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読丸電視行

本に遭っては本を読む活字中毒系プログラマー 読丸 の読書感想文日記です。    [総目次]    この日記をアンテナに追加    rss

2005/08/03 げんしの光、スラムの夏 (第1回)

[][][][] オタク第2世代って  オタク第2世代ってを含むブックマーク

渦状言論*1 *2と さて次の企画*3 *4で、桜坂洋新城カズマは二人ともオタク第2世代、と指摘されたことから私の中に生じた奇妙な感情。

これって、そうですね、宇宙戦艦ヤマト(1974年〜)も機動戦士ガンダム(1979年〜)も両方ともテレビまんがでしょ? と子供の頃に大人に言われたときのあの感情に似ています。

あ、あれに似てるな、という感じ方は、私がこの日記で良くやる仕方で、共通点を抽出する作業は確かに楽しいし、枝葉末節をとりはらって大きなうねりを捉える、という点でも役に立つことは間違いありません。

でも、一旦共通点を抜き出したら、その後はやはり「差異」に注目したいもの。こういう共通点がありながら、どんな違いがあって、なぜその違いが生まれたのか――これを考えるのは、受け手の最大の愉悦の一つだと思うのです。

日記を始めて1年を記念して、ここでは、スラムオンライン(桜坂洋) *5とサマー/タイム/トラベラー(新城カズマ) *6 *7を主な材料に、オタク第2世代と第3世代とか、SF世代論とか、そんなものについて考えてみたいと思います。

なお、上記作品のほか、All You Need Is Kill(桜坂洋) *8推定少女(桜庭一樹) *9究極超人あ〜る(ゆうきまさみ) *10げんしけん(木尾士目) *11妖精作戦(笹本祐一)*12イリヤの空、UFOの夏(秋山瑞人)*13などのネタバレを含みます。ご注意ください。

[][][][][] げんしの光、スラムの夏 (第1回)  げんしの光、スラムの夏 (第1回)を含むブックマーク

年齢が公表されている桜坂洋と生年不詳*14新城カズマは、歳からすれば確かに同じ世代に属するのだろうし、スラムオンラインもサマー/タイム/トラベラーも、リアルフィクションという共通ラベルを使っている。

よろしい、確かに二人は同じ世代だ。でも二人の作品の匂いは、かなり違う。二人の違いは何に起因するのか。共通ラベル リアルフィクションと、冲方丁から小川一水を経て桜坂洋へと至る流れとの関係は、一体どうなっているのか。

桜坂・新城の二人が出演する秋開催の「リアルフィクションとは何か?」(京都SFフェスティバル 2005/10/08)に先駆け、ここではそんな話題について考えてみたい。

びっくりするほどユートピア

スラムオンライン (ハヤカワ文庫 JA (800))

スラムオンラインは、居心地の良い場〈バーサス・タウン〉でテツオを演じる主人公悦郎が、最強を求める辻斬りジャックとの熱い闘いを経て、この世界との折合いをつけていく物語である。

一方、サマー/タイム/トラベラーは、地方都市辺里の溜まり場〈夏への扉〉で、未来へ跳ぶ能力を得た幼馴染み悠有が自分の目標に向かって進むことを決め、主人公卓人がそれを見守る物語だ。

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

この二つの作品は、居心地の良い場所=ユートピアからの脱出、というテーマを持つ点で確かに共通する。でも、脱出に対する視線は、明らかに違う。スラムオンラインは「自分が脱出する」物語であり、サマー/タイム/トラベラーは「彼女に脱出される」物語である。

卓人の言葉には、後悔が多い。その理由の一つには、自らの進路を彼自身が決めかねていた、つまり、ユートピアを自分の意思で脱出しようとはしなかったことにあると思う。悠有が彼女自らの意思で共に歩むのをやめることによって、半ば強制的にユートピアから退去させられた主人公、それが卓人である。

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)

後悔の念を引き起こさせるもう一つの大きな原因は、折りにふれ、悠有が「あのときの姿のまま」で、卓人の元を訪れることだ。薄れかけたユートピア記憶を、悠有の無垢な少女の姿が、また濃厚な色合いに引き戻し、心の奥底にしまってあるはずのあの夏がまた帰ってくる。後悔の念が薄れることはなく、卓人はあの夏というユートピアに縛られ続ける――これは確かに「悲劇」だ。

