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このページは YAMDAS Project の更新履歴ページです。
『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の解説を担当くださった arton さんの著書『独習C 新版』が刊行とのこと。
C言語を愛するワタシ的には素晴らしい話である。しかも arton さんは日記で、「正気に正直に言って、Cの入門書としては素晴らしいできの、Cを学習するなら、これしかないものを作ったつもり」と自賛されている。
関係ないが、ふと『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の解説を書かれたとき、この『独習C 新版』の執筆が佳境の時期だったのではないかと思い当たり、恐縮してしまったのだが、以下のくだりには驚いた。
書籍購入者用の特典PDFというのがあって、いろいろ案を作ったが、最終的にすごくハイコンテキストな内容にしたのは、おそらく特典執筆直前に読んだ「もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来」の影響だと思う。そのくらいあの特典(ボーナストラック)はすごかった。
L'eclat des jours(2018-02-16)
ワタシの本が arton さんの新刊に何かしらの影響を与えたというのは、恐れ多い話である。でもまぁ、確かにすごいからね、ワタシも自賛させてもらおう。
さて、引き続き fayenil さんに誤記の報告をいただいており、サポートページの正誤表に反映させてもらっている。
どうも『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応も一段落したようなので、またブログは休止期間として、ベータ版のアップデートなり、正式版昇格の際にまたプロモーションを再開する感じになりそうである。
といいながら、新たな反応を見つけたら、喜んで出張ってくるつもりですがね(笑)。
技術系コミュニティ運営に関わる人々にコミュニティ運営論を聞くポッドキャスト Community Drive の記念すべき第1回である高橋征義さんの回が文字起こしされている。
各回100円の値段設定がなされているが、全文無料で読める。文字起こしは大変だが、情報の検索性の上で有用なので、とてもありがたい試みである。
現在のワタシにとって、高橋征義さんはなにより達人出版会の人ということになるが、このポッドキャストでは日本Rubyの会の代表理事として Ruby コミュニティ、そしてIT技術書の即売会である技術書典の運営について語っている。
高橋さんの穏やかで飄々とした語りが安心して読める内容だが、以下のあたりが特に面白かった。
高橋:他にもお金の話でいうと、RubyKaigiが大きくなると予算もすごい膨れ上がるんですよ。そのうち予算が私の年収を超えてしまうようになって。さすがにこれはいろいろヤバイのでは?という感じになってきました。たとえば開催がコケたらそのお金はどうするの?というような感じになってくるわけじゃないですか。
「コミュニティイベントの予算が個人の年収を越えた」Community Drive 第1回再録 高橋征義さん?|Community Drive|note
高橋:技術書典はどちらかというと技術を広めたいとか、技術を広く知りたいという声に応えましょうというイベントの主旨なので、本を出版したいという気持ちもあるのだけれど、それとは別に、それ以前に、それ以上に、情報を発信したい、もっと広めたい、みんなで使いたいという気持ちがすごく強い。
「商業出版に見合わないくらい先端の技術が集まる技術書典」Community Drive 第1回再録 高橋征義さん?|Community Drive|note
高橋:最近はあまりROMらないで、いきなりやってみて失敗したり成功したりみたいな感じで。情報はたくさんあるから、普通に情報収集はみんなしているのだけれども、みんな失敗している。こうすれば失敗するよというような情報を、あらかじめ伝えておけばいいと思っていたのですが、やっぱりそれはできなくて。自分で経験しないとダメなのかしらと。
コミュニティにも、コミュニティの成長というか進化みたいなものがあって、それは最初のよくわからないところからはじまって、段々成長していくということをコミュニティ自体が繰り返さないとダメかしら、と。
「車輪はどんどん再発明されるべき」Community Drive 第1回再録 高橋征義さん?|Community Drive|note
運営者としてだけでなく、高橋さんが新参者と語る青空文庫の長期的な話も興味深い。
およそ6年前に企業サイトにおける忘れがたき個人のコラムやエッセイについて書いたことがあり、その中で仲森智博さんの「思索の副作用」について触れたことがある。
「思索の副作用」は上のリンクから現在も読めるのだが、どういうわけか今月から思索の副作用、ベストセレクションとして代表作5本が再掲載されている。
今読んで、スッゲー詰まらなかったらショックだなと怖くなったが、たまたまそのうちの1本「スチュワーデスが見える席」を読むと、やはり面白かった。
話の枕に「奇跡のリンゴ」が取り上げられているが、そのその後を知ると、なかなか趣深いものがある。
これを契機にこの連載を見直す人が増えるといいなと思う。
なお、6年前の文章で「書籍化は難しいだろう」と書いているが、2014年に電子書籍化されていた。
Twitter のタイムラインに流れてきたツイートにおっとなった。
300分の1の軍艦島3Dプリント完成。ミマキエンジニアさんの世界初のフルカラー3Dプリントでホタルコーポレーションさんが印刷。 pic.twitter.com/4FWXAvOVmk
— AKira Demizu/でみずあきら@2/18軍艦島トークwith佐藤健寿氏in長崎 (@DemizuAkira) February 10, 2018
いやすごいねぇと関連情報を検索したら、「軍艦島まるごと3D印刷 480分の1サイズに再現」という朝日新聞デジタルの記事があった。
「印刷」したのがいずれも株式会社ホタルコーポレーションとなっているので、同じ情報元だろうが、縮尺は300分の1なの? 480分の1なの?
