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スウィングガールズ

『ウォーターボーイズ』は好きな映画だが、その監督である矢口史靖が女子高生がビッグバンドジャズを演る映画を撮るとなれば、なんとなく話の展開は読める。わざわざ映画館で観ることもないかなとも思ったが、映画館で観ないと後悔するという予感がした。

女友達を誘ったところ、「邦画はイヤだ」と断られたために一人で行くことにしたが、30過ぎの半ひきこもりのおっさんが一人で観に行く映画としてはどうなんだろう、傍から見たら犯罪者予備軍だろうか、などと考えてしまうところが我ながら自意識過剰というか、小心である。

レイトショーで観たのだが、例によって時間に遅れそうになり(最近この繰り返しなのだ)、一度ならず引き返そうかとも思ったのだが、今から考えるとそうしなくてよかったよ、ホント。もっとも時間ギリギリ、というか時間過ぎてから入場したため、前から三列目で結構な角度で観る羽目になったが。

ストーリーは大方予想した通りだった。矢口史靖という人は、例えばテレビ番組に出ているのを見ても、ぱしっとしたコメントが出せる人で、結構テレビ的なのだと思う。そうした彼の演出を小気味良いと思うか、小賢しいかと思うかで好き嫌いが分かれるのかもしれない。本作はいささか脚本に小手先で片付けたようなところが目だった。というか、いくらなんでも強引過ぎると呆れてしまうところがいくつもあったし、伏線は張ればいいというもんじゃなく、ちゃんと昇華されないといけないんだよ。公式サイトを見ると、スウィングガールズ全員についてちゃんと設定を用意してあって面白いのだけど、もっとちゃんと映画本編の脚本詰めろよ、と言いたくなる。

さて、少し苦みばしったことを書いたが、それを全部踏まえた上で書いておきたい。だからなんなんだ、と。この映画は最高である

映画の展開は観る前から大方読めている。類型的なストーリー、と書いてしまったもいいだろう。しかし、例えば『スクール・オブ・ロック』が、ロック以外にも置き換え可能な題材でありながら、この上なくロックの可笑しさを伝えてくれたのと同じマジックが本作にはある。「女子高生がジャズを演る」というのにピンときた興奮を、山形米沢という舞台設定もあわせ、見事に映画一本で展開しきっている。前から三列目で急滑降状態で観たことは上に書いたが、同じ列に一人しかいなくてよかったよ。だってずーっと顔が緩みっぱなしだったもの。こんな顔を見られたら、それこそ犯罪者(以下略)

ワタシは眼鏡っ子に萌える趣味はないので、素直に主演の上野樹里が良いと思ったわけだが、主要なキャスト全員キャラが立っており、多くの人が感情移入できるストーリーになっている。『ウォーターボーイズ』を観たときも思ったが、一種の青春モノでありながら、明確な悪役が登場しないのも矢口史靖の映画の特徴かもしれない。あと同じく恋愛モノとしての要素が薄いのもポイントである。これに不満を覚える人もいるかもしれないが、考えてみれば前作だって、実は恋愛の要素は薄かった。個人的には、ガキの恋愛など見ても仕方ないので(と無理して大人ぶる)、本作のようにジャズという対象にフォーカスを絞った作りでよかったと思う。

やはりなんといっても、彼女達の演奏シーンが素晴らしい。結局はそのための映画といってもよいだろう。ワタシは『スクール・オブ・ロック』について、「終わってから拍手をしたくなった映画は久しぶり」と書いたが、終盤(劇中の観客と同様)立ち上がって歓声を送りたくなった映画ははじめてである。思えば、上映後明かりがつくまで誰一人席を立たなかった(多分)というのもワタシ的にははじめての経験かもしれない。それぐらいラストの演奏は素晴らしく、やはりこれはスクリーンで観る映画である。

あとワタシ的には、ジャズを日常的に聴くようになっていて良かったなぁと思った。だって、いくら上野樹里が良くても、演っているモノに拒絶反応があったら仕方ないし。

しかしなぁ、それだけ素晴らしい演奏だっただけに、もっとちゃんと伏線を張っておけば、最後の各人のソロのときに一層盛り上がっただろうに、あと十分くらい長くたってよかったろうにと思うのだが……などとまたしかめっつらしいことを書くのは、こういうことを書かないと興奮が収まらないからである。

近いうちにもう一回観に行きます。

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