ジャックプレイヤー、ルイは自らの意思で自らが求める最強のために闘うことを選び、主人公悦郎もまた、自らの意思でこれに応ずることを選ぶ。彼らの熱い闘いを経て、ジャックテツオが属していたあのユートピアは消滅する。〈この町の最強〉が決してしまえば、最強を求めるためのユートピアは変容してしまうからだ。

だからジャックテツオは再会することはないし、リアルバーチャルの結節点である新宿の店に出掛けても、悦郎がルイに巡り会うことはない。

自らの意思でユートピアを脱出した者と、大人になってもユートピアに縛られ続ける者。これが、両作品の最も大きな差異なのだと思う。

スーパー高校生

イリヤの空、UFOの夏〈その3〉 (電撃文庫)

妖精作戦の沖田、究極超人あ〜る鳥坂先輩イリヤの空、UFOの夏の水前寺など、ティーンズ小説におけるエポックメーキング作品には、「スーパー高校生」が出現することが多く、「超人」(高校生に限定しないため、本稿ではこう呼ぶことにしよう)には、こんな8つの特徴があるという*15

  1. 大人を言い負かせる論理性か、非論理性(不条理さ)を持つ。
  2. 金銭的な裕福さを何らかの手段により確保している。
  3. 勉強は非常に出来るか、もしくは成績を気にしない性格である。
  4. 喧嘩スポーツなどの身体能力は優れている。
  5. 親・家族との関係は描かれないか、もしくは不安定である。
  6. 不安定な恋愛関係は持たない。異性に興味がないか、ステディな相手がいる。
  7. 限定された集団内での先輩・後輩とは良好な関係を築いている。
  8. 社会社会規範とは対立関係にあり、卒業後の進路は不透明さが多い。
究極超人あ~る (1) (小学館文庫)

そして超人は、完璧キャラクターでもある。超人はオタクの理想像なのだ。

では、桜坂・新城の二人の作品における超人は、一体誰か。

サマー/タイム/トラベラーでは、明らかに饗子だろう。あの傍若無人ぶり、鳥坂先輩の女版としか言いようがない。そして何より、前掲の超人八つの掟、すべてを満たしている。

スラムオンラインではどうか。少なくとも鳥坂先輩のようなアクの強いキャラクターは登場しない。スラムオンラインには本当に超人はいないのか?

ここで私が思い出したのが、オタク第2世代による「俺たちの光画部げんしけんとは違う」論である*16。なるほど確かに、げんしけんには、鳥坂先輩のような押しの強い人はいない。

げんしけん(1) (アフタヌーンKC)

では、げんしけんにはオタクの理想像は存在しないのか。

斑目? 田中? 久我山? 高坂?

コーサカ?

げんしけん一番の覚悟完了オタクはコーサカだ。

超人八つの掟をコーサカに当て嵌めて考えてみよう。彼女がいてもエロゲーをやめない姿、オタクアイテムに加えキレイ系の服も大量に購入する裕福さ、格闘ゲームの超絶技巧に鉄棒大車輪運動神経、咲ちゃんという彼女がおり、げんしけん内の関係も良好で、周囲の空気を読む気がない社会性欠如の性格。親も勉強も描かれない。

なんだ、全部該当しているじゃないか。やっぱりコーサカだ。彼がげんしけんにおける超人であることに間違いはなかろう。

鳥坂先輩とコーサカ、いずれも超人であるとするならば、その違いは何か。コーサカにあるのは、天賦の美貌と、キレイであることとオタクであることを追求するたゆまぬ努力(「白鳥の水面下の水掻き」の直接描写はされていないが)である。これは、オタク第3世代の指向と無関係ではない。

斑目が洋服を買う第26話を見てもわかる通り、いまのオタクは、ブランドとかはわからないけど、キレイになりたい、と内心思っている。オタクというものが浸透しきった現在、オタクは、もはやオタク内価値感だけで生きていくことはできないのだ。

げんしけん(5) (アフタヌーンKC)