まぁ、どちらでもいいか。おそらくは長崎大学の軍艦島3Dプロジェクトの成果を利用したものだろうが、そのあたりの全体像が分かる記事ってウェブにないのかな。
軍艦島に上陸したのは6年前に一度だけの人間が言うのもなんだが、長崎生まれの人間としてこういう取り組みには感謝したくなる。
サタデー・ナイト・フィーバー スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]
先日、BS プレミアムで放送したのを録画しておいた『サタデー・ナイト・フィーバー』を観た。実は、この有名すぎる映画を今まで観たことがなかったのだ。
正直、観ないままこの映画をちょっとバカにしていた。ほら、要はディスコ映画なんでしょ? 恋愛要素が主なチャラチャラした青春映画で、ビージーズの曲でジョン・トラボルタがあの決めポーズをとってハッピーエンドなんでしょ? みたいな。
もちろん恋愛要素がある青春映画で、トラボルタが踊るディスコ映画なんだけど、まったくチャラチャラしてないし、娯楽映画らしいスカッと感すらないのにビビった。
家族の問題などいろいろ語るべきあるポイントはあるが、映画のクライマックスだけとってもすごい。ディスコのダンスコンテストに出るみたいなストーリーは知っていた。もちろん、そのコンテストで踊る相手がヒロインなのも誰でも分かる。
しかし、このコンテストにトラボルタはひどい状態でかけつけるのである。外見的なケガはともかく、その原因となった大立ち回りに、ぶちかましてやったぜ的なカタルシスはない。
で、問題のコンテストでのダンスはいいのだけど、この映画を観た人なら分かる通り、それでハッピーエンドでもなんでもないのである。というか、コンテストの結果が気持ちよくないし、その後もすっごく後味が悪いことになる。
この映画を娯楽映画として消費してた当時の観客って何観てたんだ?
主人公のトラボルタは、劇中アル・パチーノに似てると言われ、部屋にはってある『セルピコ』のポスターを見て、それを思い出しながら、『狼たちの午後』の台詞を叫ぶ。
さらには彼の家には『ロッキー』のポスターもはってあるのだが、『サタデー・ナイト・フィーバー』の続編をスタローンが監督・脚本で撮ることになるのはご存知の通りである(もちろんワタシは未だ観てないです)。
70年代前半に隆盛を極めたアメリカンニューシネマは、『ロッキー』によって完全に流れが変わったみたいに言われる(参考:町山智浩『映画の見方がわかる本―『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで』)。
しかし、『サタデー・ナイト・フィーバー』は『ロッキー』後の映画にもかかわらず、しかもディスコという享楽的な文化をテーマとしながら、(『セルピコ』や『狼たちの午後』同等とは言わないけど)ほとんどアメリカンニューシネマな映画といっていいのではないか。
この映画の登場人物は、イタリア系が多く、言葉数も多い。しかし、同時にこの映画は、その言葉がまともに取り合われなかった人たちの物語でもある。街の「顔」であるはずも主人公も例外ではない。
例えば、ウディ・アレンの『マンハッタン』は大好きな映画だが、『サタデー・ナイト・フィーバー』を先に観ていたら、あの有名な場面の見方も少し変わっていただろう。
まったくふざけたこと書いてるヤツがいるねと思ったら、ワタシのツイートの引用だったりする。
そういえば、ブロガーサミット2013でお会いしたとき(4年半前になるのかよ)、加野瀬さんに「yomoyomoさんは、はてなブログには移らず、ダイアリーを使い続けるんですよね?」と聞かれ、予想外の質問にごにょごにょと言葉を濁してしまったことがある。上のエントリで引用されているように、ワタシは運営元から強制移住させられるなり、ダムの底に沈められるまで、はてなダイアリーを使い続ける、と宣言させてもらおう。
その理由? ワタシがブログの引越しとか考えただけで気持ちが萎える重度のものぐさなぐうたらで、なおかつケチだから。
さて、折角なので、これを機会に未だに(はてなブログには移転せず)はてなダイアリーを使い続けている著名なユーザをまとめてみようと思った次第である。飽くまでまだ利用しているというのが肝なので、この半年で少なくとも一度は更新があることを条件とさせてもらう。
……という条件で選び始めたら、80名近く(!)になってしまったので、ツイートの転載のみの人や企業運営のダイアリーを外し、はてなグループユーザも対象外として、50名強まで絞らせてもらった。
