福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

「月刊フォーNET」2016年5月号掲載分

 
 浄土和讃講話 上巻』 金子大栄著 全人社 昭和24年
  「投稿写真」 1998年9月号 三和出版


 4月20日現在、宮崎のホテルでこの原稿を書いているが、テレビは熊本の震災のニュースを伝えている。地震の前に買い取りの予定を2件入れていたので予定通りに宮崎入りした。九州道熊本県内で一部通行止めになっていたので、大分経由で来たら6時間かかった。
一件目はとある地方の校長先生だった故人の蔵書。息子さん(といっても96歳!)が処分の決心をし、お孫さん(といっても65歳!)から電話をもらった。
20年前に亡くなったまま手つかずだった蔵書の山に分け入る。
戦前から戦後にかけての仏教・思想関係の堅い本が多いなかの1冊がこの『浄土和讃講話 上巻』。
65歳のお孫さんは本には全く関心がないそうだが、その祖父と父はともに校長まで務めた本好き。 そのお孫さん、少年時代に小遣い銭欲しさに値の張りそうな親の蔵書を数冊古本屋に持ち込んだそうだ。古書店主、本を一見して曰く「ああ、あなたが○○先生の息子さんですか。この本はこのまま持って帰りなさい」。その後しばらくは父親の雷が落ちるかと戦々恐々としていたが、何事もなかったそうだ。
古書店主なら、それが少年の蔵書でないことはわかるし、地方都市なら値の張る専門書を買う人は数人に絞られる。目の前の少年の顔かたちで一人の得意客を特定できても不思議はない。もちろん少年の出来心を父親に知らせるような真似もしなかった。味わい深い話だった。

もう一件の買取は打って変わって俗っぽい本の山。エロ本が1000冊以上はあっただろうか。この手の本への需要は根強くプレミアものも多い。ただ、児童ポルノものには気を付けなければならない。法律ができて規制が厳しくなり売買はもちろん、古書組合の市にも出せない。時折見せしめのように一部の古書店に警察の捜査が入ることもあり、どの古書店も神経を使っている。
売り主さんは以前大手古本チェーン店に卸売りをしていたそうで、今回はその売れ残りの処分だ。最盛期には、月に数百万円仕入れていたというが、稼いだ金は骨董につぎ込んでしまったそうだ。横で聞いていた奥さんが言うには、酒や女と違って骨董は限度がないという。高いものは限りなく高いし、これで十分という限度がないということらしい。
とうわけで室内には不思議なオブジェがあふれていた。油絵で描かれた仁丹の広告やマサイ族が彫ったキリンの木彫りなどなど。いったいいくらぐらいの値が付くか想像もつかない。ご本人もわからないようだった。欲しい人には高く出すだろうが、不要な人にはゴミにすぎないというのは古物に共通していることだろうが。
そのご主人は今は別の仕事をしているが、古物を扱うのが心底好きでいずれカムバックしたいと言い、売れ筋の古書は何かと盛んに逆取材された。
そんな中で1冊取り上げるとするとこの「投稿写真」か。エロ本というべきかアイドル雑誌というべきか。いずれにしても現在では肖像権その他の問題で存続でできなくなったであろう種類の雑誌だ。古書はネットオークションでさかんに売り買いされている。