鳥坂先輩はいわばオタクバンカラで「あそこまではなりたくないけどオタクを極めている」のに対し、コーサカは「ああなりたいしオタクも極めている」理想像なのである。

げんしけん初代会長は、「あそこまではなりたくないけどオタクを極めている」鳥坂先輩的な人間であることも心にとめておこう。げんしけんでは、第2世代の理想像(初代会長)は影が薄く、第3世代の理想像(コーサカ)が脇を固める主要キャラになっている。

では、スラムオンラインに戻ろう。コーサカに最も近いキャラクターは、デク相手の練習を重ねることで格闘ゲームの達人となり、布美子の我儘にもそれなりに仲良く付き合う悦郎に違いない。もっとも、悦郎はまだまだ悩み多き年頃で、コーサカほどには悟り切っていない。「ああなりたいしオタクを極めつつある」状態だ。

しかし、「あそこまではなりたくないけどオタクを極めている」のは、まぎれもなく、ネット廃人になったあげく北海道に帰った友人、すなわちハシモトのプレイヤーである。

ハシモトのプレイヤーはすでに手の届くところにはおらず、悩みをかかえる悦郎はまだ完璧な超人となっていないため、主役を張ることができる。この二人は、げんしけん初代会長とコーサカ(ただし発展途上)に相当するのだ。

オタク第2世代に支持される光画部は、サマー/タイム/トラベラーの「悪の天才少年少女」集団に対応し、第3世代に支持されるげんしけんは、スラムオンラインのBarJTSの常連に対応する――そんな気がしてならない。

みんな先に卒業しちゃう、でも、あ〜る君はいつも迷っているのです

究極超人あ~る (5) (小学館文庫)

究極超人あ〜るの第1話は、あ〜るが池から登場するところで始まり、最終話もまた、彼が池から登場するところで終わる。まったく同じ構成で最終話と第1話がつながることにより、ユートピアとしての光画部は円環構造に封じ込められ、ユートピアは不変のまま、メンバーはこの円環から脱出することもない。

OBであれば社会的地位の有無にかかわらず卒業後も頻繁に部室を訪れ、現役部員よりもはっちゃけていることからもわかる。あいかわらずの光画部、なのだ。

光画部オタク第2世代の理想境ということならば、第2世代の理想は、「いつまでたってもあの頃のオタクのままでいたい」ということになるのだろう。

結婚しても就職しても故郷に錦を飾っても、あの頃の無垢な姿の悠有に会えば、あの夏に戻ることができる。いつまでたってもあの夏に縛られる卓人の姿は、この光画部の描写に重なってならない。

池から登場するあ〜る、時折り会いに来てくれる悠有、いずれも、ユートピアを現出させる重要なきっかけとして機能する。あ〜るが成長しないアンドロイドであることが、いつまでも少女のままの悠有と共通するのも興味深い。

げんしけん(6) (アフタヌーンKC)

一方げんしけんでは、先輩部員卒業を前に大野が泣き崩れる第36話に注目したい。ユートピアとしてのげんしけんは、メンバーの流入と脱出を繰り返すことによって、年月とともに変容を重ねていく。あのときのげんしけんは、もう戻ってこない。

テツオとジャックの闘いの後、悦郎とルイは、〈バーサス・タウン〉が変容したことを知る。遠くに就職した先輩が部室に顔を見せないように、二人はもはや巡り遭うことはない。

このように、げんしけんスラムオンラインでは、ユートピア一期一会のものとして描かれるのに対し、光画部とサマー/タイム/トラベラーでは、ユートピアはいつまでも永続するものとして描かれている。

このユートピア観の違いが、もしかしたら、オタク第2世代と第3世代の間に摩擦を起こす原因なのかもしれない。

俺に足りないのは覚悟だ

思いのほか長くなってしまった。

ここまでは、ユートピアを脱出する者の視点の差異を指摘するとともに、げんしけん光画部の差異を明らかにすることで、スラムオンラインとサマー/タイム/トラベラーの差異を浮き彫りにしようと試みた。さらに、げんしけんスラムオンラインの共通性、光画部とサマー/タイム/トラベラーの共通性に言及した。

次回は、新城カズマSF第4世代に属し、桜坂洋SF第5世代に属する、という仮説について、リアルフィクション登場予定の桜庭一樹の作品との対比もまじえつつ、考察を進めていく予定である。

→ 第2回 夏とスラムと少女の死体

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