ワタシが知らない分野などいくらでもあるので、この人がなんで入ってない! というのがあるに違いないことは予め書いておく。ご不満のある方は、はてなブックマークや Twitter なりで指摘されるとよいと思います。
以下、五十音順。敬称略。
株式会社はてなには、これだけのユーザベースが残るサービスを軽んじないでいただきたいと切に願う。
今更ではあるが、音楽の世界ではグレートフル・デッドの作詞家として知られ、ワタシのようにネットに生活の重心がある人間にとっては、なんといっても電子フロンティア財団(EFF)の共同創始者にして、「サイバースペース独立宣言」の作者であるジョン・ペリー・バーロウが先週亡くなったことを取り上げなくてはならないだろう。
彼の訃報に際して、いくつも追悼文が出たが、平和博さんのエントリがそれらのよいまとめになっているので、彼の業績を把握したい人にお勧めする。
個々の追悼文では、やはり EFF の簡潔明瞭な追悼文がよかったし、スティーヴン・レヴィの文章がもっとも胸に迫るものがあった。
レヴィが書くように、バーロウの思想を本にまとめてほしいと願った人たちは多かったろうが、その死の前に自伝を書き上げてくれていたのは、せめてもの慰めである。邦訳出てほしいな。
Mother American Night: My Life in Crazy Times
Mother American Night: My Life in Crazy Times
ワタシの文章では、「「自由の真の代償」と「自由の真価」 〜 サイバースペース独立宣言を越えて」が、言うまでもなくジョン・ペリー・バーロウの仕事なくしてありえないものである。これを書いて、ほぼ10年になるんだな……。
3年前に書いた、「20年後:インターネットの自由という夢の死」と「我匿す、ゆえに我あり」はその続編と言えるし、ワタシなりのやり方でバーロウの仕事を継ぐものであった。
そういえば、フレッド・ウィルソンはバーロウについて、以下のように書いている。
John Perry Barlow understood what the Internet was, what it could be, and what it must be before most of us did.
no title
これはバーロウについて的確に表現した一文だと思うが、特に it could be というところで、ワタシは自分が書いた「思想としてのインターネットとネット原住民のたそがれ」を思い出してしまう。彼は、間違いなく誇り高きインターネット原住民だった。
そうした意味で、『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』自体、バーロウらのレガシーを踏まえたものとさえ言えるだろう。書名からも分かる通り、とても楽観的とはいえない本であるが――
柳瀬博一さんの note の「メディアの話」シリーズが面白いのだが、メディア論を語る上で何度も引き合いに出されるのが、マクルーハンと、リチャード・ドーキンスの代表作『利己的な遺伝子』だったりする。実はこの超有名な本を未読なのを恥ずかしく思っていたのだが、その40周年記念版が今月出るのを知る。
『利己的な遺伝子』を薄めた通俗解説本の類なら読んでいるが、ご本尊はまだという人はワタシ以外にも多い……よね? これがちゃんと買って読む好機なんだろうな。
日立の Open Middleware Report Web にある、仲俣暁生さんのインタビューシリーズ「数理的発想法」はよく読んでいるのだが、書籍化されたとな。
数理的発想法―“リケイ”の仕事人12人に訊いた世界のとらえかた、かかわりかた
これも高須正和さんの『世界ハッカースペースガイド』と同じく翔泳社のオンデマンド出版シリーズなのだな。
ウェブで読んでいたのは、結城浩さん、江渡浩一郎さん、増井俊之さん、河村奨さん、地藏真作さんという、ワタシが知った人が登場していたからというのが大きかったが、他にも高野文子、藤井太洋といった表現者がインタビューイなのも仲俣さんらしい目配りなのかなと思ったりする。
世界ハッカースペースガイド (CodeZine BOOKS)
高須正和さんの新刊『世界ハッカースペースガイド』については先月取り上げたが、その後恵贈いただいたので、少し感想を書いておく。
これを読んで改めて感服するのは、著者である高須さんの行動力である。彼は確か、ワタシと年齢は一つ違いだったと思う。つまり、既に彼もワタシもまぎれもないオッサンである。それでも彼の行動力が、彼のたたずまいを若々しいものにしている。
