコンピュータも宇宙船もなかったし、抗生物質もクレジットカードも電子レンジもCDも携帯電話もなかった。
でもインターネットだけはあった。
- 作者: トム・スタンデージ,服部桂
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2011/12/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ちょっとSFめいた導入から始まりますが、この本は19世紀の電信ネットワークの発明から衰退までを追った一冊です。
電信は、依頼主が電信局でメッセージの伝達を依頼、電信局側でモールス信号に符号化して有線で伝達、届け先の電信局でモールス信号を聞き取ってメッセージに復号化し、最後に配達員が相手に届ける、という仕組みです。小さい頃エジソンの伝記なんか読んでた人はイメージしやすいかもしれません。これはプログラムやサーバやルータが行なっていることを人間がやっているだけで、情報の伝達の本質はインターネットの仕組みと似通っています。情報をデジタルな信号(モールス信号)で符号化して伝達するという意味ではアナログ電話より現在のインターネットに似ています。
この電信による有線ネットワークはあっというまに世界中の都市に張り巡らされていきます。(日本の幕末の頃には大西洋を横断する海底ケーブルがあったのですから結構驚きです)
いままで全く存在しなかった「瞬時に遠隔地まで情報をおくる手段」が発明されたことによって世界そのものが変わっていきます。
- 遠隔地における戦争やビジネスの迅速化
- 新聞社が新しいテクノロジーに危機感を覚える ← 定番!
- (メッセージの長さによって料金が決まっていたため)メッセージを短縮すための独特の略語文化
- (仕組み上、電信局のオペレータを経由するため)情報流出を防ぐための暗号化
- その暗号をやぶるのを楽しむハッカーの誕生(チャールズ・バベッジも趣味でやっていたらしい!!)
- 国中の電信局のオペレータ同士が暇な時間でおこなうオンラインチャット
- 顔も知らないオペレータ同士の結婚。
- 情報過多による回線の逼迫
- 電信ネットワークが世界を一つにつなぎ、平和がやってくると熱心に説く楽天家達の存在。
- etc.
インターネットによって起こった世界の変化とそっくりです。「19世紀末の人を20世紀末につれてきても、インターネットだけには感動しないだろう」とは作者の言葉ですが、、確かに既視感たっぷりですね。
ちなみに、このまま電信ネットーワークが発達して、電信フェイスブックや電信ツイッターが生まれ、極東の小国日本で志士たちがそれで情報を交換しあって革命が起きた!!みたいなことは特に無いです。*1
結局電信の仕組みは、電話網の登場によって20世紀初頭に一瞬で衰退してしまいました。この電話自体も電信の伝達手段を多重化するための研究から生まれた発明です。特定の支配的なテクノロジーが、次世代のテクノロジーを育て、それによって逆に滅ぼされるというお決まりの展開です。
最近では「フェイスブック等によるソーシャル革命が〜」みたいな浮かれた発言を見かけます。すこし前なら「ブログによって革命が起きる」という発言でしたね。これは作者によると「自分の世代が歴史の最先端に浮かんでいると考える、『クロノセントリシティー(chronocentricity)』とでも呼べる考え」であり、おそらく情報やメッセージの本質はプラットフォームによってそれほど変わらないのでしょう。
「賢者は歴史に学ぶ」はテクノロジーの分野でも同様なのだ! ということで、とてもオススメです!!
*1:SF小説のネタにはなりそう
2011-12-16
■[tech] 人月商売はアジャイル開発に向いてる
- http://d.hatena.ne.jp/iad_otomamay/20111208/1323349602
- http://d.hatena.ne.jp/gothedistance/20111212/1323676223
SIerの人月商売を本来のサービス業として考えると、受注側の人間(チーム)の能力を一定期間に渡って提供してもらい、発注する側はそれに対価を払うという形になると思う。いわゆるSES契約というやつですね。つまり本来の人月商売はプロダクトではなく、人間の能力に対してお金をはらう。プロダクトのスコープがビジネスの変化に応じて常に変化するアジャイルな開発では、プロダクトではなく開発する人たちの能力にお金を払う方がいいし、それはシステムを内製する発想に近い。(発注側にとっては直接人材を雇うよりリスクやコストを減らすメリットがある)。
ちなみに現在のSIerのエンタープライズ開発の風潮は、スコープを決めて適当な単位(人月)で見積もって、それに対する対価を払うという請負契約が主流だったりする。人月という言葉が共通なだけで、サービス業としての人月商売とは全く離れたところにある。実は売り切りのプロダクト*1に似たお金の流れであり、スコープが常に変化するアジャイルな開発には向いてないと思う。
アジャイルワナビーな人は人月という言葉の印象の悪さで勘違いしてDISりすぎ!!!人月モデルが崩壊したらそれはそれで理想からは離れていくと思う。
もちろん人月のナイーブな使い方、人間を二倍入れれば半分の期間になります、というのは間違っているのですが。
*1:もちろん売り切りのプロダクトは開発側がスコープを決められるので事情は少し違いますが
