ラットマン

丸い卵も切りようで四角 わたしゃあなたに好かれたい
著:道尾秀介 画:牧野千穂 光文社*1

姉の事故死、不審な言葉を残して亡くなった父、頑なな母を持つ コピーバンドのギタリスト姫川は、練習スタジオで働く交際相手ひかりの妊娠に戸惑う一方で、彼女の妹のドラマー 桂に惹かれ――三十路バンドが遭遇した不可思議な事件の顛末と奇妙な呼応サスペンス。
道尾秀介の作品を読んでいると、どこか、『ハリウッド脚本術』(ニール・D・ヒックス) *2に則った脚本のような、しっかりした《定型》が感じられます。天から降ってきた直観による描写ではなく、論理による必然性から出てくる描写、という感じ。
普通ならこれでワンパターンになるところ。ところが著者はこれまでに、後味が悪い系の話と良い系の話の2通りを発表しています。このため、《定型》を経てどちらの結論へ到達するのか、そこが《謎》として提示されている印象。
推理のための材料は十分提示はされているものの、解釈の余地が多分にあり、どこか後出しジャンケン的な展開になっている気もしますが、「ラットマン」という言葉の説明を折り込むことによって、そういう反論も巧妙に封じられています。この封じ方には、どこか『エーリアン殺人事件』(栗本薫) *3にも共通する意地の悪さがあり、作者のニヤニヤ笑いが思い浮かんで仕方ありません。
君が望む永遠*4では茜シナリオが好きな私としては、本作の展開は結構好み。お薦め。

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