アメリカ、ヨーロッパ、アジアのハッカースペースに実際にずんずん取材し、まとめた本なんて世界初ではないか。折角なら一つくらい日本のハッカースペースの現状も書いてほしかったとか、ほぼすべてのハッカースペースの訪問難易度が「最も簡単」なのはどうなんだ、といった不満というかアラを探せばあるが、大した話ではない。
本書に引用されている、もはやこの界隈の重鎮であるミッチ・アルトマンの文章は、ある意味感動的ですらあるし、「ハッカースペースは「おまいら」の場所だ」という本書の精神を言い当てている。
ぼくらはひきこもりで内向的なオタクだから、誰とでも話したいわけじゃない。でも、ハッカースペースやハッカーカンファレンスに参加している連中はほぼすべてが内向的なオタクだ。しかも彼らは、おそらくクールなプロジェクトを持っている(または考えている)内向的なオタクなんだ。だから、「どういうことをやっているの? 試させてもらえる?」と話しかけることで、簡単に会話を始めることができる。
そうやって話しかけたからと言って君の人格が変わるわけじゃない。君が独自の趣味を持ったコミュ障のオタクであることはすごく大事な、いちばん良いことだ! それでも、生涯の友人になるかもしれない人々に会うことができる。その人に会う前にあなたが興味を持っていなかったことに興味を持つこともある。オタクとの出会いは人生を変えるかもしれない。
本書に収録されている SexyCyborg のインタビューは、ワタシも最初読んだとき、なんだこりゃ? と呆れたものだが、改めて読み直すと、今話題になっているトピックをいくつも掴んでいて唸った。
このインタビューで彼女は Dale Dougherty のことをボロクソに言っているが、最新の Make 誌の表紙はなんと彼女である。こうして彼女は現実をまた一つ変えたのだ。
『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、ここでも何度か反応を紹介している id:pho さんが、ブログに感想をまとめてくださった。
これまでyomoyomoさんの解説や文章はわりとニュートラルでさっぱりとしたものが多かったと記憶しているのだが、本作では割と踏み込んでいたり、多少自虐があったり、好き嫌いを明確にしていたり、感情が見え隠れしていて意外だった。電子版についているディープな付録を読んだ今ならその理由が想像できる。いずれにせよこれほど密度の濃い内容を楽しくとても深く読めるこの本は貴重なのでぜひともおすすめしたい。
もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来 - pho's blog
電子書籍からの引用を多く交えた、ポイントを押さえた文章になっているので、興味はあるが、内容的に自分の関心に合っているか知りたい方がいたら、ご一読されてみてはいかがでしょう。
あとブレイディみかこさんから、「波」2018年2月号に掲載された星野智幸『焔』(彼女は『焔』の帯にもコメントを寄せている)の書評「蛇行する境界線」について連絡をいただいた。
ブレイディみかこさんには、お返しというわけではないが、達人出版会のページで、円城塔さん、堺屋七左衛門さんとともに主要な反響として引用させていただいたことをお知らせしておいた。
「オープンソース(ソフトウェア)」という言葉が発明されて20年になるとのことで、Open Source Initiative はサイト上でそのお祝いをしている。
「オープンソースソフトウェア」は、「フリーソフトウェア」を企業経営者などのビジネス人種に受け入れてもらうためのプロモーション、マーケティング用語として作り出されたものだが、実際にそれを提案した Christine Peterson が、その当時を回想する文章を書いている。
この言葉が、当時「伽藍とバザール」により一躍時の人だったエリック・S・レイモンドなどキーマンが出席した会議で認められたことで一挙に拡散されるわけだが、その界隈で無名に近かった Christine Peterson の提案が受け入れられる過程について書いている。やはり、後に Open Source Initiative を立ち上げることになるエリック・レイモンド、そしてティム・オライリーの推薦は大きかったのだね。
それが20年前、つまりは1998年2月初旬に起こったことなのだが、「オープンソース」という言葉とともに、当時のドットコムバブルにあわせて Linux 界隈もバブル化し、それがドットコムバブルの崩壊とともに苦境に陥る2000年あたりまでの狂騒は、昨年佐渡秀治さんが書いているので、未読の方にはぜひご一読をお勧めする。
Christine Peterson の文章は、佐渡秀治さんの文章では「オープンソースの誕生」が対応しているが、日記で書かれた文章をまとめて書籍化してくれないかと思う。同じように思った編集者はいないのかしら。
オープンソースソフトウェア―彼らはいかにしてビジネススタンダードになったのか
かつてマイクロソフトでビル・ゲイツの右腕役を務め、「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」とも評されたネイサン・ミアボルドは、金に糸目をつけずに料理をとことん科学で殴った豪華料理本を出しているが、調べものをしていて、その続編となる本 Modernist Bread を昨年秋に刊行しているのを今更知った。
Modernist Bread (Modernist Cuisine)
今回は、タイトルから見るにパンに対象を絞っているようだが、それでも5分冊、全2500ページという分量にしろ、7万円近くの価格にしろ、まったく手加減していない。世界でもっともパンに詳しい本だったりして。
ネイサン・ミアボルドの料理へののめりこみぶりについては、TED 講演も参考になるが、このような道楽ができる金持ちは素晴らしいね。
分量的にも価格的にも邦訳は前作同様期待できないが、これは仕方ない。
今年のアカデミー賞にも最多ノミネートされている新作『シェイプ・オブ・ウォーター』の3月1日の公開が待ち遠しいが、ギレルモ・デル・トロ(について)の本が今月から複数刊行される。
まずは、『シェイプ・オブ・ウォーター』のフィルムメイキング全過程の記録本。
ギレルモ・デル・トロのシェイプ・オブ・ウォーター 混沌の時代に贈るおとぎ話
そして、『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ自身による小説版。
来月には、『シェイプ・オブ・ウォーター』にもっともテイストが近いと思われる、彼の最高傑作(現時点)についての取材本。
ギレルモ・デル・トロのパンズ・ラビリンス 異色のファンタジー映画の舞台裏
上記3冊中2冊は DU BOOKS が版元で、ホント良い仕事してるね。
ギレルモ・デル・トロというと、日本では『パシフィック・リム』における特撮ものや怪獣映画大好きなオタクというのがパブリックイメージになっていて、もちろんそうでもあるのだが、『パンズ・ラビリンス』のような、虐げられるものへの確かな目線がある、繊細なダークファンタジーに本領がある人だと思う。
そうした意味で『シェイプ・オブ・ウォーター』を観るのが今から楽しみである。主演のサリー・ホーキンスも、『ハッピー・ゴー・ラッキー』で知って以来好きな女優さんだし。
スリー・ビルボード【DVD化お知らせメール】 [Blu-ray]
2018年最初の映画館での新作鑑賞は、評価の高いこの映画から。
本作の監督であるマーティン・マクドナーの作品は、『セブン・サイコパス』を観たことがあった。あの作品も話の展開が読めない上質のブラックコメディだったが、中西部ミズーリ州の田舎町で、娘をレイプされて殺された母親が、タイトルにあるように3枚のビルボードに警察への怒りをこめたメッセージを掲示することで巻き起こる本作も、「話の展開が読めない上質のブラックコメディ」という点でさらに上をいく傑作だった。
主役の母親を演じているのがフランシス・マクドーマンドで、彼女は同じく中西部の田舎町を舞台にした『ファーゴ』において、聡明でしっかり者の警察官を演じてアカデミー賞主演女優賞を受賞しているが、本作ではその対極に近い、欠点だらけの直情的で容赦のないがらっぱちな女性を演じていて、すごくよかった。
観客は最初、娘を喪った主人公に同情しながら観るのだが、その主人公も上に書いたように多くの欠点を抱えた女性であり、というか登場人物がほぼ皆、人格的な欠点や弱みを抱えている。この言葉は使いたくないが、ホワイトトラッシュたちの怒りと憎しみと悲しみが出口なしに渦巻きながら思いもよらないほうに物語が転がっていく。
登場人物の中で唯一清濁併せ呑む懐の深さと強さを示す善人の保安官をウディ・ハレルソンが演じているのも面白いし、人種差別的で、どうしようもなくボンクラな警官を演じるサム・ロックウェルが『セブン・サイコパス』に続いてとぼけた感じで好演している。
保安官が部下に託したメッセージが思いもよらないもので、それがある種の救いにつながるのかと思いきや……ラストでの主人公と警官のやりとりまで目が離せない映画だった。
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